ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

放蕩息子Part2 (3)

2007-10-03 | 放蕩息子Part2
都市に着いたときには、もう明るくなり始めていた。自分のするべきことはわかっていた。夜道を歩きながら、一晩、じっくり煮詰めたビジネスプランがあった。
何人かの知人を訪ねた。そして、自分のビジネスプランを小出しにした。知り合いとはいえ、完全に話してしまったら、この最高のプランを持って行かれるかもしれない。用心したにこしたことはない。彼らは、これまでの俺の働き振りを知っていたから、快く、俺のビジネスプランに融資してくれた。
俺の見込みどおり、ビジネスはうまくいった。融資をしてくれた知人たちは、さらに儲けようと、もっと大きな融資をしてくれた。こうなれば、しめたものだ。金は金を産み、さらなる金を呼んだ。あの畑で一日汗を流していた生活とは大違いだ。優雅に贅沢な暮らしを楽しんだ。
ひとつ儲かれば、さらに次の儲けが見えてくる。ビジネスは大きくなり続けた。ビジネスは信用第一だ。基本的には真面目に仕事をした。けれども、時には儲けるために上手に嘘をつくことを覚えた。いいじゃないか、嘘をつくことで、お互い儲かるんだから。これも必要悪と割り切れるようになった。知らぬ間に罪責感はなくなり、代わりに、儲けの匂いに敏感になっていた。

朝はゆっくり起きて、ペントハウスの窓越しにすでに動き出している都市を見下ろしながら、新聞を読む。そうすると、不思議と次に金になるポイントが見えてくるのだ。
いつものように、窓際のソファにどっかり腰を下ろし、優雅に、新聞を広げた。すると、とんでもない文字が目に飛び込んできた。あまりの驚きに、危うく、持っていたコーヒーカップを落とすところだった。まさかと自分の目を疑った。何度読み直しても、間違いなかった。つい先日、これは、と思って、相当の額を投じて購入した株があったが、その企業が不正事件を起こしたのだ。あわてて確認したときには、時すでに遅し。株価は暴落した後だった。
冷や汗が脇の下を走るのがわかった、その時、電話が鳴った。取ると、秘書が悲壮な声で言った。「新規購入し、拡張工事を済ませたばかりの工場が、製品を山と積み上げてあった倉庫もろとも延焼中です。火のまわりが早く、全焼は免れないでしょう。保険の手続きが完了していなかったため、保険会社は保険金を払わないと言っています。弁護士を通じて全力で交渉していますが、たとえおりても古い契約の金額です。」冷や汗が脂汗に変わった。これまで作り上げてきたものが、一瞬にして灰になっていくのがわかった。一文無しどころではない。莫大な借金が残るのだ。

(つづく)