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新イタリアの誘惑

ヨーロッパ・イタリアを中心とした芸術、風景。時々日本。

心ふるえる風景 北中部イタリア編⑨ パッラーディオの別荘で 出会った可愛い少女が実は !!!

2025-04-12 | 心ふるえる風景 北中部イタリア編

 ヴィチェンツァの郊外にある アンドレア・パッラーディオのもう一つの傑作建築を見に出かけた

 バスで約15分 目的の「ラ・ロトンダ」は1567年に完成した別荘だ

 施主の名前を取って ヴィラ・アルメリコ・カプラとも呼ばれる

 

 ロトンダとは円形のことを指す言葉なので 丸い建物かと思っていたが

 見ると形は四角形 ただ上方のドームの円さが目についた

 四辺はいずれも大階段に囲まれ 6本のイオニア式列柱が並ぶ

 装飾は少ないが統一性と調和という点では 他のパッラーディオ建築と共通する感じだ

 日差しの強い外から 少し薄暗い内部空間に身を置くとすぐ あれ!と驚くことがあった

 奥の部屋からドアを開いて おしゃれな服を着た少女が顔を出し 

 「こんにちは」と 挨拶している  目まいのような一瞬だった

 

 もう一度見直すと その少女は壁に描かれた だまし絵だった

 少女だけではない 半分開かれたドアそのものも壁画の一部

 あの部分全体が 全く通行することの出来ない壁だったのだ

 

 多分この絵は18世紀のヴェネツィアで大活躍した ティエポロの作品だと思う

 彼は聖堂の天井画に仰視法を用いて 平面に大きな奥行きを感じさせる作品をよく残しているが

 このドアの少女も 彼独特の手法をいかんなく発揮して仕組んだだまし絵に違いない

 

 だまされたら 悔しいとかこの野郎とかといった感想を持つのだろうが

 この少女の絵は「だまされてうれしい」と思わせる心躍るものだった

 

 

 


心ふるえる風景 北中部イタリア編⑧ ヴィチェンツァの劇的構成の劇場で 素晴らしい音楽に包み込まれた

2025-04-08 | 心ふるえる風景 北中部イタリア編

 ヴィチェンツァはイタリア北部 パドヴァとヴェローナとの中間に位置する人口12万人の街

 ルネサンスの天才建築家アンドレア・パッラーディオの建築が 街中に展開されており

 この街は「パッラーディオの街」として有名だ

 

 その彼の最期の作品である オリンピコ劇場を見に出かけた

 駅からパッラーディオ大通りを歩いて 突き当りにその建物が見えてくる

 中に入って驚かされるのがその舞台だ 正面に横に広がる大きな門が存在する

 門と言っても単なる仕切りではなく 王宮の城壁を連想させる造りで

 各所に彫像が配置されるなど 壮大な広がりを持っている

 

 さらに入口の奥には壮麗な建築群に挟まれた大通りが見通せ 上空には空がのぞいている

 この情景は古代エジプトに栄えたテーベの街が 再現されたものだという

 

 観客席は階段座席になっており 後方の柱の上には28体の彫像が並ぶ

 演劇が始まらなくても すでに劇が進行しているのではないかとさえ思わせる空間が広がっている

 

 そんな内部にびっくりしている時 座席後方から音楽が流れてきた

 讃美歌だ それも男女混成の合唱曲

 振り向くと 私たちより少し前に入場していたドイツ人の団体が歌い始めていた

 多分プロかセミプロの集団らしく 朗々と響く楽曲は劇場の素晴らしい音響効果と相まって

 場内を包み込むように 響き渡った

 

 劇的な舞台と 劇的な音楽 

 思いもよらない大きなプレゼントをもらったような 幸せな気分に浸された時間だった

 

 

 


心ふるえる風景 北中部イタリア編⑦ トリエステの夜 季節風の前兆にコートが翻った

2025-04-05 | 心ふるえる風景 北中部イタリア編

 夕刻レストランを探して街を歩くうち 大運河に突き当たった

 周辺はハプスブルク帝国女王マリア・テレジアの都市計画で整備された

 新古典主義の 堂々とした建築が華麗に並んでいる

 

 通りを1つ裏に入って よさげな店を見つけた

 注文したのはエビのフリット 海辺の街だけあってエビはプリプリで最高

 白ワインもすっきりとした味で 大満足だった

 店を出るともう街はすっかり夜の装い 8時を過ぎたばかりなのに街を歩く人は少ない

 風が出てきた 急に勢いを増してボタンをはずしていたコートが引きずられるよう

 気の早いクリスマスイルミネーションがバタバタと揺れ 急速な気温の低下を感じる

 そういえば須賀敦子のエッセイに トリエステの季節風「ボーラ」のことが書いてあったっけ

 大運河のさざ波が一層激しさを加え 係留してあるボートを左右に揺らし始めた

 突き当りにあるサンジョヴァンニ教会の姿さえ 霞みがちに見えて来始めた

 赤信号で一緒になった老紳士に 声をかけてみた

 

 「これが ボーラという風でしょうか?」

 老紳士はニヤリと笑って答えた

 「ボーラはねこんなもんじゃないよ 本当のボーラならあなたのように細い人はすぐ飛ばされちゃうよ」

 別れ際の彼のしわがれ声が 風に乗って闇に舞った

 

 

 

 


心ふるえる風景 北中部イタリア編⑥ トリエステは 悲しみを意味するイタリア語を思い起こさせる

2025-04-01 | 心ふるえる風景 北中部イタリア編

 明るい陽光の降り注ぐ海岸から 山側の通りに入った

 少し喉が渇いていたので カフェに入って一休みすることにする

 確かここはラザレット・ヴェッキオ通り 通りのどこかにウンベルト・サバの詩があるはず

 マスターに尋ねると すぐに教えてくれた 「隣の建物の壁だよ」

 

 「トリエステには閉ざされた悲しみの長い日々に 自分を映してみる道がある

  ラザレット・ヴェッキオという名の」

 ラザレット・ヴェッキオ 「古い伝染病院通り」と名付けられた道だ

 以前の回にも触れたようにトリエステは ローマ、ヴェネツィア、そしてオーストリアと

 様々な国の支配を受け続け 決して主役にはなりえないままに歴史の変遷を重ねてきた

 そんな環境の中で生きてきた人々の 思いを映し出すかのような道路名

 

 ここから海は見えない また展望の拓ける高台も急な坂道の先にある

 少ない人通りの空間を 一陣の風が吹き過ぎ

 その風に押されるかのように 目じりに深いしわを刻んだ一人の老人が杖を頼りに歩き去った

 

 そうした光景を目にした時 ふっと思い起こす事があった

 「TRIESTE」という地名は イタリア語の「悲しい」を意味する「TRISTE」と

 実によく似ているということを・・・


心ふるえる風景 北中部イタリア編⑤ トリエステ中央広場の夜は 独特な異世界の光景が展開される

2025-03-29 | 心ふるえる風景 北中部イタリア編

 トリエステの街の中心は ウニタ・デ・イタリア広場(イタリア統一広場)だ

 アドリア海を背にして広場を見ると 向かって左側に政庁舎とヴェルディ劇場

 右側に旧ロイドトリエステ館 ロイド商会は世界的な海運会社の名称だ

 そして中央に ネオクラシック様式の市庁舎がドンと構える

 

 ただイタリアを歩いてきて 他の都市と異なることに気づいた

 ミラノ ヴェネツィア フィレンツェ どの都市に行っても最大の広場は教会を中心に造られていた

 なのにトリエステ最大の広場には教会がなく 代わりに海運会社ビルがある

 港湾都市として発達した歴史を物語る 何よりの証拠のように思われる

 

 この広場が異彩を放つのは 夜だ

 市庁舎を中心に設置された照明装置が一斉に点火されると 周囲は異世界の光景に変容する

 建物に放たれる光は下から上に向かって照射され 浮遊感に溢れる姿が浮かび上がり

 手前側の車止め 石畳にも埋め込まれた青白いライトが 全体を光の線で結びつける

 他都市のライトアップとは全く違う 独特の夜景は

 年配の人間にさえも ワクワクの気持ちをあふれさせるものだった