安倍晋三提唱の地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を自らコケにするイラン訪問

2019-06-17 11:44:40 | 政治
 
 イランの核合意からトランプの核合意離脱を経て、対イラン制裁措置導入をネットで調べて簡単に纏めてみた。

 2002年、イランでウラン濃縮施設発見。
 2015年7月14日、国連安全保障理事会常任理事国米英仏中露+独6か国協議の「P5プラス1」とイランとの間で核協議の最終合意。
 2016年1月16日、国際原子力機関(IAEA)によるイランの核濃縮に必要な遠心分離器などの大幅削減の確認。
 2016年1月16日、P5プラス1、核合意履行を宣言。米欧諸国、対イラン経済制裁解除手続きに入る。
 2018年5月8日 トランプ、イラン核合意からの離脱
 2018年11月までにイラン産原油禁輸など合意に基づいて解除されていた制裁をすべて再発動。
 2019年4月8日、イラン最高指導者直属の軍事組織イラン革命防衛隊を「テロ組織」に指定する方針を示す。2019年4月15日に発効。
 2019年4月8日、イラン、米国を「テロ支援国家」と認定、中東地域などを統括する米中央軍をテロ組織に指定。
 2019年4月22日、日本を含む8カ国・地域(日本、中国、インド、イタリア、ギリシャ、韓国、台湾、トルコ)をイラン産原油禁輸措置の適用除外とする特例措置を2019年5月1日を以って撤廃の方針を示す。
 2019年5月2日、適用除外特例措置を撤廃。
 2019年5月8日、トランプ、イランの鉄鋼、アルミニウム、銅の各部門を対象とする新たな制裁措置を導入する大統領令に署名。
 
 トランプにイラン核合意離脱の理由は次の記事が紹介している。

 「NHK時論公論」(2018年5月9日)

 核合意は――

▼イランによる核開発に対する制限に10年から15年の期限が設けられていること。期限を過ぎれば、イランが核兵器の開発を進め、中東に軍拡競争の危機が迫ってくるのは“火を見るより明らかだ”であること。
▼弾道ミサイルの開発を制限していないこと。現にイランは合意の直後からイスラエルも射程に収める中距離弾道ミサイルの発射実験を行い、関係国に脅威を及ぼしていること。
▼イランが周辺国でアメリカが「テロ組織」と看做す勢力を軍事的・経済的に支援している現状を野放しにしていること。

 こうした“不完全な合意”を放置すれば、いずれ中東に核戦争が勃発しかねないとトランプ大統領は主張。合意から離脱したのはイランに対してより厳しい“新たな合意”を目指すため。

 対してイランはアメリカに対して核合意復帰と制裁撤回、制裁による損害の補償を要求しているという。

 こうした状況の中で我が安倍晋三は2019年12、13、14日とイランを訪問。2019年6月11日付「asahi.com」には政権幹部の話として2019年4月26日のワシントンでの日米首脳会談の席でトランプから、「イランに行って私のメッセージを伝えられるのはあなたしかいない」と依頼されたからと訪問理由を伝えている。

 で、のこのこと出かけることになった。

 トランプが言っている「私のメッセージ」とはイランに対してより厳しい“新たな合意”を目指すテーブルにつくよう促す内容のものということになる。イランの主要貿易品目である石油の禁輸措置とイラン産鉄鋼、アルミニウム、銅に対して制裁措置を発動し、イランを経済的苦境に追い込みながら、新たな合意交渉のテーブルに就けと促し、就かせるための交渉役を日本の安倍晋三に託した。

 一般的には何月何日までに交渉のテーブルに就かなければ、制裁を発動することになると促すのがものだが、その逆を行っている。

 また、トランプが新しい交渉を望んでいる以上、安倍晋三に託さずとも、イランに対して直接的に働きかけていることになる。2019年6月2日、アメリカの国務長官ポンペイオが「イランとは前提条件を設けることなく話し合いをする用意はある」と発言したと「NHK NEWS WEB」記事が伝え、〈トランプ政権はイランに話し合いのテーブルにつくよう繰り返し迫っています。〉と解説している。

 つまりアメリカの要求に対してイランが新しい交渉のテーブルに就くことを承知しない中で安倍晋三はのこのこと出掛けたことになる。余っ程の自信がなければ、出かける気は起きない。

 安倍晋三はイランへの出立に先立って羽田空港で、「記者会見」(首相官邸サイト/2019年6月12日))を開いている。
  
 安倍晋三「中東地域では、緊張の高まりが懸念されています。国際社会の注目が集まる中において、この地域の平和と安定に向けて、日本としてできる限りの役割を果たしていきたいと考えています。日本とイランの伝統的な友好関係の上に、ローハニ大統領、そして最高指導者のハメネイ師と緊張緩和に向けて、率直な意見交換を行いたいと考えています」

 要するにトランプが招いて米・イラン間に生じた険悪な緊張状態の緩和の役を担った。その方法はイランを新たな合意交渉のテーブルに就かせることにあるということになる。なかなかの大役である。但し、それ程の大役を担う器量があるどうかが問題となる。

 では、マスコミ報道から日本時間の2019年6月12日夜から13日未明にかけて行われたイランのロウハニ大統領と安倍晋三の首脳会談を見てみる。「NHK NEWS WEB 」(2019年6月13日 4時53分)

 安倍晋三「ロウハニ大統領とは、いかにして現下の緊張を緩和し、偶発的な紛争を避けることができるか、率直かつ有意義な意見交換を行った。中東の平和と安定は、この地域のみならず、世界全体の繁栄にとって不可欠だ。誰も戦争など望んでおらず、日本としてできるかぎりの役割を果たしていきたい。

 (イランが建設的な役割を果たすことが不可欠だという認識を示してから)イランがIAEA(国際原子力機関)との協力を継続していることを高く評価し、核合意を引き続き順守することを強く期待している。

 ここまでの道のりは長かったが、ここからは広くて見晴らしのよい道のりになるはずだ。そのためには、お互いが努力しなければならないが、今日は、その第1歩となると確信している」

 断るまでもなく 米・イラン間の緊張状態はトランプの一方的な対イラン関係の変更によって生じた。当然、「現下の緊張を緩和」することも、「偶発的な紛争を避ける」ことも、「中東の平和と安定」を図ることも、アメリカとイランの関係の有り様が決定権を握る。日本とイランの関係の有り様ではない。従来の核合意に対するトランプの不満に基づいて要求している新たな合意交渉のテーブルにイランを導くことを安倍晋三の究極の目的としなければならないはずだ。

 但しイランはアメリカに対して核合意復帰と制裁撤回、制裁による損害の補償を要求している。となると、安倍晋三がイランに対してのみ、「核合意を引き続き順守することを強く期待」しても、アメリカの核合意離脱を問題にしていないことになって、イランのみへの一方的な要求となる。

 一方的な要求となることを回避するためにはイランの対米要求を聞いて、その要求をアメリカに伝え、例えトランプがその要求を拒絶し、自身の要求に徹底的に拘ったとしても、双方の要求を突き合わせて、折り合いをつけるべくアメリカとイランの間を取り持つ外交を展開し、それを成功させてこそ、中東の平和と安定に資することが可能となる。

 折り合いをつけるべくアメリカとイランの間を取り持つ外交とは両当事国の間を頻繁に行き来して合意を形成する外交交渉、往復外交を意味するシャトル外交を措いてほかにあるまい。

 このシャトル外交は自らが提唱した地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交に合致することにもなる。「地球儀を俯瞰する」とは地球全体を見てという意味を取るはずで、地球全体のバランスは一国の国益のみを優先させて実現はできず、折り合いをつけるという段階が必要となり、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交はシャトル外交を必要不可欠な手段としなければならない。

 アメリカとイランの相対立した利害・国益に折り合いをつけ、バランスを取るためのシャトル外交――地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を展開しないままに、「現下の緊張を緩和」だ、「偶発的な紛争を避ける」だ、「中東の平和と安定」だ、「誰も戦争など望んでいない」だ等々言ったとしても、単なるポーズだけとなる。言葉だけで有能な政治家を演出することが得意なポーズ番長だけのことはある。

 それがポーズだけなら、「日本としてできるかぎりの役割を果たしていきたい」にしても、ポーズだけの空疎な約束となる。

 大体がアメリカとイランとの間の国益・利害の鋭い対立の解消がさも簡単であるかのように「ここまでの道のりは長かったが、ここからは広くて見晴らしのよい道のりになるはずだ」と請け合っておきながら、「そのためには、お互いが努力しなければならない」と条件を付すことで簡単な道のりではないことを種明かしし、種明かししておきながら、「広くて見晴らしのよい道のり」に向けた「今日は、その第1歩となると確信している」と、自身のイラン訪問の有効性を印象づける巧妙なレトリックを展開している。

 要するに安倍晋三はイラン訪問の成果を見ないうちから、自身の外交能力の優秀性を自慢した。ところが安倍晋三がイランを訪問中の2019年6月12日、アメリカ財務省はイラン最高指導者直属の軍事組織「革命防衛隊」の傘下にあり、外国で特殊任務を担う「コッズ部隊」と繋がりのある隣国イラクの団体1つと2人の個人を新たに制裁の対象に加えたと発表し、アメリカも自分たちが要求する話し合いに安倍晋三を通してイランが応じるかどうかを確かめないうちに新たな制裁を課すことになった。「広くて見晴らしのよい道のりになる」
どころではなく、そのような道のりをアメリカ側は期待していないことを露呈した。

 安倍晋三はロウハニ大統領との首脳会談翌日の2019年6月13日、「ハメネイ最高指導者との会談」(外務省/2019年6月13日)を行っている。
 
 〈安倍総理から,ハメネイ最高指導者に対し,軍事衝突は誰も望んでおらず,現在の緊張の高まりを懸念していることを伝え,また,安倍総理から,日本は核合意を一貫して支持しており,イランがIAEAとの協力を継続していることを評価し,イランが引き続き核合意の履行継続を期待している旨述べ,イランは地域の大国であり,中東の安定化に向け建設的な役割を果たすよう要請しました。ハメネイ最高指導者からは,平和への信念を伺うことができ,また,核兵器は保有も製造も使用もしない,その意図はない,すべきではない旨の発言がありました。〉(一部抜粋)

 「日本は核合意を一貫して支持している」、「イランがIAEAとの協力を継続していることを評価している」、「イランが引き続き核合意の履行継続を期待している」、「中東の安定化に向け建設的な役割を果たすよう要請する」等々、ロウハニ大統領との首脳会談のときと同じように日本とイランとの関係の有り様の文脈での発言のみとなっている。トランプに「イランに行って私のメッセージを伝えられるのはあなたしかいない」と依頼された、その「メッセージ」の中身も、その中身に対するイランの反応も、イラン訪問の究極の目的であるはずなのに何も見えてこない。

 安倍晋三は何のためにイランを訪問したのだろうか。トランプに依頼された「メッセージ」の中身のあらかたを伝えている、中東ジャーナリストの川上泰徳氏の記事がある。

 「安倍首相のイラン訪問 緊張緩和の仲介とは程遠い中身と日本側の甘い評価」(yahoo!ニュース/2019/6/14 15:26)

 ハメネイ師の公式ウエッブサイトから発信された情報のみを紹介する。

 安倍晋三「私はあなたに米国大統領のメッセージを渡します」

 ハメネイ師「私は日本が誠実で善意に基づいていることに疑いはありません。しかしながら、あなたが米国大統領について言ったことについては、私はトランプを私がメッセージを交換するに値する人間と考えていません。私からはいかなる返事もありませんし、将来においても返答するつもりはありません」

 安倍晋三「米国はイランが核兵器を製造することを阻止するつもりであると語った」(

 ハメネイ師「私たちは核兵器に反対しています。私のファトワ(宗教見解)は、核兵器の製造を禁じています。しかし、私たちが核兵器を製造しようと考えれば、米国は何もできませんし、米国が認めないことが(製造することの)障害にはならないことは、あなたも知るべきです」

 安倍晋三「トランプ大統領はイランの体制転覆を考えているわけではありません」

 ハメネイ師「我々と米国との問題は米国がイランの体制転覆を意図しているかどうかではありません。なぜなら、もし、米国がそれ(イランの体制転覆)をしようとしても、彼らには達成することはできないからです。米国の歴代の大統領たちは40年間にわたってイスラム共和国を破壊しようとしてきましたが、失敗しました。トランプがイランの体制転覆を目指していないと言っているのは、嘘です。もし、彼がそうできるなら、するでしょう。しかし、彼にはそれができないのです」

 安倍晋三「米国は核問題でイランと協議することを求めている」(解説体を会話体に直す)

 ハメネイ師「イランは米国や欧州諸国との六か国協議を5年から6年行って、合意に達しました。しかし、米国は合意を無視し、破棄しました。どのような常識感覚があれば、米国が合意したことを投げ捨てておきながら、再度、交渉をするというのでしょうか? 私たちの問題は、米国と交渉することでは決して解決しません。どんな国も圧力の下での交渉は受け入れらないでしょう」

 安倍晋三「(トランプ大統領の言葉として)米国との交渉はイランの発展につながる」

 ハメネイ師「米国と交渉しなくても、制裁を受けていても、私たちは発展してきます」(以上)

 イラン最高指導であるハメネイ師の発言から見えてくる姿勢はトランプを相手にせずである。

 だからと言って、羽田空港でイラン出立に向けて、「この地域の平和と安定に向けて、日本としてできる限りの役割を果たしていきたいと考えています」と抱負を述べた以上、ハメネイ師のトランプを相手にせずの強固な拒絶反応に音を上げていいはずはなく、日本の役割を果たすと言った以上、果たすべくアメリカとイランの間を往復して折り合いをつけるシャトル外交となる地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を展開しなければならないはずだ。

 ところが、イラン訪問報告の西暦2019年6月14日の「トランプとの電話会談」では、報告に対して謝意の表明があり、「今後とも、トランプ大統領と、米国と緊密に連携していく考えである」こと、「互いの複雑な国民感情など、緊張緩和に向けた道のりには、大変な困難が伴うわけでありますが、地域の平和と安定、そして世界の繁栄のために、今後とも国際社会と緊密に連携を重ねながら努力を重ねていきたいと考えであること」と、連携の意思を示すのみで、イランの反応を叩き台にトランプと交渉するといった意思表示は何一つ示していない。

 アメリカとイランの国益調整・利害調整、その関係修復に向けてこそ、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交が機能することになるのだが、その意思も動きもどこを探しても、影一つ見つけることができない。となると、イラン訪問はこれまで大層な口を利いてきた地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を自らコケにする(見せ掛けだけで中身のないことを示す)象徴的事例となる。

 ここで発揮できない地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交なんぞ、どれ程の価値があると言うのだろうか。機能させるべきときに機能させることのできない外交など、見せ掛けだけで、中身などあろうはずはない。

 公式ウエッブサイトでのハメネイ師の辛辣なトランプ相手にせずの態度一つを見るだけで、安倍晋三のイラン訪問は失敗も失敗、大失敗だと見るほかないが、ところが、安倍晋三はハメネイ師との会談後、記者団に対して「平和への信念を伺うことができ、地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進だ」と述べ、地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交を敢行するわけでもない一回こっきりの訪問で自身のイラン訪問を高く高く、天よりも高く評価している。この図々しさは単なるポーズを超えている。

 上記川上泰徳氏の記事にしても、〈ハメネイ師から公式に発表された安倍首相の内容を見る限り、安倍首相が提示したトランプ大統領のメッセージは、ことごとく拒否されている。米国との仲介者を演じる安倍首相にとっては取りつく島もなく、イラン訪問は完全に失敗したと評価するしかないだろう。〉、〈世界が注目した安倍首相とハメネイ師との会談であるが、「地域の平和と安定の確保に向けた大きな前進であると評価しています」と肯定的な評価だけで、相手の厳しい反応を一切伝えない首相官邸の発表は、日本国民をミスリードするものであろう。〉と、安倍晋三の自画自賛の風船を針の一突きで簡単に破裂させている。

 これで安倍晋三の地球儀を俯瞰する積極的平和主義外交が見せかけだけで、中身が全然のないことを自ら曝け出したイラン訪問だったことを多くの国民が認知したはずだ。


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