永遠に、幸せになりたい。    by gorosuke

真夜中、いいおっさんが独り海に向かって延々と竿を振る。
アホだな。でもこのアホ、幸せなんだよなあ。

輪島エギングバトル・ダービー顛末記

2011-11-01 | アオリイカ
さて、その後ダービー後半戦の顛末である。

仕事も煮詰まっていたが、ダービーの決着のこともある。
ガキじゃあるまいし、釣りなど置いて、仕事に専念しなければ、と思わぬではなかったが
しかし、バカたれと言われようが、アホといわれようが、ガキといわれようが、ダービー後半戦を迎え、ここで釣りを置くことは出来なかった。
もうとことんやってみるしかなかった。

と、まず訳の分からない言い訳をしておく。

でだ、昼はうんうんと仕事に向かい、釣りは夜出かける事にした。


10月13日の釣りで26センチ850gと22センチ550gが出てエギングダービーの暫定トップに立った。
3匹の合計は1806g。そんなものすぐに抜かれるだろうとは思ったが、
今シーズンは全体的にイカのサイズが小さいらしくそれくらいの重量でも2位に随分の水を開けていた。

その後は海も大荒れとなり、仕事のこともあって暫く釣りに出かけなった。

18日夜。少し収まったというので出かけて見た。
収まったといっても2メートルの波。そのせいかアタリ一つなかった。

19日夜、さらに波が収まったようだったので行ってみたが、前夜と同じくサッパリアタリがない。海にイカの存在感がなかった。
イカ釣りで坊主というのは滅多にない事だが、それが2日連ちゃん続くなんて!!・・・・・

この二晩は釣り場で輪島のイカ釣り猛者エギンガーさんと偶然出会ったが、彼も全くアタリがないというから先日来の大荒れでイカが大挙してどこかへ行っちまったのか?と本気で思ったほどだった。

この時、エギンガーさんからキロアップを上げた若者がいるとの話を聞いた。
でも、3匹の合計でかろうじて私がトップを維持しているらしかった。
キロアップを持っているのは強い。抜かれるのは時間の問題であろうが、
どちらにしても後一匹25センチクラスを出さなければ話にならないように思えた。

帰り道、道路の真ん中に何か違和感のある存在。
車を停めてバックし、車を降りて見てみると
なんと、毛ガニだった。それもでっかい。
近づくとハサミを精一杯広げて威嚇するのだが
その様はなんだかフレーフレーと私を励ましてくれているようで笑っちまった。




ともかく、海が収まるのを待つしかなかった。

22日、海はやっと凪ぎに近い状態になった。
このところ目指すポイントはどうやらメジャーポイントらしく、いつも先客が入っている。
日が暮れるまでまだ時間があったが、この日も先客が二人いた。
一番の釣り座は塞がっているので、隣の岩に乗りキャストを始めた。

さて、イカはいなくなったのかどうか?
それが気になったが数投目に18センチが乗った。
久しぶりのイカの手応えだった。
どうやら、イカたちはどこかへ行ったわけではないようだ。
とすれば、荒れが原因だったか。何となくホッとする。



その後も20センチサイズがぼちぼちと出て、そのうち22センチも出た。



こいつは計量済みの20.5㎝と入れ替えることができるサイズだが、
狙らうのはあくまでも25センチクラス。

しかし、その後、同じ調子でぼつぼつ来るものの、それを越えるようなサイズはついに出なかった。


明くる朝、塩谷で計量してもらうと1936gと少しアップし、まだかろうじて暫定トップを維持していたが、話に聞いていたキロアップを上げた若者がすぐ後ろに迫って来ていた。



なんでも、計量してくれた若旦那が言うにはこの時点で500g以上は4匹しか出ていないのだとか。
4匹というのは若者のキロアップと私の3匹である。

ふむ、そんな状況なのか、と多少驚いたが、
私としてはとにかく25センチクラスを後一匹釣りたいという思いだけがあった。



それから一週間後の28日。
最後の勝負を賭けるつもりで出かけた。

夕方早めに出かけたのだが、その日も3人の先客があり、主な釣り座は既に塞がっていた。

仕方ないので、彼等と離れた岩を見つけそこでキャストを始める。
あまり釣れないのだろう、普段、誰も乗らない岩である。

だが数投後、乗った。18センチ。
まんざら釣れない事もないらしい。



暫くして、先客の一人が帰り支度を始めたのでさっそくその釣り座に移動する。
どう考えてもそちらの釣り座の方が有利なのだ。
先客は上品な初老のおじさんで、午後になって来たが暗くなる前に帰るのだという。
手には数杯イカの入ったナイロン袋を下げていた。穏やかな笑顔のおじさんだった。

そこで一時間やっただろうか、辺りがすっかり暗くなってから残りの二人も帰り支度を始めたので再度、その釣り座に移動する。
潮の流れからしてやはりその釣り座がこのポイントのナンバーワンなのだ。

二人のうちの一人が私を見るなり
「ゴロスケさんでしょう。」と言う。
あらら、久しぶり。輪島の名人として知られる名物釣り師のおじさんだった。
暫く、岩の上で釣り談義が盛り上がった。ホントに釣りが好きなおじさんである。
昼過ぎからやっているがあまり釣れない、デカイのはさっぱりだ、とにこやかに笑うのであるが見せてくれたクーラーボックスには相当数のイカが入っていた。
流石である。

さて、誰もいなくなった海、そこからが本番だった。
海は凪ぎ、追い風である。状況は上々であった。

釣り始めからぼつぼつと20センチクラスが出ていい感じ。



そのうち、一際重いやつがヒット。
心は弾んだが、測ってみると手応えの割には小さく22センチ。



その後も掛かりはするものの、赤イカだったり、20センチ弱が続き、次第にアタリが遠のいていった。




結局、また22センチ。なかなかそれを越えてくれない。

帰ってから私の秤で22センチを測ってみると550gだったので、前回の22センチより僅か12g重かった。
僅か12gと思ったが、されど12gである。
たった12gのためにわざわざ20キロ走って輪島まで計量に行くか?
行くんである。
その後のダービーの経過なども知りたかった。

翌朝、塩谷釣具へ出向き計量してもらうと前夜の22センチは552gで14gアップの1950gとなったが、予想通り、暫定2位になっていた。
暫定トップは勿論キロアップを持っているお兄さんである。
(この時の順位表の写真を是非アップしたかったがデジカメを忘れてしまった。)

トップとの差はおよそ90g。
逆転するには650gを一匹釣ればいいわけである。
650gといえば恐らく23~4センチだろうな。

残す日にちはその日も入れて後3日だった。
昨夜が勝負を賭けた最後の日のつもりだったが
ここはすんなり引き下がるわけにはいかない。



その日29日の夕方、一発逆転を狙った。

日曜なので、先客がいる事は覚悟していたが、予想外に二人だけだった。
ナンバーワンの岩に二人乗っているが、隣のナンバーツーの岩は空いていた。
その岩に向かって崖づたいに降りていると、先客の二人が竿を収め帰り始めたではないか。
その彼等とすれ違う。

「釣れましたか?」と訊いてみると、
「昼過ぎからやってましたが、駄目ですね。」と笑う。
物腰の柔らかい中年の二人だったが、彼等がやっていたのはイカ釣りではなくクロダイだった。
「イカなら釣れるかも分かりませんね。頑張ってください。」と去って行った。

幸運だった。
少なくとも半日はそのポイントで誰もイカ釣りをやっていないのだ。

釣り座に立った。
土曜日の夕方、波は1メートル弱、追い風、という状況でこのポイントに誰もいないというのは奇跡に近い出来事に思えた。

確かにこのところ数は出なくなった。成長したイカは警戒心が強く、簡単には掛かってくれない。気分のいい日中の釣りは難しくなっている。
しかし、だからこそ釣りとしては面白い。
根掛かり覚悟で底を取り、微妙なアタリを感知しやり取りする。
数は出ないが掛かればデカく、その引きと手応えこそがイカ釣りなんである。



まさに陽は水平線に落ちんとし、波はザワザワと囁き合い、潮もゆっくりと動いていた。
なんだか胸騒ぎがするではないか。
こんな時はチャンスなんである。
一発逆転には23センチ、650g以上の大物だが、
目の前の海にそやつの存在をリアルに想像出来た。

先ずは正面にフルキャストする。
エギが沈むのを待つ。潮が動いているせいか3.5号エギはカウント55~60で着底する。
まずは大きく鋭く二段しゃくり、続けてパンパンパンと小さくダートさせ、またフォール、着底を確認し、イカの存在を探り、イカがいないようならまたしゃくる。

根掛かり覚悟の底べたの釣りである。
私の場合、夜、底ベタを狙う場合、エギの動きは少ない方がいいと考えている。フォール中に抱かせるというより、底でちょこちょこ小さく動かしイカを誘うのである。だからなるべくダート幅の少ないエギを使う。

エギを底で小さく動かしながらイカの存在を探る。
もわっと重くなったり、そうっと引っぱったり、反対にテンションが抜けたりするとアタリである。
しかし、これは藻の上に乗ったエギが藻の揺らぎに引っぱられることもあるわけで、アタリと思って合わせると、ロッドに乗った重さがイカであるか根掛かりであるか、当るも八卦、当らぬも八卦という、きわどい釣りなのである。
イカが触っているのが分かることもあるが、イカか藻かの微妙な感覚の違いは今のところ私には明確には分からない。

私はPE0.8号にフロロカーボン3号のリーダーをつけているが、根掛かっても、藻の触り始めに回収すればまずは藻を切って回収出来る。
しかし、5~6時間やるのであればエギの一つや二つはロストする覚悟はしておかねばならない。

勿論、このやり方は底に藻がびっしり繁茂している状況では難しい。
そんな時は、藻の少し上で勝負するしかない。
やはりエギのロストは少ないに限る。


とまれ、2~3投目、乗った。
藻の塊が底から剥がれ上がって来るという重さだった。
でも藻ではない。躍動する生体反応が伝わって来る。
重かったが玉網を使うまでもないサイズ、
上げてみると22センチ、500gはあるだろう。



最初からこのサイズである。
自ずと期待に胸は膨らんだ。


で、その直後だった。

遠くからエギを寄せて来て真ん中あたりの底、
ここがこのポイントのホットスポットのように思われるその地点、
着底後、ちょっと間を置いてクンと軽く合わせてみると、
クンと重さが乗った。
ロッドをゆっくり煽って引き寄せると、もわーっと重さが着いて来る。
こいつも藻ではなかった。

そして、いきなりロケット噴射の嵐である。
強烈だった。
堅く締めているドラグが噴射の度にジーッ、ジーッ!!と出る。
激しくロッドがお辞儀を繰り返し、リールを巻くどころではなかった。
勿論、こんな引きは今季初めてのこと。

強烈な引きをロッドでいなし、余裕ができるとリールを巻いて少しづつ寄せて来る。

やがて海面に浮き上がったそやつはデカかった!!
淡黄色の巨体が波間をゆらゆらと近づいて来る。
そして、勢いよく暗い空中に水を噴射する。太く高く上がる水柱。

そやつが今季最大の26センチ850gを越えているのは一目瞭然だった。
これなら逆転できる!!
よし!!


近くまで寄せて用意しておいた玉網を入れたが
イカが重過ぎてロッドを持つ右手だけで寄せきれない。

一旦玉網を置いて、リールを巻き両手で更に足元まで寄せ
再び玉網を入れる。

なんとかイカの全身が玉網に入った!!
して、玉網を抜き上げようとしたその時、
波が押し寄せ、玉網にかぶった。

と、その拍子に、あら!!!
入った筈のイカが玉網の外へ。
エギは玉網に絡んだまま。

イカは黄色い巨体を翻し、悠々とあざ笑うように海面を遠ざかって行くではないか。

腰が抜けちまった・・・・

ほんと。

頭真っ白け。


この喪失感は
もう少しでものに出来そうな彼女に土壇場で逃げられたのに似ている。

イカが遠ざかって行くと同時に「優勝」も遠ざかって行ったのだ。


その後、12時まで粘ってみたが、気もそぞろ、
それでもと、気を入れ直しやってみるが
二度と再びデカイのは出なかった。




千載一遇のチャンスは逃すと二度と来ないのだ。

逃がした獲物はデカイというが、
あのあざ笑うように遠ざかる淡黄色の魚体は生涯忘れることができぬほど鮮烈な映像となって我が脳裏に焼き付いたのだ。

ダービー締め切りまであと2日あるが、

私の勝負はこれで終わったのだと思った。




だがしかし、明くる日30日の夕方、
雨が降っていたが、やはり出かけたのである。

ここまでくれば、結果はどうあろうと、最後までやるんである。
雨が降ろうと槍が降ろうと
ここで諦めたら男が廃るんである。


最終日の明日31日は風雨がさらに強くなり海が荒れるらしく、その夜がホントの最終日となった。


ポイントは同じ磯。
この日は雨が降っていたせいだろう、先客はいなかった。

空は雨雲に覆われ、昨日まで煌煌と輝いていた星々に代わって水平線には点々と漁船のライトが灯り、微かに凪いだ海面を照らし出していた。
戦いの終わりにふさわしい静かな海だった。

凪ぎは釣れにくいものだが、それでも底を拾うようにぼつぼつと掛かった。

何杯目かにひとつ重いやつが乗り、ひょっとしたらと期待するが
またしても22センチだった。(家に帰って測ってみると500g。)



そのうちイカ釣り師エギンガーさんが釣り友山口さんとやって来て3人での釣りとなった。
彼等もその夜に最後の勝負を賭けていた。

釣り友と一緒になんやかんやと言いながら釣りをするのも楽しいものである。
エギンガーさんのような熟達だと何気ない会話の中に学ぶべきものが多くある。

エギンガーさんが何杯か釣り上げ、山口さんも500gサイズを釣り上げた。
私は何故かアカイカばかりが掛かった。



10時頃になると、アタリは途絶え釣れる気配がなくなった。
粘りが信条の私だが、それ以上粘る気はなかった。

もう十分だった。

エギングバトルの最終結果は分からないが
ともあれ逆転優勝はならなかった。

しかし、目一杯、心の底から楽しかった。

エギンガーさんたちも今年は駄目だったようだが
それなりに面白かったといい顔で笑ってみせた。



海で力の限り遊んだ男たちの顔は輝いているんであった。


今回のイカ釣りで少なからず釣り師たちに出会ったが、
彼等の多くは若者ではなく、おじさんたちであった。
おじさんたちが子供のように夢中になって海と遊んでいる。
その姿は共感出来るものがあり嬉しいものであった。


これで私のイカシーズンは終わった。
最後に元気なイカの写真を一枚。
釣り上げた直後、水を吹き上げる瞬間である。
釣って楽しく、食ってうまかったイカたちに
心からの感謝を込めて。