みどりの船

絵本と絵本まわりのこと、日々の雑感を少し。

少女ソフィアの夏

2007-08-20 | 読書雑記
ムーミン童話で有名なトーベ・ヤンソンの本。
この夏どうしても読んでみたかったものです。

 『少女ソフィアの夏』
トーベ・ヤンソン/作 小野寺百合子・訳 講談社

フィンランドの湾に浮かぶ多島群のひとつの小島で、
数か月を過ごすソフィアとおばあちゃんとソフィアの父。

この話にはモデルがあって、ソフィアはヤンソンの姪、
父親はヤンソンの弟ラルス、母はヤンソンの母(画家)だと
あとがきにあります。
ヤンソン自身が、親友と25年以上もの間、岩の小島で数か月間を
過ごした小屋は、雑誌クーネルの記事で、とても
印象深く残っています。
岩場の上に立つ小さな小屋。
ゆりいす、アラビアの食器、ろうそく、まき
交通手段となるボート、網・・・。(ku:nel2006,11月発売 記事は

トーベ・ヤンソンの身近な人々のエピソードが、このお話の
あちらこちらに織り交りまぜられていることに、すぐに
気づきます。

ソフィアは多感で、
「おせっかい屋」「おばあちゃんがきらい」と
おばあちゃんに対して、感情あわらにずばり・・・。
正直ドキッとさせられる一方で、おばあちゃんに対して
何気ない優しさも見せるのです。

「あたしは嵐になるといつも素直になるの」と
退屈まぎれに、神様に嵐をお願いし、実際嵐が来て
被害が予想されると、いたたまれず責任を感じて泣く。

迷信家だったひいおばあちゃんの話を聞いて、いろんな
不吉な偶然が重なると、パパの安否を気遣ってやっぱり泣く。

おばあちゃんとは常に対等な立場・同士で、
反発したり頼ったり、気遣ったりするソフィアの日常。
淡々と、だけどとびきり瑞々しく、時に生々しく・・・
(ミミズの話など)描かれます。

おばあちゃんの視線というのが、またとても素敵。
経験と想像力と理性と好奇心と素直さが絶妙にマッチした
実にほれぼれする大人だなぁと思います。
それでも、おばあちゃんはとても人間くさくて、
不機嫌になったり、子どもっぽくいたずらをしてみたり。
死を意識しながらも、いまの時間を生きるおばあちゃん。

入れ歯をシャクヤクの茂みに落として探しているところを
ソフィアに見つかって不機嫌になったあと、どうしても
はめるところを見たいというソフィアに、あっという間の
一瞬芸で見事にはめてしまう、おちゃめな人。

お隣の島に突如できた別荘を見に行き、「私有地、上陸を禁ず」の
看板を見て怒り、おどおどするソフィアを制して、
デモンストレーションを決行。
結果、持ち主に発見されるという失態に終わったり。

ソフィアとのヴェニスごっこ。ほら穴の探検。野性的な猫の話。
突然オランダから球根を取り寄せ、庭作りに燃え始めた父の話。
夏至祭のエピソード・・・。
章の一つ一つのエピソードが、海の波のようにきらめいていて
すっかり魅了されてしまいます。

最初の章の読み始め、難しそうな印象を受けたのは
文体に慣れるのに、少し時間がかかったからだと思うけれど、
読み進めるうちに、すっかり島の空気感に包まれていく
感覚がとても気持ちよかったです♪
ウミガラスの鳴き声や海の波、空の色、岩にはりつく海藻の
匂いを想像しては、ゆらゆらとボートの揺れ心地を感じて
いたりしたのでした。

おばあちゃんの言葉から。

 「あたしのいいたいのは、後ずさりする人には、
  物事は後ろへ向かってすべっていくということさ
  楽しかったことの意味はなくなるし、
  むなしさだけが残る。
  だまされたみたいじゃないかね」

 「神さまはきっと助けてくださるが、
  それは人間がまず 自分にきびしいときだ」

夏に読めて最高によかった。
本当に大好きな一冊になりました。

          

画像をはろうと思ったら、リンク先ではすべて渡部翠さん訳
講談社版になっています。

      『少女ソフィアの夏

 これはもちろん、渡部さん訳も読んでみなくては!
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14 コメント

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おかえりなさい (くっちゃ寝)
2007-08-20 15:51:09
以前何かの書評でこの本のことを知りました。
おもしろそうだなあ、と思いつつ、図書館の棚に並んでいるのを目にしながら、まだ手にとってみたこともありませんでした。

きのう、たまたま娘に「お母さんどこ行きたい?」と尋ねられ、「北欧、フィンランド!」と答え、夜にはNHKでそのフィンランドの番組を見たばかり。
そして、フラニーさんのブログではこの本を紹介され・・・、これはもう読むしかないですね。

ただ、現在ハリポタの7巻を英語で読むという無謀なことをしているので、他の本がなかなか読めません。
あ~、やっぱり夏に読んだほうがいいでしょうか。
図書館で予約していた『一瞬の風になれ』も順番がまわってきたし。
わ~、どれから読もう・・・。
私には贅沢な悩みです(笑)。
返信する
耳が… (各務 史)
2007-08-20 18:22:37
痛い。あまりにも、痛すぎです。
はぁ~~~~~~~。
ちと、凹みそう。(大泣)
返信する
Unknown (ペンギンブルー)
2007-08-21 00:55:10
フラニーさん、こんばんわ。
暑いですねー、夏休みいかがでしたか?
写真の「クウネル」、フラニーさんが以前ご紹介されてたのを見て、
買った!と言いたいところでしたが、図書館で借りました ^_^;;)
図書館にある雑誌はできるだけ買わない、という戒めがあって.....
でも、内容がよかったので「買ってもよかった」とちと後悔もしたりしてね。
ヤンソンさんの小屋の写真、とっても素敵でしたよね。
あんな海に囲まれた、断崖のようなところにポツン、と。
災害を考えると恐くて住めないけど、住む生活を想像すると、なんだか自分の新境地が開けそうな気もしたり....。
読書の夏、してるんですね、フラニーさん。素敵。
そして、夏にふさわしい本なんですね。
そういう本との出会い、しかも季節がはまるような....素敵だな。

「読まなければ、ただの夏」っていうコピー(集英社文庫だったかなー?)私、結構すきなんですよ。(余談です...)
返信する
わーい! (こもも)
2007-08-21 17:40:02
大好きな、大好きな一冊です。
いつか、絶対に買おう!と思っている一冊です。
あまりに嬉しかったので、苦手なTBにも挑戦してみました♪よろしくお願いします。

私は、クリスマス・イブに読んで、別の意味で感動し、運命を感じましたが、フラニーさんのように、夏に読むのもいいかもしれませんね。うん。これは、再読しなくては!
くっちゃ寝さんも書かれている、NHKスペシャルのフィンランド特集、私も観ました。
海ではなくて、山についてでしたが、自然と共に、ひっそりと暮らす人々の営みに、とても感動しました。
家族全員で、息をひそめて観てしまいましたよ。
再放送、しないかなあ~。
「久しぶりにムーミン読もうよ」
テレビの後、息子が、しんみり言いました。素晴らしい、ムーミンの世界。そして、そのムーミンの原点ですね。この本は。
返信する
●くっちゃ寝さんへ (フラニー)
2007-08-21 21:02:03
くっちゃ寝さん、ただいまです♪
ほんとうに、お暑うございます・・・。

なんと、テレビでフィンランドの番組があったんですね・・・あ~、いつものことながら、見逃しました!
なんとなくくっちゃ寝さんはフィンランドにつながっているみたい。
そういうシンクロニシティーは偶然でなく、必然そうですよー(フフ、以前教えてもらいました♪)
ソフィアの夏、今時期読むのもまたよかったです。
そうそう、ハリポタ最新刊を英語で!読まれているんですものね~、尊敬のまなざしです。
「一瞬の風になれ」なんて、わが図書館では100番以上の待ちになっていたので、やめたくらいです(笑)
それが来ているとあらば、こちらさきのほうがよさそうですね!
ソフィアは夏がすぎても、ずーっと色あせない感じです。
返信する
●各務 史さんへ (フラニー)
2007-08-21 21:06:18
やんやん、史さん。
わたしも常に凹みがちなので、おばあちゃんの言葉が、大いに響いてしまいました。
ちょっと自戒をこめて覚えておきたいなと、メモとったのですよー。
ガッツでいきましょう!
返信する
●ペンギンブルーさんへ (フラニー)
2007-08-21 21:20:29
ペンギンブルーさん、その後体調もどってますか?
ほんとに暑いから~、バテますよね。
こっちへもどってきてからコハの発熱で、昨日も今日も40度近くを行ったり来たり。
これがうつったらまずいなーと思いながら、かわいそうで抱っこ生活です。

クウネルのこの号、よかったですよね!
図書館って、案外雑誌が充実してるんですよね。
今、手元本の見直しをしているので、ちょっと考えなくてはいけないわ(緊迫^^;)
ヤンソンさんの小屋の中で、素敵な棚つきのテーブルに、ちょうどマグカップがおさまる細いスペースがあったのがとても気に入っています。
親友と座る位置が違うから、見える景色も違うところ、生活道具がこじんまり、使いやすく配置されているところ、本当に数か月暮らすだけで、ずいぶん価値が変わりそうですよね。

集英社のコピーではないけれど・・・夏、だらだらしながら本を読むのって、極上の幸せですね~♪
返信する
●こももさんへ (フラニー)
2007-08-21 21:44:24
わ~い、こももさん、TBありがとうございます!
こももさんは、去年のイブに読み終わったんですね。
去年、ぱせりさんにこの本を勧めてもらって、なんだか夏に読みたいとずーっと思いこんでいたんですよ。
やっと読みました♪
本当に、人のかかわりも、自然との付き合い方も、流れる空気もいいですね~。
わたしもほしくなっています。

NHKの番組、見損なってしまったので、再放送してくれたら、わたしもうれしい・・・。
番組を見て、息子くんからムーミン読もうという言葉が出るなんて、うれしいですね~。
わたしもソフィアの前にムーミンを読みたくなって、夏まつりを再読してしまいました。

他のヤンソン作品も読んでみたいけれど、今はまだどっぷりとこの雰囲気につかっていたい感じですよ
返信する
作者の (新歌)
2007-08-22 12:57:50
実体験に裏づけられたものが
とても魅力的な物語になっているのですね。

ムーミン谷シリーズもまだなのですが
小4の娘にも読めるでしょうか?

『西の魔女が死んだ』『かみなりケーキ』…
おばあちゃんとの触れ合いの物語に
私、何故か惹かれます。
返信する
Unknown (はらぺーにょ)
2007-08-22 16:59:54
フラニーさん、こんにちは。
夏休み、のんびりできましたか?
私は5日間取得できる夏休みを、今年はちょこちょこ取って、
使い切ってしまいました。
なのに夏の間に読みたい本、やりたいことがまだまだ
追いついていません。

「Ku;nel」は私も買いましたよ~。
また引っ張り出して来ようっと。
ムーミン谷シリーズ、こももさんのところでよく紹介されていているのを拝見して、
是非読まなくちゃ!と思っていたのですが、 『少女ソフィアの夏』もとっても心惹かれてしまいました。

追伸;一昨日「かさどろぼう」を買いました。
返信する

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