君に会いたい

いよいよ明日、夏の修行に出発します。

ただ今、ナオキチが、頭の毛をを剃っています。
床屋に行くのかと思ったら、自分で剃るって。

床屋さんの帰りに、知り合いに会ったら、恥かしいからって。

でも・・・君？
だからと言って、昨晩、モヒカン刈りにしたのは・・・なぜ？

ゴンキチが、犬用のバリカンで、頭を刈ってくれたそうだけど。
モヒカン刈りって・・・床屋さんで剃るより、恥ずかしい事だと思うけど。

その頭で、今晩の食事に行くなんて、人間って、気持ち次第だと、つくづく思うよ。

今、遠くから、ナオキチの叫び声が聞こえてくる。
T字髭剃りで、頭を剃る？

やることが、極端だよ。

ナオキチ、今の心境は？

「これから、いっぱい叱られると思ったら、気が重い」

でもね・・・ナオキチ。

一人前のお坊さんになったら、身近な世界でしか生きていけない。
お坊さんの世界って、本当に小さな世界なんだよ。

夏の修行は、全国から学生が集まってくる。
そのほとんどの人が、もう二度と会わない人たち。

だからこそ、この経験は、すごく貴重なものなんだ。
見識を広げて、いいことも悪いことも、たくさん見ておいで。

そして、たくさん苦労をして、たくさん助け合って、毎日を過ごしておいで。

今の僕は、君がすごく羨ましいよ。
できることなら、僕も夏の修行に行きたい。

もう一度、あの時の仲間に会いたい。

本山の朝勤（ちょうごん）で。宗歌（しゅうか）を歌った、合唱団の声。
瞼を閉じれば、懐かしい情景が、鮮やかに浮かんでくる。

汗まみれの、身体。
白衣が、肌に張り付いて、嫌な気分。

今日も、講義が続く。

僕の隣りに座る君は、ノートにペンを走らせる。
君は、どこから来たの？

長野県。大学三年生。工学部。

僕は、福岡県。大学三年生。仏教学部。

これから、よろしく。

蝉の、声。
講師の声が、お堂に響く。

もう一度、君に会いたい。