菅仮免首相の浜岡原発全停止要請は姑息な“大英断”

2011-05-07 07:27:46 | Weblog



 昨5月6日(2011年)夕方7時過ぎから菅首相が記者会見し、静岡県御前崎市所在の中部電力浜岡原子力発電所のすべての原子炉運転停止を要請したと公表した。その全文を首相官邸HPから採録、ここに記載してみる。

 菅内閣総理大臣記者会見(2011年5月6日)  

【菅総理冒頭発言】

 国民の皆様に重要なお知らせがあります。本日、私は内閣総理大臣として、海江田経済産業大臣を通じて、浜岡原子力発電所のすべての原子炉の運転停止を中部電力に対して要請をいたしました。その理由は、何と言っても国民の皆様の安全と安心を考えてのことであります。同時に、この浜岡原発で重大な事故が発生した場合には、日本社会全体に及ぶ甚大な影響も併せて考慮した結果であります。

 文部科学省の地震調査研究推進本部の評価によれば、これから30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性は87%と極めて切迫をしております。こうした浜岡原子力発電所の置かれた特別な状況を考慮するならば、想定される東海地震に十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要です。国民の安全と安心を守るためには、こうした中長期対策が完成するまでの間、現在、定期検査中で停止中の3号機のみならず、運転中のものも含めて、すべての原子炉の運転を停止すべきと私は判断をいたしました。

 浜岡原発では、従来から活断層の上に立地する危険性などが指摘をされてきましたが、さきの震災とそれに伴う原子力事故に直面をして、私自身、浜岡原発の安全性について、様々な意見を聞いてまいりました。その中で、海江田経済産業大臣とともに、熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として本日の決定をいたした次第であります。

 浜岡原子力発電所が運転停止をしたときに、中部電力管内の電力需給バランスが、大きな支障が生じないように、政府としても最大限の対策を講じてまいります。電力不足のリスクはこの地域の住民の皆様を始めとする全国民の皆様がより一層、省電力、省エネルギー、この工夫をしていただけることで必ず乗り越えていけると私は確信をいたしております。国民の皆様の御理解と御協力を心からお願いを申し上げます。

【質疑応答】

(内閣広報官)
 それでは、質問を2問お受けします。山口さん、どうぞ。

(記者)
 NHK、山口です。

 安全性の観点から止めるということですけれども、中部電力はこれまで東海地震並みの揺れが起きても安全性に問題はないとしてきて、国も容認をしてきたわけですけれども、なぜこの後に至って突然浜岡原発だけなのかというのが一つ解せないことと、もう一つ、この夏場を迎えてこれを全部止めるということになると、夏場の電力量よりも供給量が下回ってしまうと思うんですが、その対策は具体的にどのようにお考えになっていますか。

(菅総理)
 ただいま申し上げましたように、浜岡原子力発電所が所在する地域を震源とする、想定される東海地震が、この30年以内にマグニチュード8程度で発生する、そういう可能性が87%と文科省関係機関から示されております。そういう浜岡原発にとって特有といいますか、その事情を勘案をして、国民の安全、安心を考えた結果の判断、決断であります。

 また、電力不足についての御質問でありますけれども、私はこれまでの予定の中で言えば、多少の不足が生じる可能性がありますけれども、この地域を始めとする全国民の皆様の理解と協力があれば、そうした夏場の電力需要に対して、十分対応ができる、そういう形がとり得ると、このように考えているところであります。

(内閣広報官)
 それでは、もう一方。坂尻さん、どうぞ。

(記者)
 朝日新聞の坂尻です。

 今、総理がなされた浜岡原発の停止要請なんですけれども、これはどういった法律のどういう根拠に基づく要請であるのかという点と、もしそういう法的な担保がない場合は、この中部電力側が断ってきた場合、総理はどのようにされるおつもりなんでしょうか。

(菅総理)
 この要請に関して、後ほど海江田経済産業大臣から詳しく御報告をさせていただきますけれども、基本的には、私が今日申し上げたのは、中部電力に対する要請であります。法律的にいろいろな規定はありますけれども、指示とか命令という形は、現在の法律制度では決まっておりません。そういった意味で要請をさせていただいたということであります。

 もう一点は何でしたか。

(記者)
 もし中電側がこの要請を断ってきた場合、総理はどういうふうにされるおつもりなんでしょうか。

(菅総理)
 ここは十分に御理解をいただけるようにですね、説得をしてまいりたいと、このように考えております。

(内閣広報官)
 それでは、これで総理記者会見を終わります。どうもありがとうございました。

 停止要請理由は、「30年以内にマグニチュード8程度の想定東海地震が発生する可能性は87%とする文部科学省の地震調査研究推進本部の評価」を鑑みて、「何と言っても国民の皆様の安全と安心を考えてのことであります」としている。

 マスコミの中にはこの停止要請を、決断を評価するとか、静岡県知事の「大英断だ」とする声を伝えておおむね評価している。 

 だが、問題点がいくつかある。

 先ず決定過程を問題点として挙げなければならない。

 「さきの震災とそれに伴う原子力事故に直面をして、私自身、浜岡原発の安全性について、様々な意見を聞いてまいりました。その中で、海江田経済産業大臣とともに、熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として本日の決定をいたした次第であります」と言っている。

 様々な意見を聞いた中には勿論のこと原子力の専門家も混じっていたろう。だが、停止を協議したのは海江田経産相との間のみで、二人で「熟慮を重ねた上」、最終決定したのは菅仮免自身だとしている。

 なぜ協議の場(=「熟慮」の場)に原子力安全委員会や保安院、原子力を専門としている内閣参与等のメンバーが加わっていなかったのだろうか。

 なぜなら、地震発生から2週間を迎えた首相記者会見で、避難指示が当初の3~10キロから20キロへ、20~30キロは屋内退避へと変化、3月25日になって屋内退避圏の住民に対して自主避難要請へと変化していったことに記者から、「政府の対応は悪化していく事態を後追いしているのではないか」と質問されると、次のように答えているからだ。

 菅仮免「この退避の範囲については、原子力発電所の状況。また、放射性物質が気候の関係も含めて、どこにどう行くのかという予測。そして、何よりも各地域で得られたモニタリングの数値などに基づいて、原子力安全委員会が中心となって、その専門家の皆さんが分析・判断をいただいた上で、最終的に政府として退避の指示を出しております。そういった専門家の皆さんの判断を尊重した対応でこれまでもありましたし、これからもそうした姿勢で臨んでいきたいと考えております」――

 原子力の専門家の分析・判断に基づいた、最終的な政府の判断であり、この決定過程は、「これまでもありましたし、これからもそうした姿勢で臨んでいきたい」との表現で終始一貫した決定構造だとしている。

 震災発生から3週間が経過した時点での記者会見でも、避難区域に関して同様の趣旨の答弁を行っている。

 菅仮免「現在、我が国では、御承知のように、原子力安全委員会が政府に専門家としての助言をする。勿論そのベースには、いろいろなモニタリングなど、あるいはいろいろな原発におけるオペレーションなども考えて、専門家の知識を集めて助言をすると。そういう中で助言をいただいて、専門家の皆さんのある意味の提案を尊重する中で、その範囲を決めているというのが我が国の状況でありますから、それは日本としては、国民の皆さんにその基準を守っていただいておれば、健康に対しての被害が生じることはないという、そういうことでお願いをしているところであります」

 原子力安全委員会の助言(=判断)を受けて政府が避難区域の範囲を決定している。国民はその基準を守っていれば、「健康に対しての被害が生じることはない」と請合っている。

 だとしたら、浜岡原発停止要請が「国民の皆様の安全と安心」を主眼とするなら、原発停止自体は原子力安全委員会の助言(=判断)を基準としなければならないはずだ。

 その助言(=判断)を受けて、政府が決定した――政府としての判断を示したと言うことでなければならない。

 このことを逆説するなら、政府の最終決定により的確な根拠と計画性を持たせるために専門家の基準に従うということであろう。

 百歩譲って、「私自身、浜岡原発の安全性について、様々な意見を聞いてまいりました」の中に原子力安全委員会の助言(=判断)が既に含まれているとするなら、引き続いての「海江田経済産業大臣とともに、熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として本日の決定をいたした次第」は矛盾する言い回しとなるし、原子力問題に関して原子力の専門家の分析・判断に基づく政府の判断という決定過程を基準としていることからしても正直な表現とは言えなくなるが、当然、原子力安全委員会の専門家がどういう意見を述べ、原発停止へ向けてどういう判断を示したのか、菅仮免は具体的に国民に知らせる説明責任を負う。

 だが、停止要請への決定過程に関しては何ら説明もない。東海地震の危険性に対して「十分耐えられるよう、防潮堤の設置など、中長期の対策を確実に実施することが必要」であることと、「何と言っても国民の皆様の安全と安心を考えてのこと」だと説明しているのみで、決定過程の説明責任とはなっていない。

 また全原子炉を停止した場合の「電力不足のリスク」に関しては、「多少の不足が生じる可能性」があるが、国民の「省電力、省エネルギー」によって「必ず乗り越えていけると私は確信」していると言っている。

 だが、国民が必要とすることは菅仮免の「確信」などではなく、国民に負担を求める「省電力、省エネルギー」である以上、どの程度不足し、不足に対応した国民の負担となる「省電力、省エネルギー」がどのくらい必要なのかの具体的な根拠と説明である。

 震災避難住民の仮設住宅入居時期を「8月のお盆までに全員入居」を公約しながら、その公約が「私が強く指示すれば実現できると私なりの見通しで言った」“見通し”に過ぎないことを自ら暴露したが、必要としていることは的確な計画性だと気づかない鈍感な判断能力の持主である菅仮免である。

 具体的且つ十全な説明があって初めて原子炉全停止は多くに亘って同時併行で計画性を伴い得る。

 さらに問題なのは、中部電力が政府の要請に応じて全原子炉を停止した場合、原子炉を稼動状態に置くことで既にそこに固定化していた経済上の利害関係をどう解決するかの説明も計画も示していない。

 この手抜かりは長崎県の諫早湾干拓事業を巡る裁判の2審が堤防の排水門を5年間開けるよう国に命じた判決に対して、そこに多くの農業者の経済的な利害が、より大袈裟に言うと、生存上の利害が新たに発生、固定化していることに向けた解決の計画性を持った見通しを示しもせずに菅仮免が上告断念したのと通じている。

 従業員の雇用に関して言うと、中部電力の直接の雇用関係にある従業員は身分保証を得るかもしれないが、ほぼ確実に整理される下請会社の従業員の生活補償はどうするのだろうか。まさか、全国民の安全には代えられないと切って捨てるわけにはいかない。

 単に「国民の皆様の安全と安心を考えてのこと」だと説明するだけでは済まない原子炉停止要請のはずだが、記者からの「質問を2問」と限って自らの説明をも限定する姿勢にも、一国のリーダーとしての潔さも懇切丁寧さも見当たらない。逆にその場限りの姑息さしか窺うことができない。
 
 原子力問題に関しては原子力の専門家である原子力安全委員会の分析・判断に基づく政府の判断という決定過程を自ら規定していながら、原子力安全委員会の分析・判断とは関係ないように見せかけて、あるいはその存在を隠して、「海江田経済産業大臣とともに、熟慮を重ねた上で、内閣総理大臣として本日の決定をいたした次第」だと、さも自らの最終的な判断・決定であるかのように思わせる手柄顔にしても、潔くない姑息な態度としか言いようがない。

 尤も菅仮免の潔くない姑息な態度は様々な場面で見せる責任逃れに象徴的に現れている姿勢であって、今に始まったことではない。

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