ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

スイート・ホーム・シカゴ(5)

2008-12-12 | ガラスの器/ スイート・ホーム・シカゴ
もう、私の気持ちは、はっきりしていた。でも、それを言葉にしてしまったら、そのまま彼の元に行ってしまいそうな自分が怖かった。

さめかけたコーヒーを口いっぱいに飲んだ。今、彼に伝えなければ、一生後悔する。それだけはしたくない。


思い切って、口を開こうとした、そのとき






「必ず、帰ってくるわ」

小さいけれど、はっきりとした声がした。震えるような女性の声だった。


彼は、ゆっくりと立ち上がり、私を通り過ぎ、私の隣に座っていた女性に歩み寄った。

その女性も立ち上がった。

二人は、まるで美しい映画のラスト・シーンのように、抱き合った。



その一瞬は、時が止まった。少なくとも、私には、そう感じられた。

  なんとなく彼に似ていただけだったのだ。


     彼のことばは、私へのものではなかった・・




すっかり冷めてしまったエスプレッソの苦味の中で、少しずつ、空港内の雑踏の音が、よみがえってきた。

MTVでは、エリック・クラプトンが、おきまりのストラトを手に、若い頃と変わらず、陽気に歌っていた。

 Come on
 Oh baby dont you wanna go・・

(週末は、このストーリーから、人生の知恵をまじめにウンチクります。)