安倍晋三は5月26日のG7伊勢志摩サミットで午後4時3分から午後5時56分までG7首脳による討議を行い、サミット会場となっているホテルで午後4時37分から午後4時40分まで記者たちに一応の「報告」なのだろう、行った。
そこで安倍晋三は「8年前の洞爺湖サミットは、リーマンショックのわずか数か月前だった」と、当時のリーマン・ショックを持ち出した上で、G7各国首脳と「世界経済は大きなリスクに直面をしているという認識については、一致することができた」と、さも現在の世界的な経済状況がリーマンショック前と似た危機的状況にあるとの認識を共有したが如くに記者たちに発言した。
そして取り纏めた「伊勢志摩経済イニシアティブ」に基づいて「アベノミクス『三本の矢』を、正に今度は世界へ展開をしていきたい。G7で展開をしていくこととなった」と世界経済に向けたアベノミクスの出番を宣言した。
世界経済のリーマンショック前と似た危機的状況下での消費税増税はアベノミクス成功の阻害要因となるから、これらの発言を来年2017年4月からの消費税10%増税の延期を前提とした発言ではないかと昨日の「ブログ」に書き、実際の現在の世界経済は安倍晋三が言うようにリーマンショック前と似た危機的状況にあるのか、そうではなく、〈安倍晋三が自己都合で各国首脳の目の前に大袈裟に描き出した危機に過ぎないとなると、消費税増税を延期させてアベノミクスを成功させる正当性ある口実を創作するためにG7と言う舞台で「世界経済が大きなリスクに直面」という状況を自作自演した疑いが出てくる。〉と書いた。
5月26日のG7伊勢志摩サミット首脳討議の翌日の5月27日午前中も首脳討議を行い、午後2時から行った議長国としての「記者会見」でも世界経済がリーマンショック前と似た危機的状況にあることを盛んに力説している。
安倍晋三「今世紀に入り、世界経済を牽引してきたのは、成長の活力あふれる新興国経済です。リーマンショックによる経済危機が世界を覆っていた時も、景気回復をリードしたのは、堅調な新興国の成長。いわば、世界経済の『機関車』でありました。しかし、その新興国経済が、この1年ほどで、急速に減速している現実があります。
原油を始め、鉄などの素材、農産品も含めた商品価格が、1年余りで、5割以上、下落しました。これは、リーマンショック時の下落幅に匹敵し、資源国を始め、農業や素材産業に依存している新興国の経済に、大きな打撃を与えています。
成長の糧である投資も、減少しています。昨年、新興国における投資の伸び率は、リーマンショックの時よりも低い水準にまで落ち込みました。新興国への資金流入がマイナスとなったのも、リーマンショック後、初めての出来事であります。
さらに、中国における過剰設備や不良債権の拡大など、新興国では構造的な課題への『対応の遅れ』が指摘されており、状況の更なる悪化も懸念されています。
こうした事情を背景に、世界経済の成長率は昨年、リーマンショック以来、最低を記録しました。今年の見通しも、どんどん下方修正されています。
先進国経済は、ここ数年、慢性的な需要不足によって、デフレ圧力に苦しんできましたが、これに、新興国の経済の減速が重なったことで、世界的に需要が、大きく低迷しています。
最も懸念されることは、世界経済の『収縮』であります。
世界の貿易額は、2014年後半から下落に転じ、20%近く減少。リーマンショック以来の落ち込みです。中国の輸入額は、昨年14%減りましたが、今年に入っても、更に12%減少しており、世界的な需要の低迷が長期化するリスクをはらんでいます」――
冒頭発言内で「リーマンショック」という言葉を6回も繰返している。それ程にも安倍晋三は世界経済の現状に対して危機感を露わにしている。
当然、リーマンショッククラスの世界経済の危機的状況はG7首脳討議での共通認識を受けた、その反映でなければならない。
このことは次の発言にも現れているし、ここで消費税増税の是非についての検討に触れている。是非であっても、世界経済がリーマンショック前と似た危機的状況にあることを散々に触れ回った以上、このような環境下でアベノミクス成功の阻害要因となる消費税増税の延期を視野に入れた是非の検討と見なければならない。
安倍晋三「当然、日本も議長国として、今回のG7合意に従い、率先して世界経済の成長に貢献する。世界経済が『危機』に陥るリスクに立ち向かうため、あらゆる政策を総動員して、アベノミクスのエンジンを、もう一度、最大限に吹かしていく決意であります。日本として何を為すべきか、消費税率引上げの是非も含めて検討し、夏の参議院選挙の前に明らかにしたいと考えています」
アベノミクスのエンジンが最大限に吹かすことができた状態になったことなど一度とてない。日銀の金融政策以外、常に空吹かしで推移した。円安・株高に助けられた雇用の増加等々であり、物価の値上げに追いつかない僅かながらの賃上げに過ぎない。
安倍晋三がアベノミクスをどう誇ろうと、実質賃金を上げることができないから、個人消費が増えないという悪循環をつくり出したアベノミクスを現状とすることになっている。
議長国記者会見で「リーマンショック」という言葉を6回も繰返して強調しなければならなかった程にも世界経済がリーマンショッククラスの危機的状況にあることをG7首脳討議の共通認識となっていた。
この共通認識こそが、安倍晋三は「消費税はリーマンショックあるいは大震災のような事態が発生しない限り、予定どおり引き上げていく」と常々発言していたのだから、消費税増税延期に正当性を与える得る理由となる。
当然、そのような共通認識を持つに至っていたのか、確かめなければならない。2016年5月27日に発表された「G7伊勢志摩首脳宣言」を見れば、一目瞭然となる。
〈世界経済の状況
世界経済の回復は続いているが,成長は引き続き緩やかでばらつきがあり,また,前回の会合以降,世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている。近年,世界的な貿易のパフォーマンスは,期待外れの状況にある。弱い需要及び未対応の構造的な問題が,実際の及び潜在的な成長に負荷を与えている主な要因である。〉・・・・
「リーマンショック」なる言葉はどこを探しても見つからない。単に世界経済は回復過程にあるものの、その成長は力強さを欠いてばらつきを見せ、そうであるがゆえに下方リスクを抱えるに至っているとの状況を解説しているのみで、世界経済が危機的状況にあるとする認識はどこにも描かれていない。
Ḡ7首脳の共通認識はこのようなものであった。
このことはオバマ大統領とメルケル独首相の発言が証明する。
〈5月26日、オバマ米大統領は記者会見で、伊勢志摩サミットでは米国での経済成長を維持する必要性や、欧州経済に進展がみられはじめたことなどを討議したと語った。〉と「ロイター」記事は伝えている。
要するにオバマ大統領は米国が力強く経済回復を続けていて、その回復基調を維持する必要性があることの認識を示し、〈イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長は5月27日、経済成長が想定通り継続し雇用創出が続けば、FRBは今後数カ月に利上げすべきとの認識を示した〉と、別の「ロイター」記事が伝えていて、利上げできる程に経済の現状が順調であることを示している。
また、メルケル独首相は、〈世界経済に安定成長の兆候があるがリスクは残るとし、コモディティ価格安は多くの国にとって問題だとの見解を示した。〉とこれも別の「ロイター」が伝えているが、リーマンショッククラスの危機を想定しているわけではない。
「コモディティ価格」とは、商品先物取引などで取引される「商品」のこと。商品といっても「goods(製品)」ではなく、原油やガスなどのエネルギー、金・銀・プラチナなどの貴金属、小麦・大豆・とうもろこしなどの穀物、銅・アルミといった非鉄金属などのことを指すとネットで紹介されている。
このように安倍晋三一人がリーマンショック前と似た危機的状況を振り回していた。
勿論、安倍晋三の認識が正しく、他の首脳の認識が間違っているということもある。
だからと言って、伊勢志摩サミットで決めた「首脳宣言」と異なる認識を振り回したのではサミットそのものが意味を失う。共通認識づくりの作業そのものを形骸化させることなる。
所詮、世界経済の危機的状況を多数意見とすることができなかったということであろう。
にも関わらず、リーマンショックを振り回す。「消費税はリーマンショックあるいは大震災のような事態が発生した場合は増税の延期もあり得る」としたことから、アベノミクスの成功は消費税増税延期を必要絶対条件とし、消費税増税延期は世界経済悪化を必要絶対条件とする関係を作り上げたことになって、である以上、どうしても消費税増税延期に持っていきたい、そのための必要絶対条件として世界経済の危機的状況を描かなければならない意図的作為と見ないと、G7各国首脳と「世界経済は大きなリスクに直面をしているという認識については、一致することができた」と記者たちにウソをついてまで行うことになった、このウソは国民に対するウソともなるが、責任ある議長国でありながら、安倍晋三の「G7伊勢志摩首脳宣言」の共通認識からの逸脱は到底理解できない。
ウソをついてまでして共通認識から逸脱し、リーマンショックを振り回す。消費税増税延期の正当性ある理由づくりを目的としハッタリでなくて何であろう。