蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

フライマウラーなど。

2006年02月05日 23時18分25秒 | 古書
先週の土曜日、ほぼ一ヶ月ぶりで高円寺の都丸支店を覗いてみた。
地下鉄丸ノ内線の新高円寺で下車してルック商店街をJR高円寺駅に向かって北上する。直接JRでいったほうが遥かに近いのは判りきっているのだけれども、わたしは都丸を訪れるときには必ずこの経路を通ることにしている。まずこの商店街には高いビルが面していない。ほとんどが木造二階建てでそれも低めの二階建てなのだ。だから空が開放されていて、まるで五十年も前の東京に戻ってしまったような不思議な感覚に浸れる。わたしは基本的にレトロ趣味ではない。しかし今様のあのアーケードに防護された商店街にはどうも馴染めない。たしかに雨や雪の日にはこちらの方がよいに決まっているのだが、でもあのアーケードの天井を眺めているとなんだか自分が倉庫か工場のなかに迷い込んでしまったように思えてしかたがない。
それともう一つ、このルック商店街のよいところがある。さきほど「五十年も前の東京に戻ってしまったような」と書いたが、じつはそんな気にさせる商店街は他所にだってある。例えば墨田区京島の橘通り商店街。ここはかつて山田洋次監督の第二作目「下町の太陽」で倍賞千恵子が暮らす町のモデルになった場所だ。ここだって充分にレトロスペクトなのだが、残念なことに電信柱と電線で空が押さえ込まれてしまっているのだ。それに道幅もルックより狭いのではないだろうか。まあそんなこんなで、わたしはわざわざ遠回りをして都丸に向かうことにしている。
まずは店先の廉価本棚を見渡した後、店内の棚をチェックする。入り口を入って右側の西洋哲学関係の棚から始まって反時計周りで本を見て回る。店の奥の辞書、言語学コーナーが終着点となるが、中心部分の外国文学、国文学の棚は辞書、言語学コーナーを完全にチェックしてから足を向ける。しかし今日も面白そうな辞書、文法書の類は見つからなかった。ところでキリスト教書籍コーナーで『セプトゥアギンタ』二巻が眼に留まった。たぶん以前から置かれていたはずなのだが、目に付かなかった。あるいはわたしがそこに置かれているのをすっかり忘れてしまっていたのかもしれない。裏見返しに貼られている値札をみたら五千ナンボだったので諦めた。所持金がもっと多かったなら購入していたかもしれないが、今現在ギリシア語で旧約聖書を読みたくなっているわけでもないし、本気で読みたいと思ったら新品を教文館あたりで誂えれば済むことだ。
ここで再び表に出て廉価本棚をこんどは慎重にチェックしてゆく。ふしぎなもので先ほどはまったく目に入らなかった品物が、まるで湧き出したかのように次々と見つかり始めた。四週間のインターバルを置くとさすがにこれだ。そんなわけで今回は次の四冊を購入した。
1.Grundriss der Geschichte der Philosophie Band II.
2.Internationales Freimaurer-Lexikon
3.Eretici italiani del Cinquecento
4.Ästhetik als Philosophie der Sinnlichen Erkenntnis
一番目はウエバーベーグスの哲学史第二巻。先月神保町の古書モールで第一巻を購入しているが、こんなに早く第二巻に出会えるたは思ってもいなかった。しかし惜しいことに版は新しくない。
二番の本はLexikonとういうからには辞典で、それではどのような辞典かというとこれが"Freimaurer"つまりフリーメイソン会員の辞典。コンパスを持つ骸骨みたような男が窓から身をのりだしているレリーフの写真をレイアウトしたカバーもおどろおどろしいが、この辞典は一九三二年にヴィーンで出版されたもののファクシミリ復刻版なのだそうだ。わたし自身はフリーメイソンに詳しいというわけではないのでこの辞典の内容的価値を判断できないのだけれども、わざわざ復刻版(一九八〇年)を出すに当たってはそれ相応の水準のものであり、なおかつ購入者数も見込むことができたのだろうと想像する。そもそも日本ではフリーメイソンとペリーメイスンの区別もつかない輩が多々存在するので困ったものだが、これは区別できない者が悪いのではなくて、そもそもこのフリーメイソンという団体が秘密結社であるという事情によるのだと思う。
三番目の題名は「十五世紀の異端的イタリア人たち」ということになるのだろうか。そのうちイタリア語が読めるようになったら頁を繰るつもりでいる。そして四番目が美学関係もので題名は「知覚認識の哲学としての美学」というほどの意味だろう。この本の副題が"Eine Interpretation der《Aesthetica》A.G.Baumgartens mit teilweiser Wiedergabe des Lateinischen Textes und deutscher Übersetzung"となっていて、要すればラテン語原文の一部とそのドイツ語訳から構成されたバウムガルテンの『美学』の解釈に関する本だ。著者のHans Rudolf Schweizerという人は一九三二年のバーゼル生まれ。一九五一年にギムナジウム終了試験(ドイツのアヴィト-アみたいなもの)に合格し、ゲルマン語、ギリシア語、ラテン語、文学、さらに哲学をバーゼルとチュービンゲンで学んでいる。ところでわたしはどうもこの「美学」ってやつが胡散臭くてしようがなかったし、いまでもしようがない。そもそも「美学」という言葉はバウムガルテンによって作られたものだそうだが、これを機会にちょっと「美学」を勉強しなおしてみようかと思った
今回はフリーメイソンを初めとしてなかなか面白そうなものを手に入れることができた。これでお値段がしめて二千三百円はお値打ちです。


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1 コメント

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Unknown (ふじき わたる)
2006-03-21 15:02:30
東京の下町を探して歩く私、最近はビル、マンションの間に挟まれて

窒息しそうな下町の風情が目立ち、下町人情と共に景色まで無くなりつつ

あるのを実感する事が多い。

 ここ、墨田区京島で見つけた焼き魚屋さん、とっても良い焼き魚の匂いが

漂っていて、ゴクンと喉を鳴らしそうでした、昭和の風景を見つけて

スケツチブックを広げると、買い物のオバサンが声を掛けてくれました、

「あなた、絵を描いて帰る時、此処の焼き鯵買って帰りなさいよ」と、

オバサンの話では此処の焼き魚屋さんは、とつても評判のお店だそうで、

スーパーでは買えない味がするとの事でした。

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