安倍晋三は「ウソ押し通して事実に変える」巧みな実践で首相を続けていられると、タカをくくっている。
東京高検検事長黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルが明るみに出たのは週刊文春の報道がキッカケだった。法務省が黒川弘務に対して聴き取りを開始したのは2020年5月19日。
2020年5月22日 衆議院厚生労働委員会
川原隆司「今回の調査は今月19日火曜日から開始をしておりまして、昨日(2020年5月21日)、調査結果を取り纏めるまで、何回かに亘りまして、事務次官が必要に応じて複数回に亘り、聴取をしたということで、ところでございます」
「文春オンライン」が《黒川弘務東京高検検事長 ステイホーム週間中に記者宅で“3密”「接待賭けマージャン」》と題して黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルを伝えた日付は2020年5月20日。「週刊文春」編集部の記事作成で、〈source : 週刊文春 2020年5月28日号〉と記されている。
ネットで調べたところ、週刊文春は発売号日付よりも1週間前に実発売するそうだから、「5月28日号」は5月21日当たりが発売日となる。その号の販売促進が目的で、発売日前日の5月20日にオンライン記事として配信したと思われる。
但し週刊誌の場合は発売約一週間前に記事に取り上げた人物に対して内容確認の文書・電話・直接の本人取材等を行なうとされている。黒川記事の場合は5月20日から1週間引いた5月13日頃には黒川弘務本人が記事にされることを知ることになったはずである。その際、5月20日にオンラインでの記事配信を知らされていたであろう。
だから、法務省はオンラインでの記事配信の5月20日よりも1日前の5月19日から黒川弘務に対する聴き取り調査を行なうことができたことになる。ところが5月13日頃には黒川弘務本人に対しては5月20日のネット配信を知らされていたはずだから、5月12日から5月19日の聴き取り調査開始までの1週間の間に善後策(後始末をうまくつけるための方法「goo国語辞書」)を練っていたはずだ。
黒川弘務本人としたら、法務省に知らせるよりも前に官邸に伝えていなければならない。2020年1月31日に安倍内閣は検事総長は年齢が65年に達したときに、その他の検察官は年齢が63年に達したときに退官するとしている検察庁法の規定を覆して「検察庁の業務遂行上の必要性」を理由に誕生日前日の2020年2月7日に退官しなければならなかった黒川弘務の定年を半年間延長する閣議決定を行っている。
黒川弘務が誕生日前日の2020年2月7日に退官していたなら、週刊文春報道は約3年前から賭けマージャンしていたとしているものの、特に問題となったのは新型コロナウイルス禍を受けた緊急事態宣言下での政府要請の外出自粛中の賭けマージャンだったからで、退官後に発覚した黒川弘務本人の事件扱いということで、安倍晋三の任命責任はこれ程までに国会で追及を受けることはなかったはずである。
なかったはずの国会追及を受けることになった経緯は法律の改正によってではなく、1981年の国会で「検察官に国家公務員の定年制は適用されない」と答弁した人事院の法解釈を事後公表の形で変更、閣議決定で異例の定年延長を決めたからであって、定年延長を受けた側の検事長黒川弘務の賭けマージャンスキャンダルとなれば、当然、一番迷惑がかかるのは閣議決定した安倍内閣ということになる。
黒川弘務としたら、一番迷惑がかかる相手にいの一番に報告しなければならない自身の不始末でなければならない。報告するについても、善後策を練るについても、事実関係を明らかにしなければならない。
黒川弘務から明らかにされた事実関係に基づいた善後策は官邸側からしたら、法務省や検察庁を混じえて練ったとしても、特に安倍晋三自身に迷惑をかからない、あるいは安倍晋三に迷惑をかけない解決方法を最終的な答としたはずであるし、そのような答としなければならなかった。
安倍晋三に迷惑がかかってもいい解決を答とするはずはないからである。それが訓告処分という最も軽い決定だった。最も軽い処分と安倍晋三に迷惑がからない解決はイコールの関係にある。つまり安倍晋三に迷惑がからない解決は最も軽い処分によって導き出され、最も軽い処分は安倍晋三に迷惑がからない解決によって導き出される。イコールは両者を調和した関係に置く。
安倍晋三に迷惑がからないための善後策は最も軽い処分である訓告を既定路線としていたことになる。法務省の5月19日からの聴き取り調査というのは単なるタテマエで、既に訓告処分が決まっていて、訓告処分を相当とする演出用の架空のスケジュールに過ぎなかったことになる。実際に取調べが行われていたとしても、取調べましたという事実を打ち立てるためのアリバイ作りに過ぎなかったろう。
安倍晋三は処分認定は法務省と検事総長が行ったことで、自身は一切関与していない、処分認定の報告を受けて、それを了承しただけだと言っているが、このような経緯を取ったとすると、黒川弘務から報道されることの報告を受け取っていないことになって、黒川弘務は安倍内閣の閣議決定によって定年延長を受けたという関係から生じる、安倍晋三には迷惑を掛けることはできないとするための配慮の儀礼を欠いていたことになる。その儀礼を欠いて、法務省のみに報告した。法務省も検事長定年延長閣議決定の主たる当事者である官邸に報告せずに調査を開始した。
この事実を事実通りに事実と認めることができる神経を一般的とすることが果たして可能かどうかである。不可能と見るなら、安倍晋三も森まさこもウソを押し通して、そのウソを巧妙に事実と変えていることになる。
週刊文春の黒川弘務賭けマージャン報道は、黒川弘務は一部を否定しているものの、概ね事実と認めていることから虚偽報道、デマではなく、事実報道であった。虚偽報道であったなら、せっかく定年延長された検事長職を辞職するという形で投げ出すはずはないし、安倍晋三に対しても辞職できるはずはない。
2020年5月21日付「asahi.com」記事が、〈黒川弘務コメント全文〉を載せている。
〈本日、内閣総理大臣宛てに辞職願を提出しました。
この度報道された内容は、一部事実と異なる部分もありますが、緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率にすぎるものであり、猛省しています。
このまま検事長の職にとどまることは相当でないと判断し、辞職を願い出たものです。〉
少なくとも検事長の職を投げ出さなければならない程度の賭けマージャンだと認めた。但し、〈緊急事態宣言下における私の行動は、緊張感に欠け、軽率にすぎる〉と、反省点を法を取り締まる側による賭けマージャンという違法行為自体よりも緊急事態宣言下の行動であったことに重点を置いている。まるで緊急事態宣言下の賭けマージャンでなければ、許されるかのようなニュアンスを漂わせている。
もし文春の報道がなかったなら、黒川弘務の検事長という立場での賭けマージャンは国民の目に届くことなく続けられて、国家公務員法が改正されて検事総長に採用されでもしたら、賭けマージャンを続けながら、立場を検事総長に変えて、「個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる」(検察庁法第14条)強い権限で以って犯罪を取り仕切るという皮肉な事態を演じていたはずである。
2020年5月20日の文春オンライン配信記事の主たる内容は緊急事態宣言下の外出自粛中の5月1日と5月13日に産経新聞社会部記者2人と朝日新聞の元検察担当記者が黒川弘務を加えて賭けマージャンをしたことと、黒川弘務の賭けマージャンは今に始まったことではないといったことで、法務省の黒川弘務に対する取調べもこの記事内容にほぼ添って行われたことが2020年5月22日の衆議院厚生労働委員会での法務省刑事局長川原隆司の答弁で明らかになっている。
川原隆司「今年の5月1日と13日の日を跨いでおりますが、これについては申し上げますが、それぞれ産経新聞の記者と黒川検事長が賭けマージャンを行った事実、それから帰宅の際にハイヤーに同乗した事実等を認められております。
そのほか黒川検事長にその後も麻雀、ハイヤーの事実ということを、当然、確認したところでございますが、その結果、黒川検事長からは今回の5月1日、あるいは13日のメンバーとされています記者3人と約3年前から月に1、2回程度、同様な賭けマージャンをやっていたということ、あるいは帰宅の際に記者が帰宅するために乗車するハイヤーに同乗したというような聴取の結果を得ているところでございまして、そうした調査結果になってございます」
報道の事実を対象とした調査の範囲となっている。一度も、「週刊誌報道にはなかったことですが、黒川弘務検事長本人からの申し立てによってこれこれの事実も明らかになり、それらの事実も加えた事案の内容と諸般の事情を総合的に考慮し、適正な処分を行った」とは誰も言っていない。そしてこの聴取の結果を以って懲戒でもなく、停職でもなく、軽い、軽い訓告処分とした。
本人からの申し立てによる新事実の判明など、掛けることはできない内閣への迷惑を上乗せして、自身の罪をなお重くするだけの効果しか見込めないことであって、ありようはずはないと断言できる。大体がコメントで、「一部事実と異なる部分もありますが」の云々は罪を軽くする意図の常套句として頻繁に用いられる。
要するに報道の事実を少しでも事実から遠ざけたい虚しい悪足掻きに過ぎないのは辞職を欠かすことができな要件とする程に報道の事実を概ね事実と認定せざるを得なかったところに現れている。
ところが文春オンラインは黒川弘務賭けマージャン第2報なのか、2020年5月27日付で、〈黒川前検事長は10年以上前から「賭博常習犯」だった〉とする趣旨の証言付きの記事を配信している。
「週刊文春」編集部の作成で、「source : 週刊文春 2020年6月4日号」となっている。
元雀荘店員の証言「黒川さんは、週に1~2回、多い時には週3回もいらっしゃいました。いつもBさん(産経記者2人のうちの1人)が予約を入れるのですが、Bさんが急な取材でドタキャンになることもあった。Aさん(産経記者の残りの1人)が一緒のことも多かった。休日に、ゴルフ帰りの黒川さんたちがマージャンをやりたがって、特別にお店を開けたことも何度もありました。風営法上、午前0時を過ぎての営業は出来ないのが建前ですが、照明を落として午前2時頃まで暗がりの中で続けることもありました。点数を取りまとめていたのはBさんでした」
記事は、〈黒川氏は10年以上前から、新橋や虎ノ門、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていたことが分かった。〉と書いている。
東京高検検事長黒川弘務の常習賭博マージャンは文春オンラインの2020年5月20日報道によって事実とされた。但しその常習性は法務省調査によって「約3年前から月に1、2回程度」とされた。
2020年5月27日付文春オンライン記事は黒川弘務の常習性を「10年以上前から」としている。最初の記事が虚偽報道ではなく、事実報道として法務省の調査が開始されたなら、次の記事を虚偽報道と決めつける根拠は希薄で、一応は事実報道と仮定して、「約3年前から月に1、2回程度」の常習性とした法務省の調査が適切であったかどうか、検証する必要性が生じる。例え検証といかなくても、調査の遣り直しは必要となる。断るまでもなく、「約3年前から月に1、2回程度」の常習性と「10年以上前から、新橋や虎ノ門、時には渋谷にまで足を延ばして、雀荘に足しげく通っていた」常習性とは質も回数も明らかに異なるからである。
2020年5月29日 参議院本会議 一括質問・一括答弁方式 倉林明子(共産党)「社会福祉等改正案についてお尋ね致します。法案の質疑に入る前に黒川前東京高検検事長の処分について質問します。内閣が『余人を以って代え難い』として法解釈を変更してまで定年延長された黒川氏があろうことか、賭博行為である賭けマージャンをしていたこと、さらにこの処分は訓告にとどまり、約6千万円もの退職金が支払われることに国民から抗議の声が上がっております。総理は任命責任をどう果たすおつもりですか。 10年前からも常習性を疑われる新たな事実が報じられています。再調査の指示を出すべきではありませんか。 処分について訓告との判断はなぜ適正と考えるのか、国民の疑念に総理自身の言葉で説明すべきです。明確な答弁を求めます」 安倍晋三「黒川前東京高検検事長処分等についてお尋ねがありました。黒川氏の処分については法務省に於いて必要な調査を行い、法務省及び検事総長に於いて事案の内容等諸般の事情を総合的に考慮して、訓告が相当であると判断し、適正に処分したものと承知をしています。 黒川氏の処分を認定するに当たり、法務省に於いては事実関係について必要な調査を行ったものと承知をしており、再調査は必要ないものと考えています。 他方で黒川氏を検事長として任命したこと等については法務省・検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあり、ご批判は真摯に受け止めたいと考えております。その上でまさに我々には新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止すると共に国民の健康と命、雇用と暮らしを守り抜いていく大きな責任があると認識しております。 いずれも行政府の長として一層身を引き締めて、行政運営に当たることにより、その責任を果たしていく所存であります」 |
この参議院本会議があったのは2020年5月29日。「10年以上前から」の常習性を内容とする記事を文春が配信したのは2020年5月27日付であって、2日後の安倍晋三の答弁である。文春の「10年以上前から」の記事を知らなかったとした場合、官邸の情報収集能力が疑われるだけではなく、国会答弁は一般的には質問通告を受けて行なう。ましてや本会議の一括質問・一括答弁方式では質問通告がなければ、答弁は成り立たない。
要するに安倍晋三は2020年5月27日付の文春オンライン記事の内容を把握していなければ、答弁はできなかったことになる。
共産党参議院議員倉林明子は2020年5月27日付文春オンライン記事を取り上げて、黒川弘務の賭博マージャン常習性を「10年前からも常習性を疑われる新たな事実が報じられています」と指摘した。
ところが、安倍晋三が答弁している「法務省に於いて必要な調査を行った」、処分認定に関しても法務省が「必要な調査を行った」としている法務省の調査とは文春が最初の報道で伝えている「約3年前から月に1、2回程度」の常習性を根拠として行ったものであり、2020年5月27日付の文春オンライン記事が黒川弘務の賭博マージャンの常習性を「10年以上前から」としている情報を根拠とした調査では全くない。
このゴマカシを正当化して、「再調査は必要ない」とするのは、「10年以上前から」の常習性を「約3年前から月に1、2回程度」の常習性としたままにして置く、「ウソ押し通して事実に変える」類いの強弁に過ぎない。
森まさこが2020年5月22日の記者会見で検事長黒川弘務の訓告処分は「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ましたが、最終的には任命権者である内閣に於いて決定がなされたということでございます」との発言で、法務省と内閣が様々に協議し、最終決定は内閣が行ったとする経緯を、黒川弘務としたら、一番迷惑がかかる相手にいの一番に報告しなければならないのだから、官邸が関わらないはずはない処分決定であるにも関わらず、5月26日の記者会見になると、「(5月)22日の記者会見における私の『内閣において決定がなされた』旨の発言は法務省及び検事総長が『訓告』が相当と決定した後、内閣に報告したところ、その決定に異論がない旨の回答を得たことを申し上げたものでございます」と、内閣決定を法務省及び検事総長の訓告処分決定に対する内閣による「異論がない旨の回答」に変えている。
法務省と検事総長の2者のみで決めた訓告処分であるなら、5月22日の記者会見で述べた「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ました」は法務大臣でありながら、なかった事実をあった事実であるかのように発言したことになる。そのメリットはどこにあるのだろうか。
逆に5月26日の記者会見であった事実をなかった事実とすることによるメリットは容易に考えることができる。処分決定に内閣は一切関わらなかったとする事実の打ち立てが可能となる。
要するに処分決定に内閣が関わったとする森まさこの5月22日の記者会見発言「法務省内、任命権者であります内閣と様々協議を行いました。その過程でいろいろな意見も出ました」は内閣にとって、即ち安倍晋三にとってデメリットそのものであって、発言自体に矛盾が生じることも構わずにあった事実をなかった事実に変えざるを得なかった。
この森まさこのあった事実をなかった事実に変えて、デメリットをメリットとする巧妙さを必要とする方向転換にしても、「ウソ押し通して事実に変える」実践によって可能となる。
森まさこは黒川弘務定年延長の閣議決定に対する野党の国会追及でも散々に「ウソ押し通して事実に変える」ことを散々に実践してきた。
安倍晋三にしても、黒川弘務定年延長閣議決定にとどまらずに、森友・加計疑惑、「桜を見る会」疑惑、アベノマスク全世帯配布等々に対する国会答弁で「ウソ押し通して事実に変える」名人芸を数え切れない程に実践してきた。
この名人芸からしたら、共産党議員倉林明子に対する答弁の最後で「他方で黒川氏を検事長として任命したこと等については法務省・検察庁の人事案を最終的に内閣として認めたものであり、その責任については私にあり、ご批判は真摯に受け止めたいと考えております」はウソの上塗りに過ぎないと見なければならなくなる。
要するに安倍晋三なる政治家はオオカミ少年の少年に当たる。オオカミ少年のようにウソがいつ命取りになるのだろうか。