上海市におけるテスラ車の新車販売は2024年、実に前年比41%減の4.3万台(新車購入時の保険情報、いわゆる末端データによる。以下同)にとどまった。一貫して上海市はテスラ車が最も売れる中国都市の座にあり続けたが、この急減で2024年はその座を浙江省杭州市、江蘇省蘇州市に奪われ、3位に沈んだ。どちらにしろ、上海の隣接都市であり、いわゆる長江デルタエリアでテスラ車がよく売れている、という状況自体は変わらない。
上海だけが急減しており、テスラ車販売上位都市は軒並み、前年比プラス成長を遂げている。
実は、テスラは苦境に直面している。同社のEV販売台数は、米国の主要市場であるカリフォルニア州で1月に前年同月比で31%も減少した。欧州市場はさらに悪く、年初の2カ月間の販売が43%も落ち込んだ。そして、収益面で最も重要な市場である中国では、2月までの販売が29%急落した。 テスラの株価は、3月27日までの時点で年初から34%下落している。同社を率いるイーロン・マスクへの反発も強まり、テスラの店舗では抗議活動が起き、車両が放火される事件も相次いでいる。しかし、事態はさらに悪化しようとしている。
販売の低迷は、競合他社が躍進する中でテスラの財務基盤が根本的に揺らいでいることを示しているが、最も深刻なのは、中国でテスラに起きている事態だ。2019年に開設された同社の上海工場は、中国における初の外資100%出資の自動車工場であり、テスラにとっても大きな転換点だった。
この工場により同社は、低コストの中国の労働力や部品、物流を背景に、販売を急増させて一貫して黒字を維持するようになった。しかし、今年に入ってから販売が減少に転じた中国市場は、すでに縮小しつつある同社の利益率をさらに圧迫する可能性がある。テスラの販売が鈍化している大きな理由の1つは、BYDなどの中国のEVメーカーが、あらゆる面でテスラを上回り始めていることだ。
中国最大の自動車メーカーであるBYDは、複数のモデルを組み合わせて、合計ではテスラをはるかに上回る販売台数を達成した。同社の低価格戦略は、ラテンアメリカやオーストラリア、欧州などでの販売の拡大にも寄与している(BYDの乗用車は現在、米国には進出できていない)。
BYDはまた、電気自動車に5分間で航続距離400キロメートル分を充電できるバッテリー充電システムを最近発表したが、この充電スピードは、テスラのスーパーチャージャーの4倍だ。世界最大のバッテリーメーカーで、テスラのサプライヤーでもあるCATLの創業者でCEOの曽毓群(ロビン・ゼン)は、昨年末に行われたロイターのインタビューで、「4860」と呼ばれるテスラの新型バッテリーセルについて「失敗する。成功することは絶対にない」とマスクに伝えたと語っていた。彼は、マスクがチップやソフトウェア、ハードウェア、機械的なことには優れているが、バッテリーについては知識が浅いという印象を持ったと語っていた。
BYDはまた、「神の眼(God’s Eye)」と呼ばれる自動運転システムを新型車に標準搭載し、テスラのフル・セルフ・ドライビング(FSD)システムに対抗しようとしている。
テスラは米国本土でも苦戦している。S&Pグローバルによると1月の米国におけるEV販売は、トランプ政権による7500ドル(約113万円)の連邦税控除の撤廃前の駆け込み需要で14%増加したが、テスラの販売は11%減少した。これは、同社の米国販売の3分の1以上を占めるカリフォルニア州での大幅な落ち込みが主な要因だ。S&Pグローバルの調査によれば、左派寄りのカリフォルニア州における現代自動車や起亜、ゼネラルモーターズ(GM)などの1月のEV販売が平均24%増加したのに対し、テスラは31%急落していた。この急落は、マスクのDOGEの業務に対する反発や、それに伴う米国内や欧州のテスラの店舗への大規模な抗議活動が起きる前に起きていた。
新たな販売データは4月まで公表されないが、良い内容にはならない見通しだ。「テスラの販売は第1四半期に打撃を受けるだろう」と、カリフォルニア州のコンサルタント企業オートパシフィックの社長兼チーフアナリストのエド・キムは語った。
マスクは、テスラの苦境を認識したためか、ここ2年ほどで自社をAIとロボティクスの企業に転換する計画を強調している。現在の収益の約9割はバッテリーパックとEVの販売によるものだが、彼はAIやロボタクシー、ヒューマノイド(人型ロボット)によって利益を数兆ドル規模に拡大できると主張している。マスクは「これらの分野への投資は将来、計り知れないほどの果実をもたらすだろう。それは理解するのが困難なほどの規模だ」と、1月の決算説明会で語っていた。
しかし、これらの分野でも、テスラは不利な立場にある。アルファベット傘下のウェイモは、ロボタクシー事業においてテスラをはるかに引き離しており、テスラが路上に出ている数百万台の車両に搭載されたカメラから膨大なデータを収集していることが、AI面での優位につながっているとは言い難い。
テスラのイベントでたびたび登場する人型ロボットのオプティマスも、過去に登場したボストン・ダイナミクスのロボットや、階段を上り、サッカーをし、ボトルを開けて飲み物を提供できたホンダ製ロボットのアシモにすら及ばない機能しかまだ示せていない(ホンダはアシモを2022年に引退させた)。
「中国政府がテスラに外資100%の工場を認めたことの裏側には、隠された意図があった。彼らの狙いはテクノロジーとノウハウ、そして経験を取り込むことだった」と、テスラの株主でロサンゼルスの資産運用会社ガーバー・カワサキを率いるロス・ガーバーCEOは語った。「まさにそれが今、現実になっている。今の中国車は本当に競争力があり、テクノロジーも優れていて、しかも価格が安い」
中国全体の新車(乗用車限定)販売は2024年、前年比8%増の2360万台に達した。只、上海市だけに限ってみると、実に同18%減の62万台となっている。
中国350都市以上の中でこの下げ幅はトップ10入り、上海よりも上位なのは、年間販売数百台程度の超小規模都市ばかりで、成長率の変動が大きいことを考慮すれば、やはり上海市が異常だ。
新車が売れない理由はいくつか考えられるが、まず前提として、中国の不景気が挙げられる。中国全体では引き続きプラス成長が続いているものの、マイナスに落ち込む都市も5分の1を占めている。
少子高齢化が深刻で、慢性的な渋滞、駐車場難及び高額も上海の新車販売に影響を与えているかもしれない。上海市におけるテスラ車の新車販売は2025年も引き続き不振が予想される。
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