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北朝鮮がミサイル失敗 発射1、2分後に爆発、海へ墜落(朝日新聞)>2012.4.13

2012年04月13日 | 過去記事

北朝鮮がミサイル失敗 発射1、2分後に爆発、海へ墜落(朝日新聞) - goo ニュース

<北朝鮮は13日午前7時39分ごろ、北西部の平安北道(ピョンアンブクト)・東倉里(トンチャンリ)の「西海衛星発射場」から、長距離弾道ミサイルとみられる機体を発射した。機体は1~2分の間に空中で爆発し、海上に落ちた。「人工衛星の打ち上げ」としている北朝鮮も失敗を公式に認めた。主要8カ国(G8)外相は発射を非難する緊急声明を発表。国連安全保障理事会は緊急会合を開いて対応を協議する。

 北朝鮮の朝鮮中央通信は13日正午過ぎ、「人工衛星『光明星(クァンミョンソン)3号』を午前7時38分55秒に発射したが、軌道進入は成功しなかった」と伝えた。専門家らが失敗の原因を究明しているという。北朝鮮が失敗を認めるのは極めて異例だ。

 北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)と米北方軍司令部は12日夜(日本時間13日午前)、北朝鮮の「テポドン2」の発射を確認したとする声明を発表した>


フロリダ州ケープカナベラルにある「ケネディ宇宙センター」。ここは敷地内の芝生でワニが日向ぼっこをするような気候だ。しかし、その年の冬。1986年1月28日は寒かった。とくにその日、予想外の寒波が襲来して気温は氷点下になった。

その日はスペースシャトル「チャレンジャー号」を打ち上げることになっていた。

当日の朝、整備塔は凍りついていた。異常な寒波だった。技術者は警告した。この低温ではとても危険だと説得した。NASAの幹部らはその懸念すら上層部に伝えていなかった。

というのも、シャトル外部にある固定燃料ロケットブースターの部品のひとつ、モートン=サイオコール社が設計した「Oリング」に致命的欠陥があることは、ずっと以前、1977年からNASAの幹部は既知であった。「Oリング」とはゴム製の輪っかだ。これがブースターの繋ぎ目にある隙間を埋めていた。簡単に言えば、このゴムが低温で硬質化した。

隙間は埋まらなかったから、そこからブースター内部の高温ガスが噴出した。その影響でブースターが傾き、液体燃料タンクに激突する。漏れた燃料に引火した。つまりはそういう事故だった。ロナルド・レーガン大統領(当時)は事故原因を調べる特別委員会を設置、通称「ロジャース委員会」だ。委員会は調査後、事故原因を「NASAの組織文化」「意思決定過程」だと断定した。打ち上げの朝、モートン=サイオコール社の担当がNASAの幹部に部品の欠陥を伝え、せめて延期するように忠告していたことも判明した。

NASAの幹部はそれを受け入れず、同社は「同意書」にサインする。「チャレンジャー号」はそれまで、既に2度の延期を経ていた。アメリカの威信を賭けた重大イベント、これ以上、ずるずる引き延ばすわけにはいかない。これ以上、ソ連を喜ばせるわけにはいかないから、モートン=サイオコール社の首脳も強く反対し続けるのが難しい。また、もちろんシャトルの打ち上げには夥しい数の関係者が尽力している。関係企業も膨大な数になる。他社はすべて「打ち上げに同意」している。自社だけが同意書にサインしない、というのもどうか、という参加意識、仲間意識が危機意識を遠ざけた。ナントカ大丈夫だろう、上手くいくだろう、で済ませてしまった。

結果は周知の通り、大丈夫じゃなかった。「チャレンジャー号」は打ち上げから73秒後、アメリカ合衆国フロリダ州中部沖の大西洋上で空中分解した。外部燃料タンクが分解した際、内部の燃料と酸化剤が放出され、シャトルは巨大な火球になった。乗組員7名は時速333キロで海面に叩きつけられた。制動力は200Gを越えていた。シャトルが耐えられる負荷は3Gだった。その中にはエリソン・ショージ・オニズカ米空軍大佐(日本名・鬼塚 承次)もいた。当時39歳だった日系アメリカ人、最初の宇宙飛行士だ。彼は1年前に打ち上げに成功した「ディスカバリー号」にも乗っていた。宇宙で箸を使って日本食を食べた人だ。日の丸の鉢巻きや旗も持ち込んでいた。NASAはこういう英雄を死なせてしまった。

I・L・ジャニスはこれを「グループシンク」と呼んで警鐘を鳴らした。日本で言うところの「三人寄れば文殊の知恵」にはそれなりに条件が必要なわけだ。それは「ちょっとマテ」と言えるかどうか、それはダメだろうと雰囲気も空気も読まず、その目的だけを見失わずに議論する者が混じっているかどうか、が肝要となる。

民主主義国家でも陥る罠だ。ならば北朝鮮のような軍事独裁、犯罪者集団が引っ掛からないはずはない。国全体が「グループシンク」のようなものだ。新しい偉大な指導者様が打ち上げろと言えば、これはもう、是が非でも打ち上げねばならない。外国の記者もたくさんいる。よくわからん理由で「延期」などとすれば北の科学者は一族郎党、皆殺しにされる。飛ばした後のことなど知ったことかと飛ばす他ない。今回もソレだった。

ただ、今回は早くも失敗した、と認めている。コレが不気味だと。記事にも<北朝鮮が失敗を認めるのは極めて異例だ>とある。中には、せっかく外国人ジャーナリストが詰めている。三男坊からすれば一世一代の晴れ舞台、ここで失敗させてやれと、反体制派がなにか仕組んだのではないか、という陰謀論もある。または、今回の失敗を受けてより一層、核実験やらミサイル実験に励む口実にするのではないか、と危惧する声もある。またまた単純に考えれば、外国人記者が居合せた実験失敗を隠すことをあきらめたのではないか、というのも、北朝鮮のことだ、コレもあり得る話なのかもしれない。しかし、だ。

金正日の急死を受けて担ぎ出された三男坊。北朝鮮人民の本音は「だいじょうぶか?」という声も少なくないと思う。いくら「若き指導者」とかやったところで、父親や祖父のようなカリスマはまだない。奇跡もまだ起こせない。枯れた花も咲かない。馬に乗って空も飛べない。すなわち、まだ失敗やミスが許される。また、この大失敗を受けて尚、三男坊は衆目の中、すぐに姿を現した。それは金正日の信望者、金日成の信望者にはどう映るのか。

素直に失敗を認めて衆目に晒される「若き指導者」の姿は健気で真摯に映らないか。

北朝鮮内部に澱む「こんな若造でやれるのか」という声無き声とは、つまるところ「偉大な祖父、偉大な父には及ばない」という三男坊軽視である。ここでその本人がそれを認める。祖父は偉大でした、父は偉大でした、私はまだ及びません、と認めれば、愛国心強い北朝鮮の内部不満分子は溜飲を下げないだろうか。つまり、取り巻き連中は今回の失敗を利用した。人民も騙されたふりをしなくてもいい。嘘を吐き通していた前任者と比して好感を持つかもしれない。失敗した、という同情も期待できるかもしれない。

いずれにしても茶番だが、日本は北朝鮮の「グループシンク」を楽観できない。今回の発射に関する日本政府のドタバタもそうだ。アメリカや韓国はおろか、自衛隊もメディアも「発射した」と知り得ても、まだ、日本政府は「確認できていない」だった。これも発表するかどうするか、もうちょっと後でもいいだろうという「グループシンク」の結果だ。

その中で「発射した模様だ」と発表すべきでは?誤報なら誤報でいいじゃないですか、という人はひとりもいなかった。これこそまさに「凝集性が高い集団において、集団内の合意を得ようと意識するあまり、意思決定が非合理な方向に歪められてしまう現象」だ。つまり、誰も責任を取らない。ツケはすべからく国民が支払うのは北朝鮮も同じだ。



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