NHK2月28日(08年)「ニュースウオッチ9」から防衛省の虚偽行為を見る。
①事故当日の19日、イージス艦の航海長をヘリコプターで東京市ヶ谷の防衛相に呼び出して行われて
いた事情聴取で防衛省は捜査に当たる海上保安庁の事前の了承を得ていたと説明していたが、得て
いたとしていたのはまったくのウソ・虚偽の類で、実際は承諾を得ずに独断で行った事情聴取だっ
た。
27日の増田防衛省事務次官の記者会見。
質問「虚偽の説明をしたという認識はありますか?」
増田「(海上保安庁との)認識に齟齬がある、もしくは食い違いがあるわけですね。それはもしかしたら、その、今のご指摘のような点、の、その可能性もですね、まったく排除できると、いうことではないと思っています」
何と煮え切れない発言あることか。
事前了承に関して「認識に齟齬がある」ということは防衛省側は事前了承を得たつもりでいたが、保安庁側はそれを事前了承と受け取っていなかった――つまりその点に関する防衛省側から海上保安庁側に向けたコンタクトは取っていたが、それが了解点にまで達していなかったという意味でなければならない。
だが、「虚偽の説明」の「可能性は排除できるということではない」と前後に矛盾することを言っている。なぜマスコミは「虚偽の可能性が排除できないということはどういうことなのか」と問い詰めなかったのだろうか。それが全くの「虚偽」であったなら、「認識の齟齬」は生じないことになる。
それとも増田の言う「認識」とは防衛省側にも事情聴取するぐらいの権限はあると思い込んでいた「認識」ということなのだろうか。ではなぜ最初海上保安庁に事前に連絡を取っていたなどとウソをつく必要があったのか。ウソ・虚偽の事実は厳然としてそこに存在する。
②石破防衛相らと共に航海長から事情を聴いたときの記録に関して、正式な議事録は取っていないとし
ていたが、まったくのウソ・虚偽で、実際は事務方が記録を取り、メモを作成していた。
27日の増田事務次官「議事録という形で取っている者はおりません」
質問「メモを取っている方はいるのですか?」
増田「それは分かりません。私は取っておりません」
質問「記録に残っていることはない?」
増田、顔を右斜め目上に向け、「取っていると・・・」と呟いてから、「こういうことを言ったなあというのは俄かには正直に出てきません」
一国の軍隊が自らの過失で民間人に重大な事故を起こしたのである。雑談とはまったく以って異なる「事情聴取」という特別の形式を取った場面での会話を「こういうことを言ったなあというのは俄かには正直に出てきません」は人をバカにしているか、正直に話したらまずいことになることからの隠蔽以外にない。守屋前防衛省事務次官も証人喚問で使ったように「記憶にございません」が誤魔化す必要のある人間にとって最良の逃げの一手なのだから、隠蔽と受け取るしかない。
28日の参議院外交防衛委員会
石破、イージス艦の航海長を防衛省に呼んだのは海上幕僚長の判断だったことを明らかにした上で、自分に事前に報告があるべきだったと述べたという。
石破「問題であると思います。私は航海長を呼んでいますと、いうことの報告を受けたのは(事故当日の)12時少し前でございます。そのとき、私自身、それは事前に教えてもらいたかったと、いう思いを持ったのは事実でございます」
この部分に関して今日29日の『朝日』朝刊≪大臣室での航海長聴取 防衛相が指示≫には、<石破防衛相は28日の参院外交委員会で、事故当日、防衛省に呼び寄せた航海長から、海上幕僚監部とは別に大臣室で事情を聴いたのは、自らの指示によるものであることを明らかにした。海上保安庁の了解を得ずに捜査前に行われたトップによる聴取の事実を、石破氏は当初、明らかにしていなかったが、「隠す意図は全くなかった」と釈明。航海長の呼び寄せは吉川栄治海上幕僚長の指示とした上で、事前に「私に断るべくだった」と語った。
石破志氏は航海長を呼び寄せ事情を聴いたこと自体「誤った判断ではない」との認識を示した。(後略)>と出ている。
<海上保安庁の了解を得ずに捜査前に行われたトップによる聴取の事実を、石破氏は当初、明らかにしていなかったが、「隠す意図は全くなかった」と釈明。>は<航海長の呼び寄せは吉川栄治海上幕僚長の指示>だとしていることと併せて俄かには信じ難い。
NHK「ニュース9」も、<航海長から聴取した内容を後で大臣に報告していたとしていたが、今日(28日)になって、「大臣も一緒に聞いた」とした>とコロコロと情報が変わる様子は伝えているが、この情報操作は最初は「大臣不在」とすることが防衛省側に有利と判断した「隠す意図」を持った「当初、明らかにしていなかった」隠蔽と見るべきであり、当然のこととしてそこに石破大臣が加わっていなければ必要としない「大臣不在」なのだから、石破大臣自身の演出による「大臣不在」であり、情報の隠蔽・情報操作としなければならない。
大体が海上の事件・事故の捜査権は海上保安庁にある。海上保安庁とは「海上において、人命・財産を保護し、法律違反を予防・捜査・鎮圧するために設けられた運輸省(現国土交通省)の外局」(『大辞林』三省堂)なのである。1988年7月の海上自衛隊潜水艦「なだしお」による30名死亡・17名重軽傷を出した遊漁船「第一富士丸」への衝突・沈没事故でも海上保安庁の捜査を受け、「なだしお」艦長の指示で衝突時の航海日誌を改竄していた事実まで判明、当時の防衛庁長官が引責辞任したことは防衛省の外局・内局に関係なく教訓として引き継がなければならない負の記憶であって、捜査権は一にも二にもなく海上保安庁にあることは承知していたはずである。
もし大臣が承知していなかったなら、そこに下の者からの注意がなければならない。注意によって、大臣も承知していた海上保安庁の捜査権だったはずである。
ところが事故後、海上保安庁に無断で防衛省は電話で乗組員から事情聴取を行い、やはり海上保安庁に無断で護衛艦幕僚長がヘリコプターでイージス艦「あたご」に乗艦、乗組員から事情聴取、そして極めつけはヘリで航海長を海上保安庁に無断で事故現場から連れ出し、その権利・資格もないのに防衛省内で航海長から事情聴取を行った。海上幕僚監部の聴取の後に石破大臣自身による聴取が行われた。
大臣も含めてすべて海上保安庁の専権事項なのだと承知していなければならない捜査権を侵害していた。当然当初そうだとしていたメモの不在、「大臣不在」も「なだしお」艦長の航海日誌改竄が自分たちを有利とする目的の虚偽操作・隠蔽工作であったと同じ線上にある衝突事故の責任を最小限にとどめ、なお且つ上層部への責任波及を遮ろうとする目的の虚偽操作・隠蔽工作と受け取らざるを得ない。
自分から承知しているか、下の者に注意されるかして承知していなければならなかった捜査権の海上保安庁専権なのだから、その虚偽操作・隠蔽工作に石破防衛大臣も加わったいたということである。石破が参議院外交防衛委員会で証言した「私は航海長を呼んでいますと、いうことの報告を受けたのは(事故当日の)12時少し前でございます。そのとき、私自身、それは事前に教えてもらいたかったと、いう思いを持ったのは事実でございます」には、海上保安庁に捜査権があることについての言及が一言もない。「報告」を受けた時点で示すべき事情聴取行為が妥当かどうかの判断が何も示されていない。国務大臣の立場で後付けの「妥当ではなかった」とか「適切ではなかった」といった弁解は許されない。
参議院外交委員会で石破大臣は民主党の大場直史参議院議員から「市ヶ谷で行った事情聴取について調書を取られているんでしょうか?」と質問を受け、「そこで聞き取った事実というものは書面に致しました」と増田防衛省事務次官の記者会見表明と違う事実を明らかにしている。増田は記者会見で男性記者に次のような質問を受けることになる。
記者「メモがあったか分からない、というふうに答えらっしゃいましたけれども、大臣にメモがあってですね、それを、あの、海上保安庁のほうにFAXで送ったと――」
増田「聞き取りのときにですね、の内容をメモしたものがですね、少なくとも今の時点に於いてですね、事務方のレベルに於いて、一人の者が、あの、メモを記録しておると――」
「事務方のレベル」の者までが事情聴取に加わっていたのだろうか。海上保安庁に捜査権があることを除いたとしても、重大事故である、<海上保安庁の了解を得ずに捜査前に行われたトップによる聴取の事実を、石破氏は当初、明らかにしていなかった>(上記『朝日』記事)事実から考えても、それが不当なことではなくても「明らかにし」たくない事柄が出てこないとも限らない事情聴取は少数の幹部で内密に行うのが自然な姿であって、そのことに反して事務方を加えていたとは考えにくい。
「事務方のレベル」の者は我々幹部から離れた存在だから、メモを取っていたとは知らなかった、だから当初はメモは存在しないとしていたとする、自分たちを無罪とするための情報操作の疑いが限りなく濃い。
NHK「ニュースウオッチ9」は責任問題に関して次のように伝えている。
鳩山由紀夫民主党幹事長「虚偽の答弁とか、口裏合せとかね、情報操作、これがみんな重なってきたなと。その責任は極めて重いのではないかと。早く自ら身を処すべきだと」
山崎拓「士気が緩んでいる点があるんじゃないかと。国民の生命・財産を守るべき組織でございますから、その国民の生命を奪うような事態は反省し、それを十分反省してですね、今後の防止に努めていただきたい」
ありきたりのことしか言えない自民党前副総裁でございます。現在問題となっているのは事故を起こした職務怠慢の真相解明以上に不都合な責任問題を国民の目から隠そうとした国家機関による隠蔽行為があったかどうかの解明であろう。決して成功させてはならない隠蔽としなければならない。
暴力団員風国会議員・中川秀直「二度とこんなことが起きないような責任体制をしっかり確立すること。そういうことでの防衛省・自衛隊の改革をしっかり進めること。私は誰かのクビを差し出せがいいなどという話ではない――」
「なだしお」事件のときも誰かが同じことを言ったに違いない。「二度とこんなことが起きないような責任体制をしっかり確立すること」・・・・
「誰かのクビを差し出せばいいなどという話ではない」――誰も詰め腹を切らせろと言っていない。トップの者としての責任を果たしているようには見えないから、責任を取れと言っているに過ぎない。
福田首相「石破大臣は今は、あの、あれでしょう、捜索活動の指揮を取っていると。それから原因究明ですね。総指揮を取っておられますねえ。ですから、それを全力を挙げてやってもらいたいと思います。
石破大臣には防衛省を改革しなければいけないと、いう大きな使命があると思いますね。それが石破大臣の責任だと思います」
貧弱な言葉。そして最後は錦の御旗としている「改革の責任」へと持っていく。
石破「何でこんなことが起こったのか。どうすればもう起こらないのか。先ずそれが優先すると思います。どういう立場にあった者が如何なる権限を持ち、責任を負うべきか、ということはそれはそれとしてちゃんとやっていかなければならないと思っております」
石破だけではなく、山崎拓も中川秀直も、またここには登場していない町村官房長官にしても、福田首相にしても、真相究明と再発防止策の構築を最優先事項・錦の御旗としているが、そのことの利点は、2分前視認を12分前に、赤灯を緑灯に、海上保安庁の了解を取ったを取らなかったへ、聴取を書き記したメモはなかったをメモはあったへ、石破大臣も事情聴取していたことを最初は明らかにしていなかったり等々、情報の変更と訂正を繰返すことで国民に疑われることとなった防衛省の隠蔽体質・事故隠し疑惑から目を逸らすことができることである。
となれば、徹底的に追及しなければならない隠蔽体質・事故隠し疑惑であって、石破防衛大臣は追及を受ける側の当事者の一人であることを以って、事故の真相解明、防衛省改革・自衛隊改革の席に位置する資格を失う。辞任した上で、事故後、石破大臣・防衛省は何をしたかの追及を受けるべきだろう。疑惑ある人間に改革を受けたとしても、たいした効果は見ないに違いない。国土交通省が道路改革をいくら叫んでも、改革はできないようにである。