蜘蛛網飛行日誌

夢中説夢。夢の中で夢を説く。夢が空で空が現実ならばただ現実の中で現実を語っているだけ。

スーツ姿でお買い物。

2006年01月18日 00時00分26秒 | 古書
今日は仕事が休みだったので昼食のあと神保町に行ってみた。一月に刊行される岩波文庫を購入するのが主な目的だったので、古書については特に期待していなかった。最近では日本特価書籍でも岩波文庫を扱うようになり信山社で買うと高くつくのだが、梅原龍三郎のカバーが欲しいためここで買うことが多い。べつにこれといって魅力的なカバーというわけでもないのだけれども、わたしの所蔵している岩波文庫の大半にこれがかけられているので、ついつい揃えたくなってしまうのだ。節約したいのならばもちろん日本特価書籍で購入するに越したことはない。今月はレヴィナスの『全体性と無限』下巻とシエサ・デ・レオンの『インカ帝国史』の二冊だった。ついでに書いておくと去年は『アンデス登攀記』下巻と『クック 太平洋探検(三)第二回航海(上)』だった。
三省堂裏の古書モールを覗いてみたらウエバーベーグスの哲学史第一巻が二千円で出ていたので買ってしまった。マックス・シェーラーの原書もあったけれど八千円もしてはとても手が出なかった。ウエバーベーグスの哲学史は版を上げるごとに段々と大部になるので有名な本で、わたしが既に持っているマックス・ハインツ編集の一八九四年版第一巻で三百八十頁だったものがこのカール・プラエヒター編集の一九六七年版では九百二十頁にもなっていた。洋書の専門書は値段の付け方が極端で、専門店では高くてもこれが非専門店に並ぶと一桁分安くなったりする。コンディションがよければ高いというわけでもない。要すれば需要と供給の関係で値段が決まるのは和書以上のように感じられる。三茶書房のワゴン・セールを覗いて見ると浅野信の『日本文法語法論』がなんと五百円で出ていたので迷わずに買った。函付きでほんの少々汚れがあったものの、函無しなのに五千円で売っている店もあることを思えばやはりこれは安い買い物だと思った。三茶書房での買い物は一昨年の十月以来となるが、ここでは岩波文庫の古いものや三島由紀夫関係の本を買っている。
神保町に永く通っているといわゆる有名人を見かける事がある。いつだったか大雲堂の地下で自殺したポール牧をみかけた。弟子らしき若衆を連れてきていて「お前もいい本があったらお買い」なんぞと言っていたっけが、しかし大方は評論家や作家だ。数学者の広中平祐を明倫館の店先で見たことがある。もっとも本人かどうかは確認できなかった。頻繁に見かけたのは紀田順一郎かな。いずれにせよ神保町という街にはあまりスーツで決めたような人物は似合わないように思うのだが植草甚一はダンディーだったし、反町茂雄もやはりダンディーだった。
わたしは田村書店にはあまり入らない。どうにもここの店主の態度が気に食わないからなのだが、置いてある品物自体は魅力的なものばかりだ。随分と前のことになるが偶々この店に入って棚の本を眺めていたことがある。西洋哲学関係の本が並んでいる棚の前だった。ニコライ・ハルトマンの『存在論の基礎附け』が眼に留まったので棚から抜いて頁をめくっていると、隣に誰かが立っている気配がした。自分と同じ分野に興味がある客というものは、どうも気になって仕方がない。わたしはそれとなく横に立って本を探しているその客を見遣った。そのとき同時に客もわたしの方を見たのでお互いの目が合ってしまった。彼はわたしより幾分背が低かったが、この街には似合わないほど真面目な紺のスーツで決めていた。先ごろ引退表明した日本共産党の不破哲三だった。


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