スーダンはアラブ系政府と非アラブ系南部との間の第1次スーダン内戦、第2次スーダン内戦を経て、南部に自治政府が設置され、2011年7月8日、スーダンから独立して南スーダン共和国を成立させた。
独立から約2年後の2013年12月15日、首都ジュバでキール大統領とマシャール前副大統領を部族ごとにそれぞれ支持する軍の部隊同士の戦闘が発生、12月19日に東部ジョングレイ州のアコボで大統領の出身母体であるディンカ族の住民が国連のPKOの施設に避難していたところ、前副大統領の出身母体のヌエル族と見られる約2000人の武装グループが襲撃、PKOのインド人兵士を含め少なくとも13人が死亡したと、「NHK NEWS WEB」が伝えている。
この衝突が国連安保理の暴力停止、対話による解決要請の声明も効果なく、拡大傾向にあるのは前副大統領派の軍が優勢である証明としかならないが、ジョングレイ州でPKO活動に参加している隊員280人の韓国軍駐屯地に1000人以上の反政府軍が接近しているという状況にあることから、万が一の非常事態に備えて銃弾を補充することを決め、国連に相談、韓国軍所持の小銃に適合する銃弾は陸上自衛隊が所有しているという知らせがあり、韓国軍は12月22日、自国軍による補充が完了するまでの応急措置として日本に国連と共に弾薬の譲渡を要請。
日本政府は国家主義者安倍晋三以下、国家安全保障会議の関係閣僚が総理大臣公邸で対応を協議、PKO協力法の「物資協力」を根拠に武器輸出三原則の例外として自衛隊所有の銃弾1万発を国連を通じて韓国軍に提供する方針を決め、12月23日午後、持ち回りの閣議で正式に決定した。
マスコミ記事を纏めるとこういった経緯となる。
要するに日本政府は銃弾の韓国軍への提供を武器輸出三原則の範疇で解釈し、その例外とした。
因みに「NHK NEWS WEB」によると、各地のPKO施設には合わせて2万人の住民が避難しているというということで、PKO施設が避難場所化している様子を窺うことができる。
南スーダン共和国の国家建設に協力・参加している各国PKO部隊の駐屯地が戦闘に追われた住民の収容場所となっているというのは政治の非情を示すと同時に皮肉な状況を示す。
《韓国への銃弾提供による菅官房長官談話要旨》(時事ドットコム/2013/12/24-00:57)
菅官房長官(12月23日)「国連の要請は、わが国も参加するUNMISS(国連南スーダン派遣団)が行う活動の一環で、韓国隊隊員や避難民の生命・身体を保護するために一刻を争い、韓国隊が保有する小銃に適用可能な弾薬を保有するUNMISSの部隊は日本隊のみという緊急事態だ。
緊急の必要性・人道性が極めて高いことに鑑み、UNMISSへの5.56ミリ普通弾1万発の物資協力については、当該物資が韓国隊隊員や避難民らの生命・身体の保護のためのみに使用されることおよびUNMISSの管理の下、UNMISS以外への移転が厳しく制限されていることを前提に、武器輸出三原則等によらないこととする。
政府としては、国連憲章を順守する平和国家としての基本理念は維持しつつ、国際協調主義に基づく積極的平和主義の考えの下、今後とも国際社会の平和と安定により一層貢献していく考えだ」――
「国際協調主義に基づく積極的平和主義の考え」からの銃弾提供だとしている。
但し日本政府は今回の韓国軍への銃弾提供をPKO協力法の「物資協力」を根拠としたが、過去の国会答弁では(物資協力)は「武器や弾薬は含まれず、国連側からそういった要請があると想定しておらず、仮にあったとしても断る」としていたとマスコミは伝えている。
だが、今回想定外のことが起きたそして、断らなかった。
内閣府担当者「当時の答弁は基本的な考え方を述べたものであり、緊急時の例外的な武器弾薬の提供を排除したものではない」(NHK NEWS WEB)――
政府の決定が常に正しいとは限らない。今回は国連という証人が介在していたからいいものの、2国間での決定の場合、そこに秘密の取り決めが存在しないケースが全くないとする保証はない以上、「緊急の必要性・人道性」の名の下に閣議決定で何でも許す独断専行の前例となりかねない危険性を抱えている上に、「例外的」という口実の拡大解釈に道を開く危険性も考えなければならない。
民主党は「従来の政府見解との整合性が問われる」として国会で閉会中審査を行うよう求めていく考えを示しているが、国家主義の安倍政権は過去の答弁に整合性を持たせるためにも閣議決定だけではなく、また例外を口実とせずに、銃弾提供決定前に閉会中審査を開いて国会に説明、国会の承認を得る努力をすべきだったはずだ。
そのようにも広い承認を得ることによって、決してないとは保証できない政府による万が一の独断専行や拡大解釈の危険性を回避可能とすることができる手続きとすべきだったろう。
また、銃弾提供を武器輸出三原則の例外とする以前の問題として、集団的自衛が同盟国が攻撃されるか、同盟国ではなくとも自国の安全保障上不可欠な国の求めに応じて展開する共同軍事行動を言うなら、日本の軍需商社が銃弾を売り渡したというわけではなく、日本の自衛隊が例え戦闘自体に直接的に参加しなくても、自衛隊提供の銃弾を用いて韓国軍が戦闘行為を行った場合、少なくても銃弾面では自衛隊との共同した軍事行動ということになって、集団的自衛権行使という解釈が成り立つように思えるが、どうだろうか。
成り立つとしたら、いくら緊急の必要性・人道性に則った対応であったとしても、銃弾提供は不可能となる。
当ブログで何度でも言っているように私自身は集団的自衛権の行使容認には賛成である。但しあくまでも広く国民の承認を得るために憲法改正を経た容認であるべきで、憲法解釈による容認には反対である。
憲法改正は政治家の国民に対する説明能力にかかっている。
もう一つ条件というと、国家主義者・軍国主義者に安倍晋三の手にかかる憲法改正には反対である。国家主義・軍国主義の立場からの憲法改正と国民主義の立場からの憲法改正では、実際の行使が生じた場合の危険性は戦前の例が示しているように国民により多く降りかかるだろうからである。
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