ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

スイート・ホーム・シカゴ(2)

2008-12-09 | ガラスの器/ スイート・ホーム・シカゴ
熱いエスプレッソを飲みながら、もう一度、チケットを確認した。何度見ても、シングルだ。もう2時間もしないうちに、飛行機は離陸する。そしたら、今度いつこの都市に戻ってくるのか、わからないのだ。

そう思うと、改めて、ナーバスになってきた。気持ちを落ち着かせようと、またコーヒーを口にした。


一人の若い男性が、コーナーの席に座った。彼は、少し落ち着かない様子だった。彼も、シングル・チケットを手に、飛び立とうとしているのだろうか。それとも、初めての飛行機の旅に緊張しているのだろうか。そんなことを勝手に想像した。


彼は、大きく息を一つすると、目はコーヒーを見つめたまま、思い余ったように、静かに、とうとつと話し出した。

「必ず・・、必ず、戻って来て欲しい・・」

彼の声は、店に流れているMTVの音にかき消されて、あまりよくは聞こえなかった。

「僕が君をこの都市で待っていることを・・覚えていて」

人の話を盗み聞きしようとしたわけではないが、今度は、はっきりと聞き取ることができた。

「帰って来ると・・・僕に、約束して欲しい」

彼の目は、あいかわらず、手に握られたコーヒーに注がれたままだった。独り言にしては、あまりにも真剣だ。

(つづく)