忘憂之物

男はいかに丸くとも、角を持たねばならぬ
             渋沢栄一

忘憂之物 11

2013年07月30日 | 過去記事




安倍自民が圧勝してから数日、コンビニや駅の売店に並ぶ週刊誌の見出しを見てニンマリする。「自民党のやりたい放題」「安倍政権、日本制圧」ときて、週刊朝日はそのまま「自民圧勝の憂鬱」だった。思わず買った。

なかなか面白い記事が載っている。田原総一郎も「いまこそ大社会党を作れ」と野党連合を勧めているし、宮崎駿にも「改憲絶対反対」と言わせて喜んでいた。あの北原みのりも書いている。「ニッポンスッポンポン」とかいう秀逸なタイトルで「日本人の男はセコイ」とコラムにあった。日本の男は女を誘った喫茶店で割り勘する、合コンでは女子から取って自分は払わない、など書き殴っていた。相変わらず元気そうで安心したが、なんとも賛同する部分もあった。男性フリーターが「自分の時間」を確保するために「シフトを減らしている」の件だ。

「なんのための人生なんですか」と私に問うてきたのは30歳のフリーターだ。もちろん、独身の実家暮らしだが、本人はまったく焦りもしていない。初対面に近い関係だったが、相手も踏み込んで来るので私も「親が死んだらどうするの?」と聞く他なかった。すると「10万円あったら生きていける。それも無理なら自殺する」。

ちょっとマッテ。いま、あなたは日本社会の原動力となるサラリーマン全体をして「仕事ばっかりの人生なんて」と馬鹿にした。家庭のため、会社のため、仕事のための人生なんて真っ平御免だと。それはわかった。でも、細々と10万円で生きて無理なら死ぬ、それならこれは「なんのための人生」なの?

彼は笑って言った。「自分のため」だと。そして好きなこと出来ない、が彼の言い分だ。それで「好きなこと」を問うてみると、しばらく考えてから旅行とか?と疑問形で言った。最近、どこに行ったの?に対しては「日帰りで東京に行った」とか。また、なんともまあ30歳になって修学旅行の話をする。つまり、駅前の安居酒屋と漫画喫茶以外、ほとんどどこにも行っていない。

過去、私が見てきた若者(広い意味で)の中には芸人志望も俳優になりたいもいた。アイドルを目指しています、という歌って踊れる可愛い子もいたし、モデルで成功したいという目に麗しい女性もいた。私が放った「プラモデル?」というオヤジギャグにも付き合ってくれた。私は感心したモノだ。

しかし、この30歳の男にはそれもない。「なにか」を目指しているわけでも、具体的な目標があるわけでも、人生における指標があるわけでもない。そしてやはり言う。

「日本が悪い。政治が悪い。社会がおかしい」

それでも参院選には興味ない。一応、確認すると選挙権はある。

すると、その30歳の「バイト仲間・遊び仲間」である高校三年生も言った。頑張っても仕方がない、どうせ卒業しても就職はないし、宝くじでも当てないと家どころか、車も買えない、と嘆く。そりゃ北原みのりの需要があるはずだ。

今の若者は夢がないのぉ、と年寄りを気取るつもりはない。べつに夢なんかなくても生きていってよろしい。具体的な目標設定もまあいいだろう。目の前に来ないとわからないモノは結構あるし、みんながみんな「前向き」というのも気持ち悪い。

ただ、なんというか不真面目な気がする。私もかなりの不真面目なアレだが、それでも自分で働いて稼げるようになったら、自分の面倒は自分で見る。つまり、家賃や光熱水費を支払う。ともかく、なにか特別な事情でもない限りは「親元」から離れる。自立というなら先ずはそこからだろう。30過ぎた息子のパンツを洗濯する母親の気持ちはどうなのか、と想像するに嫌ではなかろうが、これはやっぱり心配なのではないかと察するのだ。

子供が30歳なら母親は50か60か。いずれにしても、それこそ「自分の人生」を楽しんでもらいたいとも思う。成人式から10年以上が過ぎた子供にまだ、朝になれば起きなさい、晩御飯は?と言わねばならぬ親こそ「自殺したい」と思うことだろう。ただ、おまえがいるから死ねないのよ、が本音ではなかろうか。その子供が「10万円稼げなくなったら自殺する」と抜かす。これほどの不真面目があろうか、ということだ。

また、先ほどの高校三年生は「就職氷河期」も言った。いま、まさにそうだと。ふざけるな、と一喝した。その言葉はバブルが崩壊した翌年、1994年の流行語であるぞ、と説明すると驚いていた。香山リカが「貧乏くじ世代」と呼んだのは1970年から1982年に生まれた世代を言う。大きなお世話だが、まさにその世代が私だったりする(1971年生まれ)。それでもちゃんと就職できている。中途採用も含めてなんとかなっている。御蔭様で子育てもなんとか終えたし、借金もせずに暮らせている。私にできてキミにやれない理由はひとつだけ、それは真面目かどうかだ、と叱ってやった。

べつにタバコ吸ったり人殴ったりが不真面目なんじゃァない。いま、自分がやれることを否定して、なにもやらないことを不真面目という。日本の労働人口の半分が「10万円稼げなくなったら自殺する」なら国家が崩壊する。みんながみんな新築一戸建てに住んで新車に乗っているわけじゃない。それはそれで羨ましいことかもしれないけど、べつに人生の意義はそれだけでもない。なんというか「おまけ」みたいなもんだ。だから新築一戸建てを買うためだけに人生を賭ける、という人はいない。目標にするのは構わないけど、人生はそんなに詰まらないモノでもない。

それから実のところ「10万円稼げなくなったら自殺する」は真理を得ている。つまり、人間が自分のためだけにやれることなんて「10万円程度」ということだ。この30歳の馬鹿もいつか本気で惚れた女でも出来れば「10万円」で足りないと思い知る。それから急いで頑張っても、決して遅きに失するわけでもない。それなりにやれる。


だからやっぱり、北原みのりは阿呆である。合コンで誘った女に支払いを誤魔化し、自分は払わずに女から取るのは「気がないから」である。つまり、どーでもいいからそういうことをする。喫茶店で割り勘にされるのはどーでもいいから、である。もう2度と会いたくない、という男性からのメッセージである。直接言わないのは武士の情けである。

「日本の男が詰まらない」と思うのは、自分が「日本の女」として詰まらないからである。もうすぐアベノミクス効果で景気が良くなればまた、あの懐かしい「ミツグくん」が復活する。男というのは阿呆だから「アッシーくん」や「メッシーくん」も湧き出てくる。そのとき、北原みのりはまた、日本の男は情けない、とか週刊朝日にコラムを書けばいい。




2 コメント

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Unknown (あきぼん)
2013-07-30 21:04:14
「なんのための人生か?」
「走り続ける為の人生です。」
「恩を返す為の人生です。」

私は10万円あったら死ぬほど喜びますw

全然カネ無いし、もう若くないけど
若いころよりおもろいですw
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Unknown (久代千代太郎)
2013-07-31 12:14:57
>あきぼん どの

昨日、久しぶりに5万円もらいました。必要経費ですが。

おもしろそうでなによりですなぁ。北陸から戻ったらちょっと、その辺を詳しく教えてください。こっちまできてね。
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