安倍晋三の古い時代にとどまりながら、見栄えのよい政治家に見せるための「新しい時代の日本に求められるのは多様性であります」

2019-10-14 10:54:57 | 政治

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 文飾は当方。

 【参院本会議】長浜博行参院議員会長、安倍総理の所信表明に対し代表質問(立憲民主党サイト/2019年10月8日)   

 長浜博行「『「みんなちがって、みんないい」新しい時代の日本に求められるのは、多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を、根本から見直していく必要があります。多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる。そうした社会を創ることで、少子高齢化という大きな壁も、必ずや克服できるはずです』

 私の言葉ではありません。4日にこの議場で行われた『第200回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説』の中の一節です。感激しました。やっと気づいてくださったのか。しかしいくら吠えても張り子の虎(すなわち中身が何もない)では、演説を聴かれた国民は失望してしまいます。不言実行、有言更なりであります。ここからが私の質問です。

 来年の東京オリンピック・パラリンピック大会に向けて、ユニバーサルデザインの街づくりや『心のバリアフリー』の取組が行われていますが、価値観やライフスタイルの多様化が進んでいる現状からすれば、まだまだ不十分です。共生社会の実現のため、誰一人取り残さないという強いメッセージを政治の側が発信することが求められています。私どもは、誰もが個人として尊重される多様性ある社会を目指して、手話言語法案・情報コミュニケーション法案、LGBT差別解消法案等の法案を衆議院において共同提案しております。

 しかし、与党は一切審議に応じておりません。手話は、コミュニケーション手段であると同時に、日本語と同等の第一言語です。ろう者が手話言語を習得する機会を拡大し、手話文化の継承・発展を図る手話言語法案、そして、全ての視聴覚障害者等に対し、情報の取得やコミュニケーション手段についての選択の機会を確保・拡大していく情報コミュニケーション法案の制定が、今こそ求められていると考えます。総理の所見を伺います。

 民間の調査によりますと、日本ではLGBTなどの性的マイノリティに該当する方の割合が8%以上に達すると言われております。特に、いわゆる「SOGI(ソジ)ハラスメント」対策については、先の通常国会において女性活躍推進法等改正案に対する両院の附帯決議にも盛り込まれ、一定の前進が見られましたが、その進捗状況について政府の説明を求めます。

 さらに、性的指向や性自認にかかわらず、誰もが差別されることなく自由に生きる社会を実現するため、行政機関・事業者による不当な差別的取扱いの禁止やハラスメントの防止については、しっかりと法律で定める必要があると考えますが、総理の所見を伺います。

ジェンダー平等

 性別を問わずその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等社会を実現するため、野党会派共同で、選択的夫婦別姓法案や性暴力被害者支援法案等の法案を提案しておりますが、これまた与党は一切審議に応じておりません。特に選択的夫婦別姓については、本年7月に日本記者クラブで開かれた7党首討論会で、制度導入に賛成かとの質問に対し、ただ1人、自民党総裁である総理だけが手を挙げず、大きな話題となりました。

 国際社会の共通目標である『持続可能な開発目標(SDGs)』は、ジェンダー平等の実現を掲げています。総理は、先の通常国会で『SDGsの達成に尽力し、SDGsの力強い担い手たる日本の姿を国際社会に対して示す』旨述べていました。にもかかわらず、選択的夫婦別姓の導入を求める国連の勧告は放置したままです。総理は、先月の国連本部の会合で、SDGsに関する実施指針を年内に改定し、新たな取組を示す方針を表明しましたが、その取組に選択的夫婦別姓を入れるつもりがあるか、また、婚姻後も姓を変えない権利を認めることこそが、SDGsが目指す誰一人取り残さない社会の実現につながるのではないでしょうか、総理の見解を伺います」

 長浜博行の「選択的夫婦別姓」の質問に対する安倍晋三の答弁(動画から文字化)

 安倍晋三「SDGsと選択的夫婦別氏(べつうじ)制度についてお尋ねがありました。先ず指摘のSDGsについては人間の安全保障の理念に基づき、誰ひとり取り残さない社会を実現すべく、教育や保健の分野を始めとして、国際社会の取組をリードし、SDGsの達成に向け、貢献してまいります。

 他方、夫婦の別氏の問題については、家族の在り方と深く関わる問題であり、国民の間に様々な意見があることから、この対応についてはSDGsの議論とは別に慎重な検討が必要と考えております

 安倍晋三や類似の保守政治家が言う「家族の在り方」とは伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」を意味させている。なぜなら、選択的夫婦別姓にしても、同性婚にしても、新しい時代の新しい「家族の在り方」を意味しているのだから、この対立概念として位置させた「家族の在り方」となるからである。

 明治から大正、昭和戦前、戦後と続く「家族の在り方」を時代に抗って、永遠に守り通したいと願っている。このことは戦前型天皇主義者であり、日本民族優越主義者である安倍晋三からしたら当然の姿勢ということになる。

 「SDGs」なる言葉は初耳だから、ネットで調べてみると、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称だそうで、「貧困ゼロ」、「飢餓ゼロ」「不平等ゼロ」、「平和と公正さの平等の実現」、「公平・平等で高質な教育機会の実現」などの17の目標の中に「ジェンダー(社会的性差)解消と社会的に男女平等であることの実現」を掲げているという。

 長浜博行が安倍晋三の「第200回国会における所信表明演説」での「多様性」についての発言を紹介しているから、具体的にどう述べたのか見てみる。

 「第200回国会における安倍晋三所信表明」(首相官邸/2019年10月4日)
  
 安倍晋三「(一億総活躍社会)

 15年前、一人のALS患者の方にお会いしました。

 『人間どんな姿になろうとも、人生をエンジョイ出来る』

 全身が麻痺(ひ)していても弾くことができるギターを自ら開発。演奏会にも伺いましたが、バンド活動に打ち込んでおられます。更には、介護サービス事業の経営にも携わる。その多彩な活動ぶりを、長年、目の当たりにしてきました。

 令和になって初めての国政選挙での、舩後靖彦さんの当選を、友人として、心よりお祝い申し上げます。

 障害や難病のある方々が、仕事でも、地域でも、その個性を発揮して、いきいきと活躍できる、令和の時代を創り上げるため、国政の場で、共に、力を合わせていきたいと考えております。

 令和を迎えた今こそ、新しい国創りを進める時。これまでの発想にとらわれることなく、次なる時代を切り拓いていくべきです。

 かつて採られた施設入所政策の下、ハンセン病の患者・元患者の御家族の皆様に、極めて厳しい偏見、差別が存在したことは、厳然たる事実です。そのことを率直に認め、訴訟への参加・不参加を問わず、新たな補償の措置を早急に実施します。差別、偏見の根絶に向けて、政府一丸となって全力を尽くします。

 『みんなちがって、みんないい』

 新しい時代の日本に求められるのは多様性であります。みんなが横並び、画一的な社会システムの在り方を、根本から見直していく必要があります。多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる。そうした社会を創ることで、少子高齢化という大きな壁も、必ずや克服できるはずです。

 若者もお年寄りも、女性や男性も、障害や難病のある方も、更には、一度失敗した方も、誰もが、思う存分その能力を発揮できる、一億総活躍社会を、皆さん、共に、創り上げようではありませんか」

 長浜博行が「特に選択的夫婦別姓については、本年7月に日本記者クラブで開かれた7党首討論会で、制度導入に賛成かとの質問に対し、ただ1人、自民党総裁である総理だけが手を挙げず、大きな話題となりました」と指摘している点についても、安倍晋三の党首討論でのLGBTと選択的夫婦別姓に関しての発言を見てみることにする。挙手していない画像は最初に載せておいた。

 日本記者クラブ・参院選7党党首討論会(2019年7月3日1300 〜 1500 10階ホール)

 枝野幸男「安倍総裁にお尋ねします。今日は、あの自民党総裁として出てきて頂いているので、お答え頂けると思いますが、立憲民主党などが国会提出をしている法案は原発ゼロ法案、LGBT差別解消法案、選択的夫婦別姓法案、これらは残念ながら、与党のみなさん、審議に応じて頂けていません。原発ゼロ法案に至っては昨年の通常国会では所管の経産委員会の法案がなくなって空いてる状況だったにも関わらず審議に応じて頂けていません。原発ゼロは原発事故から8年経過して、その後の社会状況の変化でもはやリアリズムです。

 LGBTの差別解消については、あの自民党さんの方向性が示されておりますが、実際の当事者の皆さんのことを踏まえたものとはなかなか感じられません。選択的夫婦別姓については、先日のネットでの答弁でですね、『選択的夫婦別姓は経済成長と関係ないから、必要ない』とも受け取れる答弁がありました。

 これらの3つの法案について自民党としての見解と審議に応じていただけない理由についてお話を頂きたいと思います」

 安倍晋三「先ず原発ゼロでありますが、これは責任あるエネルギー政策とは言えないと考えております。今、多くの原子力発電所、原発が止まっていることによってですね、一般家庭で年平均2万2千円のご負担、増が生じておりますし、中小企業で1千2百万円、燃料費が上昇しているわけであります。そしてCo2の削減をしなければいけないという義務も負っている。

 そしてエネルギーの自給率の問題もあることから、その原発ゼロを直ちに決めていくのは責任ある政党とは言えないんだろうと思っています。その意味に於いて私たちは、考え方が違うということ。

 また夫婦別姓については、これはマイナンバーカード、あるいはパスポート等に於いて修正の必要が可能になっております。意識調査についても意見が色々分かれている中に於いてですね、国民的なコンセンサスを得ていく必要があるんだろうと、こう考えています。

 そして審議するかしないか。私はずっと総理の立場でありますから、国会運営は党に任せおりますが、総理の立場で今出ていますが、このことについては積極的に議論していくべきだろうと思っております」
   ・・・・・・・・・・・・・
司会「第一部でも話題になりましたが、選択的夫婦別姓を認めるっていう方は挙手をお願いします」

 安倍晋三だけが挙手しない。

 司会「もう一つ、LGBTに関して法的な整備が茨城県が初めてやったんですが、渋谷区も始めたりしてますが、LGBTの法的な権利を与えるっていうのを認めるという方は」

 安倍晋三と公明党代表山口那津男だけが挙手しない。

 安倍晋三「単純化して、ショーみたいにするのはやめた方がいいですよ。政策的な議論をちゃんとしないとですね、イエスかノーかということでは政治はないですから」

 司会「勿論」

 安倍晋三「どういう議論してるんだ(ということが大事で)。今の段階で答えられなくても、直ちにノーではないんですから。印象操作するのはよくないと思いますよ。何か意図を感じるな」

 司会「いや、いや。でも、それについて今安倍さん、ちゃんと説明されたわけでしょ。説明しないしね、ただ手を上げろって言っているわけじゃありませんから。それを説明を今、されたわけですから。今、そういう場合の非常に難しい問題、これ簡単に賛成、反対とはなかなかいかない問題なんだってことは逆に分かったんじゃないですか」

 安倍晋三「ありがとうございました」(笑いながら頭を下げて、誤魔化す)

 枝野幸男が「選択的夫婦別姓については、先日のネットでの答弁でですね、『選択的夫婦別姓は経済成長と関係ないから、必要ない』とも受け取れると答弁がありました」と言っていることをネットから探し出してきた。

 「選択的夫婦別姓 「経済成長と関わりがない」 首相 発言に批判」(しんぶん赤旗/2019年7月3日)

 2019年6月30日にインターネット動画サイト「ニコニコ動画」で行われた党首討論での発言だと言う。

 司会者(?)「選択的夫婦別姓は女性の社会参画のためには不可欠では」

 安倍晋三「いわば夫婦別姓の問題ではなくて、しっかりと経済を活性化させ、みんなが活躍できる社会をつくっていくことではないか」

 司会者「選択的夫婦別姓制度はいらないという返答でいいか」

 安倍晋三「経済成長との関わり合いがないと考えている」

 要するに選択的夫婦別姓制度は経済成長要因となるなら、考えもするが、そうではないから、横に置いておき、経済成長要因となる女性の雇用(=女性の労働参加)などに重点を置いて、先ずは経済を活性化させることで誰もが仕事で活躍できる社会の実現を優先させるべきではないかと言っていることになる。

 と言うことは、安倍晋三は国民を男女共々経済を活性化させる働き手と看做していることになる。だから、選択的夫婦別姓制度をアベノミクスの圏外に置くことができる。

 かくこのように「ニコニコ動画」の党首討論では経済成長との関係で選択的夫婦別姓制度不要論を唱えた。これは安倍晋三の中で選択的夫婦別姓制度に関わる政治思想そのものとして抱えているはずである。であるなら、そのような思想を抱えている以上、「ニコニコ動画」での発言を日本記者クラブでの党首討論で繰り返さなくても、司会者から「選択的夫婦別姓を認めるっていう方は挙手をお願いします」と促されたとしても、いわば「イエスかノーか」で単純化した形で問われたとしても、選択的夫婦別姓制度に関わる自らの政治思想に従い、挙手しないことによって「ノー」の意思表示をするのが当然であり、それを「単純化して、ショーみたいにするのはやめた方がいいですよ。政策的な議論をちゃんとしないとですね、イエスかノーかということでは政治はないですから」などと批判するのは自身の選択的夫婦別姓制度に関わる政治思想を隠して、印象が悪くなるのを避ける狡猾な行為そのものであり、一国の首相として要求される正々堂々とした態度に反する。

 立憲民主党の「婚姻平等法案・LGBT差別解消法案」は解説で「民法を改正して、同性婚を可能にし、婚姻の平等を実現します」と謳っているが、安倍晋三は同性婚について国会で、日本国憲法「第3章 国民の権利及び義務 第24条」、〈婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。〉を根拠に「現行憲法の下では、同性カップルの婚姻の成立を認めることは想定されていない。同性婚を認めるために憲法改正を検討すべきか否かは、我が国の家庭のあり方の根幹に関わる問題で、極めて慎重な検討を要する」と答弁、古くからある伝統的な「我が国の家庭のあり方」を保守すべく、実質的に反対している。

 このような思想を自らのものにしている以上、日本記者クラブでの党首討論で司会者から「LGBTの法的な権利を与えるっていうのを認めるという方は」と挙手を求められたことを「単純化」した問いかけだと批判することも同性婚に関わる自らの思想を隠す態度となる。

 安倍晋三は経済成長との関係でのみ、選択的夫婦別姓制度不要論を政治思想としているわけではない。伝統的な家族制度解体要因そのものとして強固に反対している。経済成長要因ではないことからの不要論は事実そう思っていても、付け足しで、後者にこそ、本質的な理由を置いているはずだ。

 「第190回国会 衆議院予算委員会」(2016年2月29日)

 岡田克也「総理が野党時代の発言を紹介したいと思います。夫婦別姓の問題ですね。

 総理は、『夫婦別姓は家族の解体を意味します、家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマです』、こういうふうに発言されていますね。これはどういう意味ですか。お答えいただけますか」

 安倍晋三「突然の質問でございますので、後ほど確認させていただきたい、このように思います」

 岡田克也「これは昔の発言じゃないんですよね、野党時代の発言ですから。これは、『WiLL』という雑誌の平成22年7月、そのときの対談ですね。自民党の何人かの議員が対談しておられる中での総理の発言なんですよ。

 こういう考え方で夫婦別姓というものを考えていれば、我々は選択的夫婦別姓、法案も国会に出していますが、そういうことについて頭から、もうイデオロギー的にダメだということですか」

 安倍晋三「こういうものは、前後でどういう発言をしているか、対談ですから、それを見ないと私も俄にはお答えのしようがないわけでありますが、私は、家族の価値を重視する保守党としての自民党の考え方を恐らく述べたものであろう、こう考えるわけでございます。

 いずれにいたしましても、夫婦別氏に対する考え方については、政府としての長である内閣総理大臣として既に答弁をしているとおりでございます」

 岡田克也「自分で御発言になったことですから、覚えていないというのはあり得ないというふうに思うわけですね。いずれにしても、ここに総理のやはり基本的な考え方というのが出てきているんじゃないかと思うんですよ。

 この前、最高裁が、憲法違反ではない、そういう判決を下しました。後は立法の問題だ、国会で議論する話だ、こういうことであります。ですから議論しているし、我々は、選択的夫婦別姓、別に夫婦別姓を強制するんじゃなくて、そういうことも可能ですよという法案を国会に提出しているわけであります。

 この最高裁の判決の中で、憲法違反でないという判決に反対した裁判官が何人かいらっしゃいます。女性の裁判官三人全員が憲法違反だという意見を述べられました。

 そこでどういう論理を述べておられるかというと、結局、多くの場合には夫の姓になってしまう、現実的に96%が夫の姓になるんですね、結婚した場合に。妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個別識別機能を損なわれ、また自己喪失感といった負担を負うことになり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とは言えない、だから憲法違反だと言っているわけです。

 私は、憲法違反だという考え方に立つものでは必ずしもないんですが、それは最高裁が判断されたわけですから尊重しますが、ここの論理というのは、やはり立法的にしっかり対応すべきだということになるんじゃないでしょうか。男女平等の本質に反するような、同姓を強制する、そういう仕組みはやはりおかしいんじゃないですか。先進国の中で、結婚したら同じ姓にしなければいけないと強制している、そういう国はありませんよね、日本だけですよね。なぜここに固執されるのか私はわからないんですが、いかがですか。

 安倍晋三「諸外国では、中国や韓国はそうでありますが、そもそも別氏であったわけでございます。

 夫婦の氏の問題は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題を含め、我が国の家族のあり方に深くかかわる問題であろうと考えています。

 選択的夫婦別氏制度については、国民の間でさまざまな意見があるのも事実だろうと思います。例えば、直近の世論調査を例にとってみますと、反対が36・4%、容認が35・5%、通称のみ容認が24・0%などといった結果になっているところでございます。そのため、最高裁判決における指摘や国民的な議論の動向を踏まえながら、慎重に対応する必要があると考えております」

 岡田克也「これは日本の伝統だと言う人もいますけれども、明治31年からですね、法制的には。それまでは、一部の人を除いて、そもそも日本人は氏がなかったわけでしょう。

 いずれにしても、総理がこういう固定観念を持っておられると、この選択的夫婦別姓の話というのは全く進まないですよね。そこはしっかり考えを改めていただきたいというふうに申し上げておきたいと思います」

 安倍晋三は2010年7月の雑誌『WiLL』での対談発言、「夫婦別姓は家族の解体を意味します、家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマです」の意味を問われて、最初に「私は、家族の価値を重視する保守党としての自民党の考え方を恐らく述べたものであろう、こう考えるわけでございます」と答えている。

 確かに安倍晋三の雑誌「WiLL」の対談と同じ年の「自民党政策集J-ファイル2010」(当時は谷垣総裁)には、「わが国のかたちを守ります」と題して、〈民主党が導入を目指す「夫婦別姓」・「外国人地方参政権」は、わが国を根底から覆そうとする意識が働いているとしか考えられないものです。わが党は、夫婦別姓法案と外国人地方参政権付与法案に反対し、わが国の地域社会と家族の絆を守ります。〉の一文が挿入されていて、「自民党の考え方」と言うことができる。

 だが、当時は一度首相を経験している立場にあった以上、「これは自民党の考え方だが、自分は異なる立場にある」といった断りがなく述べたなら、自身も同調している同じ考え方を披露したことになる。もし断っていたなら、対談で「夫婦別姓」を話題にした以上、自民党の考え方とは異なる夫婦別姓に関わる自身の考え方を明らかにする責任を負う。
 
 要するに断りを入れた、入れないに関係なく、「WiLL」の対談発言は安倍晋三自身の考え方でなければならない。それをさも自身の考え方が「自民党の考え方」と異なるかのように言辞を弄するのは卑怯である。

 安倍晋三が対談で語った「夫婦別姓は家族の解体を意味します」云々と、岡田克也に答弁した「夫婦の氏の問題は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題を含め、我が国の家族の在り方に深くかかわる問題であろうと考えています」の正当性を見てみる。

 安倍晋三がここで口にしている「家族の在り方」は既に触れたように伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」を意味させている。「我が国の」と一国に限定して「家族の在り方」とした場合、その「家族の在り方」は歴史的連続性を持つことからも、伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」でなければならない。

 「夫婦別姓は家族の解体を意味」するなら、「夫婦同姓」は家族解体の防壁であることを意味しなければならない。だとすると、現実に頻発している夫婦同姓下での離婚や家庭内別居、家庭内孤立、あるいは家庭内対立、夫か妻いずれかの、あるいは夫と妻双方の不倫といった家族の解体は夫婦同姓が家族解体の防壁であることに真っ向から矛盾することになる。そして夫婦同姓が現在の家族制度の根幹をなしている関係からして、夫婦同姓下の家族の解体は現在の日本の家族制度そのもののが、いわば「我が国の家族の在り方」そのものが家族の解体に対して必ずしも絶対でないことを証明することになる。この非絶対性は夫婦同姓の非絶対性と相互性を意味する。

 現実にそうである以上、家族の在り方、あるいは夫婦の関係・在り方を決定づけている要因は夫婦同姓の家族制度そのものではなく、夫と妻が、ときには舅、あるいは姑、子どもが加わって、相互に影響し合って、それぞれの関係性を彩ることになる人間性(=人柄や姿勢、生き方、相手への思いやり等)が家族の解体か否かを決定づける要因となっていることを示しているはずである。

 こういった合理性からすると、夫婦別姓制度が別姓で始まった夫婦にとって常にその関係性を最後まで維持する保証とはならないということになり、現実にもそうなるだろうから、夫婦同姓、あるいは夫婦別姓といった家族制度が決定づける夫婦の関係・在り方ではなく、あくまでもそれぞれの人間性が決定づけるそれぞれの関係・在り方であることを認識していなければならない。

 このような認識に基づくと、「夫婦別姓は家族の解体を意味」は合理的な根拠は何らない内容空疎な主張と化す。当然、「家族の解体」を「最終目標」としていると解釈している点も、根拠のない考え方となる。

 当然、岡田克也に答弁した「夫婦の氏の問題は、単に婚姻時の氏の選択にとどまらず、夫婦の間に生まれてくる子の氏の問題を含め、我が国の家族の在り方に深くかかわる問題であろうと考えています」といった認識にしても、著しく正当性を欠く主張に過ぎないことになる。

 夫婦同姓の家庭と違って、夫婦別姓の家庭に育った子どもが夫婦別姓を受け入れるか否かはその子どもをどのような人間性を持った子どもに育てるかにかかっているのであって、制度そのものが決める問題ではない。

 安倍晋三はまた、夫婦別姓を「家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマです」と否定思想としている以上、夫婦同姓の家族こそが「人間としての自由」を獲得できると考えていることになる。

 「人間としての自由」は夫婦同姓とか夫婦別姓に関係なく、自律的な主体性を自らの姿勢とすることができるかどうかにかかっている。自律的・主体的な生き方をするための必須要件として家族からの解放を出発点とし、「人間としての自由」を到達点とする場合を除いて、「家族から解放され」る、されないが「人間としての自由」を決定づけるわけでもなく、夫婦同姓の家族制度、あるいは夫婦別姓の家族制度が決定づける「人間としての自由」でも決してない。

 夫婦同姓下であっても夫に束縛さられて「人間として自由」を失っている妻はいくらでも存在する。夫から家庭内暴力を受けて耐え忍んでいる妻は典型的な例に入る。夫が家事・育児を何もせずに獲得している「自由」は「人間としての自由」ではなく、自らの横暴によって手に入れている単なる時間的自由に過ぎない。

 家事。育児の負担に束縛され、耐えている妻の例は夫婦共々自律的・主体的な生き方から程遠く、両者共に自律性・主体性を失っている点、妻だけではなく、夫にしても「人間としての自由」からは程遠い場所に位置していることになる。

 以上見てきたような安倍晋三のこれらの認識の偏りは伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」という形式だけに拘り、その中身としての「人間としての在り方」にまで考えが回らならない偏見を生み出す要因になっているはずだ。夫婦別姓は家族制度というよりも「人間としての在り方」により重点を置いていることに思い至らない。

 長浜博行が代表質問で指摘することになった安倍晋三の所信表明の「多様性」についての発言を再び見てみる。

 「『みんなちがって、みんないい』、新しい時代の日本に求められるのは多様性であります」

 つまり安倍晋三が所信表明で追求を約束した「多様性」「新しい時代の日本」に合致することを条件としていることになる。そういった「多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる。そうした社会を創る」と国民に向けて約束を掲げた。

 但し伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」を断ち切らなければ、「新しい時代の日本」に合致した「多様性」は追求不可能であるし、新しい時代が常に求めている「人間としての在り方」に踏み込むことはできない。

 なぜなら、伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」は家事・育児妻任せの点に典型的に現れているように古い時代からの男尊女卑の思想を残していて、新しい時代が求めている「人間としての在り方」は阻害され、殆どの夫・妻が自律的・主体的な生き方をしているとは言えないからである。

 だが、安倍晋三は長浜博行の代表質問に答えて、「夫婦の別氏の問題については、家族の在り方と深く関わる問題」だと答弁、「家族の在り方」を決定づけるのは伝統的な夫婦同姓の家族制度だけだと限定していて、「人間としての在り方」については何の考えも持たない。

 所信表明で「新しい時代の日本に求められるのは多様性であります」「多様性を認め合い、全ての人がその個性を活かすことができる」と言いながら、夫婦別姓を「多様性」の一つと見ることも、「個性」の一つ、「人間としての在り方」の一つであると見ることができない。 

 伝統としてきた古い時代からの「家族の在り方」に足を踏み入れたまま、夫婦別姓も同性婚も日本に於ける新しい時代の「人間としての在り方」への欲求であり、「個性」であるという観点から眺めることもできない。

 そのような立場に立った夫婦別姓や同性婚抜きの「多様性」であるなら、何度口にしようとも、古い時代にとどまりながら、見栄えのよい政治家に見せるための口先だけで、内容空疎なの「多様性」に過ぎないことになる。

 安倍晋三は夫婦同姓の家族制度が必ずしも家族解体の防壁とはなっていないことから目を逸らし続けることになるだろう。夫婦別姓が家族解体の要因となるとする頭からの妄信から目覚めることもないだろう。


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