ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

スイート・ホーム・シカゴ(1)

2008-12-08 | ガラスの器/ スイート・ホーム・シカゴ
シカゴ空港は、いつものように、忙しく行きかう人々でいっぱいだった。大きなスーツ・ケースを運ぶ人、見るからにホリデーに向かう楽しげな家族、手荷物として持って入れる小さな旅行かばんを肩から下げたビジネスマン、何もかも見慣れた光景だ。

何度も人を迎えに来ては、また送りに来た。自分でも、何度もこの空港から旅立ち、また戻ってきた。初めてこの空港に降り立ったときは、これから始まろうとするまったく新しい世界での生活に、恐れと期待で、小さな胸はいっぱいだった。

あの頃から、この様子は、まったく変わっていない。ただ、今日は、自分がシングル・チケットを手に、飛び立とうとしていることを除いては。


チェック・インを済ませ、荷物がなくなり身軽になったので、見納めというわけでもないが、少し空港の中を歩くことにした。そういえば、一人で、この空港の中をこんなにのんびり歩くことなど、これまでにはなかった。見かけたことはあっても、入ったことのない店ばかりだ。こんな店もあったのか、と初めて来たような気分になることもしばしばだった。

しばらく歩いた後、コーヒー・ショップに入った。カウンターでエスプレッソをダブルで注文して、レジでお金を払い、受け取ったコーヒーをトレイに乗せて、席を探した。

店には、4人がけのテーブルがたくさんあったが、どれも誰かがすでに座っていた。一人で座っている人に相席を頼めば、快く座らせてくれるだろうが、そんな気分ではなかった。それで、カウンター席に座ることにした。ここなら、隣に人がいようと気にせずにいられる。コーナーから1つ空けて、席についた。

(つづく)