営業所前ターミナルの待機場所で「そろそろ発車時刻だなぁ~」と思いながら運転席に座り、シートベルトを締め、手袋を… と、その時! 窓の外に一人のおばさんが立っているのに気が付いたので、私は「忘れ物か何かかな?」と思いながら窓を開けた。
すると、おばさんが「××駅行きのバスってありますよね?」と言ったので、私が「はい、××駅行きと、南××駅行きがありますねぇ」と探りを入れたところ… 案の定、おばさんは「某大手ショッピングモールがある…」と言ったので、私は「あぁ、南××駅行きですね。ありますよ」と答えて、めでたしめでたし…
と思ったら、おばさんが「26分の南××駅行きを待っとるのに、ぜんぜん来ないんだけど… どうして来ないの?」と言ったのである。驚いた私は時計を見て「31分… すでに5分ほど過ぎているのか… 何かあったのかもしれないなぁ…」と思った。
が、とりあえず「今日は日曜日ですよねぇ…」と独り言のように呟きながら「日曜日だから渋滞しているのかなぁ~?」と考えていたら、おばさんが「ちゃんと休日ダイヤを見ました」と言ったので、“よくある勘違い”ではないことは確認できた。
もっと時間があれば、いろいろと調べてあげられたのだが… いかんせん私には時間がなかったので「すいません、南××駅行きは他の営業所がやっているので、なぜ来ないのか? 事故でもあったのか? 私には分からないんですよぉ… もしも携帯をお持ちであれば、営業所の電話番号をお教えしますので…」と答えるしかなかった。
すると、おばさんは「困ったなぁ… どうしたらいいの…」などと呟きながら、バス乗り場へ戻って行った。そして私は手袋をはめて、帽子をかぶって、エンジンをかけて、室内灯を点けて、行き先表示&時刻の確認… と、ちょうどそこへウチのバスがやって来て、その運転士さんがジェスチャーで「今の彼女?」とやったので、私は「違う違う!」と強く否定… 「26分のバスが来てないんだって!」とだけ伝えて、今のおばさんを含めた10名ほどが待っている乗り場へバスを移動させた。
ところが、そこで2名しか乗ってこなかったので、それまで半信半疑だった私は「ゲゲッ… 本当に26分の南××駅行きが来てないのか!? 私のバスの発車時刻まで約2分… その間に26分発のバスが来たら、一度ターミナル内をグルッと一周するしかないなぁ…」と思いながら、ミラーで後方を見ていた。
その時、乗り場に立っていたお爺さんが「26分の南××駅行きが…」と言い始めたので、私は「えぇ、先程そちらの方にも言われたのですが… 営業所が違うので分からないんですよぉ…」と答えたのだが… そのお爺さんとおばさんは「営業所が違うからって… 分からんもんなのか!?」「おかしいよねぇ~!」と言っていた。
私が「バスに乗りっ放しの一運転士に分かるわけないがやぁ~!」と心の中でぼやいていると、乗り場に並んでいた一人の女性が2人に話し掛け… 「26分は、時刻表の数字に○印が付いているから△△行きで、○印の付いていない南××駅行きは46分に来ますよ。途中まで同じなんですけど、◆◆交差点から分かれるですよぉ…」と教えてくれた。
私は「あぁ、そのパターンだったか…」と思った。以前にも書いたと思うけれど、バス停の時刻表に大きく“南××駅行き”と書かれていると、その表中はすべて南××駅行きだと思ってしまうのだが… 実は小さく“○印=△△行き”と書いてあり、発車時刻の数字に小さな○印が付いている場合は△△行きという… 不親切というか、罠というか… そんな時刻表なのだ。
ま、それはそれとして… そのおばさんが“同じバスに乗るために並んでいたと思われる女性”から教えてもらって時刻表を理解したところで… 私に「運転士さん、お騒がせしましたぁ~」などと言わないのは当然として… その女性に「あら、そうなの!? 知らなかったわぁ~ ありがとう~」とも言わず、ただ「あぁ、46分に来るのよね。ちょっと遅くなっちゃうけど…」と独り言のように言っただけ… 私のバスは時間通りに発車した。
それから2~3時間後… 休憩室の前で会った先程の運転士さんが「あの後、26分のバスについて事務所で確認したんですけど、時間通りに走っていて何も問題なく… そのことをバス乗り場にいたおばさんに説明をしたんですけど… “えっ!? 何を言ってるの? 私は最初から46分だって知ってましたよ”みたいな顔されちゃって…」と言っていた。ホントにもう… とんでもないおばさんであった。