ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

スイート・ホーム・シカゴ(3)

2008-12-10 | ガラスの器/ スイート・ホーム・シカゴ
「今度会う時には、僕はもっとうまく演奏できるようになっている、これが僕の約束だ。君の好きな、あのエリック・クラプトンのようには、いかないけどね」

エリック・クラプトン?私のお気に入りのギターリストじゃないか。

「初めて君が僕のために作ってくれた、あのランチに入っていた、玉子焼きのことは、今でも忘れないよ。あの時は、僕のほうがうまく作れるなんて言って、本当に悪かった。本当のことを言うと、とてもうれしくて、なんて言っていいかわからなかったんだ。でも、あんなに焦げた玉子焼きを食べてのは、あれっきりだよ」

焦げた玉子焼き?初めてのランチ?


私の中で、遠い記憶が少しずつよみがえってきた。

あれは、私がこの都市に来て2年くらい経ったときのことだ。英語にも慣れ、学校の勉強にもようやくついていけるようになり、学校生活が楽しくなってきた。友だちも、少しずつ増えた。

クリスマス・ブレイクに入る前に、学校でパーティーがあった。パーティーでは、学校の子たちのバンドが演奏していた。いくつバンドが出たとか、どんな曲を演奏していたとか、今ではまったく覚えていない。ただ一つ覚えているのは、一つのバンドが私のお気に入り、エリック・クラプトンの曲を演奏したことだ。

歌はへたくそ、ギターなんかとても聴いていられなかった。でも、彼は、楽しそうだった。気がつくと、私はステージの真ん前で、リズムに合わせてからだをゆすっていた。そのバンドが終わってからも、パーティーは、まだまだ続いた。

ステージを終えた彼が、はにかみながら、私にオレンジ・ジュースを差し出した。それが、私たちの始まりだった。


当時、私たちは、ジュニア・ハイだった。彼と学校で顔をあわせるだけで、とてもうれしかった。

サマー・ブレイクのときに、初めて二人きりでピクニックに行った。そのときに作ったランチに、玉子焼きを作って入れたのだが、それが大失敗。真っ黒焦げになってしまったのだ。

(つづく)