1月25日(2018年)発売の「週刊新潮」が経済再生担当相茂木敏充が自身の政党支部に寄付した線香を秘書が栃木県の選挙区の有権者に配布、公選法違反の寄付行為の疑いがあると報じたという。第196回通常国会一般質疑が1月29日から衆議院で開始され、野党がこの疑惑を早速取り上げた
取り上げた議員は、承知しているところでは1月29日衆院予算委で立憲民主党逢坂誠二と希望の党の大西健介、1月31日参院予算委員会で民進党森本真治といったところ。
前二者の遣り取りはマスコミ記事の紹介で済ます。
立憲民主党の逢坂誠二氏への答弁。
茂木敏充「政党支部の政治活動として配布している。個人の名前を記載してはいけないという規定にのっとって行っている」(朝日デジタル)
希望の党大西健介と茂木敏充の遣り取り。
大西健介「改めて、何をどれぐらい配ったかお答え頂きたい」
茂木敏充「私は行っておりません。私の支部で配布した手帳などに、私の氏名は入っていない。公職選挙法の規定にのっとり、政党支部の政治活動として行っているものだ」
大西健介「秘書が持って行ったって、(政治家)本人が持って行ったことになるんですよ」(同朝日デジタル)
要するに贈った線香に茂木敏充の名前を記載していないし、秘書が配ったとしても、自分が直接配り歩いたわけではないから、公職選挙法違反にならないと主張していることになる。
だとすると、例え線香に茂木敏充の名前を記していなくても、大西健介が「秘書が持って行ったって、(政治家)本人が持って行ったことになる」と言っていることが公職選挙法の禁止規定に該当する事実とすることができるのか、できるなら、該当の事実として茂木敏充に認めさせることができるかどうかにかかっていることになる。
言い替えると、線香に茂木敏充という贈り主の名前が書いてなくても、秘書が持っていった場合、それは茂木敏充という政治家からの贈り物だと断定できるか断定できないかということになる。
事実とすることができなければ、少なくとも国会質疑上は茂木敏充を無罪放免とすることになる。
1月31日参院予算委員会で民進党の森本真治が同様の問題を取り上げたこと自体、前二者は「秘書が持って行ったって、(政治家)本人が持って行ったことになるんですよ」を公職選挙法禁止規定該当の事実として茂木敏充に認めさせることができなかったことになる。勿論、森本真治も認めさせることができなかった。
追及側は公職選挙法の次の規定に違反しているとして追及している。
(公職の候補者等の関係会社等の寄附の禁止) 第199条の3 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)がその役職員又は構成員である会社その他の法人又は団体は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、これらの者の氏名を表示し又はこれらの者の氏名が類推されるような方法で寄附をしてはならない。ただし、政党その他の政治団体又はその支部に対し寄附をする場合は、この限りでない。 |
公職の候補者等に対して氏名を表示、表示しなくても氏名が類推できる方法での選挙区の有権者への寄附を禁止している。但し当該人物による政党その他の政治団体又はその支部に対しての寄附は除いている。
だから、茂木敏充を自身の政党支部に対して線香を寄付することができた。それを秘書などが配ったということは、法律に抵触するかどうかは別にして、寄付を迂回させたことになる。
では、1月31日参院予算委員会での民進党森本真治と茂木敏充の支援者に対する線香配布の遣り取りを見てみる。
森本真治「民進党・新緑風会の森本真治です。先ずは宜しくお願いします。先ずは茂木敏充大臣、ご自身が代表を務める政党支部の政治活動として秘書が線香を有権者に配布したと言うことを衆議院の方でご答弁されていました。 (1月31日、最初の質問に立った)小川委員の方で質問を受けていましたけども、時間の関係で私の方から質問させて頂きます。茂木大臣はですね、衆議院の方で『私が配布したもので、私の氏名は入っておりません』と答弁されております。大臣自ら支援者に線香を持っていったことはありますか」 茂木敏充「通告頂いておりませんが、ございません」 森本真治「大臣自ら持っていって頂かないということでございます。大臣は9回連続当選でですね、大変選挙にお強い代議士で、地元秘書の教育指導もしっかりと行われていると思います。 茂木事務所に於いて支持者などを訪問する際にどのような挨拶をしているのか、茂木事務所の誰々ですと、茂木大臣の秘書であることをきちんと述べるようにご指導されておりますか」 茂木敏充「個別の政治活動についての、あの、コメントは差し控えさせて頂きます」 森本真治「個別ではなくて、一般に政治活動をされるときにどのように秘書に挨拶、支援者に対してですね、全く名前を名乗らず訪問するということは有り得ませんから、どのように挨拶するようにということを指導されていますか」 茂木敏充「政党の職員がおります。そして秘書がおります。丁寧に色んな形で支援者の方、地元の方と接するように、そのような話を致しております」 森本真治「政党の職員が、その政党の職員であると名乗って挨拶をする。個人事務所の秘書は個人事務所の秘書ですということを名乗って挨拶をするという指導でよろしいですね」 茂木敏充「一般的な社会常識に従って様々な接触をしていると考えております」 森本真治「政党職員さんの名刺には政党支部誰々、後援会事務所であったり、個人事務所の秘書の名刺には茂木敏充事務所秘書という名刺を二つを分けるということでよろしいです」 茂木敏充「個別の政治活動についてはですね、何らかの違法性があるということであれば、ご質問頂ければという話は(ヤジ)、あの、政治活動について、一般的な政治活動のですね、詳細については、あの、お答えすることは控えたいと思います」 森本真治「大臣の政治活動ということで先刻の小川委員は質問されておりますので、当然、それについてお答え頂ければいけないというふうに思います。 茂木大臣の秘書が線香を配った際にですね、茂木事務所の誰々ですという挨拶は一切行っていないということでいいのか、一枚の名刺も持っていっていないということでよろしいのか、お伺いします」 茂木敏充「個別の活動について、私がですね、その場に居合わせているわけではありませんので、その点分かりません」 森本真治「小野寺大臣、ちょっとお伺いしたいと思います。大変過去のことで恐縮なんですけど。小野寺大臣は以前に同じような案件ということで公民権停止と言うようなことがございました。 お配りした線香には個人の名前は書いていらっしゃったんですか」 小野寺五典「衆議院の方でお話を致しました。もう20年以上も前の話ですので、もういいんじゃないでしょうか」 抗議でほんの短い間中断。 金子原二郎委員長「小野寺防衛大臣」 小野寺五典「衆議院の方でお答え致しました。同じようにお答え致します。平成・・・・、もう20年近くになったと思います。初当選して1年か2年ぐらいのときに初盆のときですね、線香を持って支援者のところに行ったということがあります。 そのときは私自身が持っていきました。その後警察の方からそれは公職選挙法違反ではないかとご指摘があって、そしてその後、書類送検をされました。 書類送検されたということでこれは違反になるんだなあと、そのとき恥ずかしながら初めて認識を致しまして、議員辞職をさせて頂き、その後公民権停止を経て地元の皆さんのご支援もあり、今こうして仕事をさせて頂いているということでございます」 森本真治「あの、大臣、申し訳ございません。ご質問させて頂いたのは配布したものにご自身の名前が記載されていたかどうかということをお聞きしたかったんです」 小野寺五典「要は、まあ、全て終わった件でありますが、そのとき線香に私は自分の『衆議院議員小野寺五典』と書いてあるものを私自身が持参していきましたので、それは明確に公職選挙法違反と私自身が後に検事さんが言われたので、自分は間違いを犯してしまったなあと、そう思っております」 茂木敏充「ご自身でということでございましたけども、秘書がお持ちになられたということもあったのですか」 小野寺五典「えー、私も持っていったということもありますし、私が回れない所で秘書が行ったこともあると思います。ただ、いずれにしても、私の場合には明確に『衆議院議員小野寺五典』と書いて、そして行きましたので、私が行こうが秘書が行こうが、それは公職選挙法違反ということで、私供として大きく反省すべき点だと思っています」 森本真治「茂木大臣ですね、公職選挙法の解釈についてのお考えをお伺いしたいと思います。線香そのものにですね、茂木等の名称が記載されていなくても、これを持参した秘書がですね、茂木事務所の誰々ですと茂木大臣の秘書であることを挨拶や名刺で示せば、これは『公職選挙法の199条の3』で禁止する、政党支部の役員の氏名を表示し、またはこれらが類推されるような方法で寄付をしたことになるのではないかと私は思うんですけども、大臣はどのように思われるのでしょうか」 茂木敏充「政党支部の政治活動で行われたものであるんですが、これは公職選挙法の199条の3に則っていると考えておりますが、公職選挙法の199条の3についての解釈等はですね、私は行う立場にないと思っております」 森本真治「総務大臣、総務相の見解をお伺いしたいと思います。公職選挙法の199条の3で禁止する『氏名を表示し、またはこれらが類推されるような方法』にはですね、秘書が○○議員の、誰々議員の誰々ですとか、何々議員事務所の誰々ですなどと挨拶したり、名刺の提出などを寄付と一緒に行った場合はこれは該当しないのかどうか、総務相の見解をお伺いしたいと思います」 野田聖子「質問通告を頂いておりませんが、お答えを致します。総務相としては個別の事案について実質的調査権を有しておらず、具体的事実関係を承知する立場にはないので、一般論としてではありますが、公職選挙法では公職の候補者と政党支部、後援団体のそれぞれの寄付を行う主体別に関わる対応の形式制(?)が置かれておりまして、一般の政党支部は公職の候補者等と異なり、公職選挙法の199条の3に於いて候補者等の氏名を表示し、また氏名を類推させる場合に限って当該選挙法にある寄付を禁止されています。 『氏名を表示し』とは、直接候補者の氏名を表示することであります。また氏名が類推される方法とは直接公職の候補者等の氏名の表示がなくても、その氏名が類推されるような場合にその団体等の名等を記載することを言います 例えば、政党支部の職員または秘書等が氏名の表示のない政党支部からの寄付を持参することは直ちに氏名が類推される方法によるものとは言えないと考えております。 いずれにしても具体の事例については個別の事案ごとに具体の事実に即して判断されるべきものだと考えております」 森本真治「私の質問と少しご答弁が違ったんですけども、名刺、そのとき一緒に類推されるような名刺を持っていったりとか、口頭の挨拶の中で類推されるような発言をした場合はこの既定に抵触するかどうかということを聞いたんですが、もう一度お願いします」 野田聖子「総務相の立場としてご答弁申し上げます。繰返しになりますけども、個別の事案について実質的調査権を有しておらず、具体的な事実関係をする立場にはないので、こうした具体の事例については具体の事案ごとに具体の事実に即して判断されるべきものだと考えております」 森本真治「委員長にお願いであります。公職選挙法の199条の3で禁止する『氏名を表示し、またはそれらが類推されるような方法』にですね、例えば秘書が誰々議員の秘書であるということを名乗ったり、名刺を一緒に持っていくということが『これら類推される』ということに該当するかどうかと言うことを、氏名の表示とか類推ですね、その見解をこの委員会に提出して頂くよう、お願いします」 金子原二郎委員長「後日、理事会で協議致します」 |
森本真治は前二者の立憲民主党逢坂誠二や希望の党の大西健介と同様の質問を繰返し、同様の答弁を繰返させたことになる。野田聖子も逢坂誠二だか大西健介だかにほぼ同様の質問を受けて、ほぼ同様の答弁をしていたから、同じような場面を単に繰返させていたに過ぎないことになる。
同じ場面の繰返しは時間のムダの証明でしかない。このよう体たらくでは野党にいくら質問時間を与えても、満足な追及は期待できない。
繰返すが、茂木敏充は自身が自身の政党支部に寄付した線香を秘書、あるいは政党支部の職員が政治活動の一環として支援者に配った。但し線香には茂木敏充の名前は記載してなかった。
国会議員の秘書や国会議員の政党支部職員はその国会議員の政治活動に関しては自律的に独立した一個の人格を有しているわけではない。常に国会議員の指示を受ける形か、国会議員の意思を反映させる形で行動する。秘書、あるいは職員が国会議員の指示ではなく、勝手に行動したことであっても、その行動を受け止める側は国会議員の指示か、その意志を反映させた政治活動の一環としての行動だと解釈する。
当然、秘書や職員が茂木敏充の指示からではなく、自らの立場を忘れて自身の意志で線香を配ったとしても、受け取る側は政治活動の一環だと勘違いして茂木敏充からの線香だと認識することになるはずだ。否が応でも氏名を類推させる。
また、茂木敏充が「政治活動としての配布」と断っている以上、秘書や職員が自身の贈り物として線香を配る謂れはどこにもない。
森本真治は秘書や職員が線香を配る際、茂木事務所の名前か、あるいは茂木の政党支部名が書いてある名刺を示したか示さなかったか、あるいはそう名乗ったかどうかに拘っていたが、秘書もしくは職員が支援者と熟知の間柄である場合はそれぞれの顔が名刺の代わりの役割をする。当然、改めて名刺を渡すといった面倒はしない。
面識がない場合は、名刺を渡すか、渡さない場合は名乗らなければ、線香を渡すことはできない。
以上のことから、線香に茂木敏充の名前が書いてあろうがなかろうが、秘書あるいは職員が名刺を見せようが見せまいが、いずれの場合であっても、線香が誰々からの物かの何らかの方法による意思疎通がそこに介在していなければ、渡す方も渡すことができないし、受け取る方も受け取ることはできない。
勿論、その意思疎通の中には名刺を改めて出す必要はない名刺代わりとなる、いわゆる“知っている顔”が果たす機能も含まれる。
それが何であろうと、何らかの方法による意思疎通が介在した場合は氏名を類推させることになって、公職選挙法が禁止している「氏名を類推されるような方法」での寄附に該当することになるはずだ。
このような意思疎通がないままに線香を渡そうとしたなら、渡された相手は気味が悪い思いをするはずだ。気味が悪い思いをせずに受け取ったなら、その人間の感覚が疑われることになる。
要するに線香を配る側は受け取る側がそれが誰からの物か分かる方法で配る。そのことによって“氏名の類推”が発生する。
これらのことを前提に野田聖子の次の発言を見てみる。
「政党支部の職員または秘書等が氏名の表示のない政党支部からの寄付を持参することは直ちに氏名が類推される方法によるものとは言えないと考えております」――
線香を配り、それを受け取る際に何らかの方法による意思疎通の介在の必要性を一切無視して、「氏名の表示」がないことを以ってのみ意思疎通の介在がなかったことと看做して、“氏名類推の方法とは言えない”としている。
顔が何のためについているのか、それさえ無視した野田聖子の発言は論理破綻としか言いようがない。茂木敏充の秘書や職員が配ったのであって、自分が配ったわけではない、名前は記載していないが許されるとしたら、あるいは茂木敏充のこの主張を補強するすることになる野田聖子の論理破綻が罷り通るとしたら、名前さえ記載しなければ、秘書や政党支部職員を使っていくらでも寄付行為ができることになる。
公平・公正であるべき選挙は無秩序を極めることになるだろう。
ネットで調べてみたら、高級な線香は8束で1万円以上もする。後援会支援者に安物の線香を配るはずはない。高額であることによって感謝という見返りが大きくなり、その見返りは票への確実な結びつきを期待させることになる。
なぜ線香の値段を追及しなかったのだろうか。何人の支援者に配ったのか、なぜ問い質さなかったのだろうか。金額や人数によってはその悪質性を炙り出すことができる。