小さなピンクと白の花がねじれてつくネジバナ。名前と姿形がぴったりなので、知らない人にこの花の名前は何と聞くと、半分くらいの人はきっとこれに近い名前を挙げるのではないかと思うほどだ。昔はどこでもみたものだが、公園の野原でやっとみつけた。
別名はもじずりだが、古今和歌集の「みちのくの 忍ぶもちずり 誰ゆえに みだれそめにし 我ならなくに」(河原左大臣 源融)のもじずりは草木染の技法のことで違うものらしい。
花は右巻きと左巻きがあるそうだが、どちらも同じ比率ででるというのも珍しい。写真の花は左巻きだが。
(2019-06 川崎市 公園)
ネジバナ(捩花、学名:Spiranthes sinensis var. amoena)は、ラン科ネジバナ属の小型の多年草。別名がモジズリ(綟摺)。
特徴
湿っていて日当たりの良い、背の低い草地に良く生育する。花色は通常桃色で、小さな花を多数細長い花茎に密着させるようにつけるが、その花が花茎の周りに螺旋状に並んで咲く「ねじれた花序」が和名の由来である。「ネジレバナ」、「ネジリバナ」、「ねじり草(そう)」とも呼ばれる事もある。学名のSpiranthes(スピランセス)は、ギリシャ語の 「speira(螺旋(らせん))+anthos(花)」に由来する。右巻きと左巻きの両方があり、中には花序がねじれない個体や、途中でねじれ方が変わる個体もある。右巻きと左巻きの比率は大体1対1である。
花茎から伸びる子房は緑色で、茎に沿って上に伸び、その先端につく花は真横に向かって咲く。花茎の高さは10-40 cm。花は小さく、5弁がピンク、唇弁が白。花のつく位置が茎の周りに螺旋状であるため、花茎の周りにピンクの花が螺旋階段のように並ぶことになる。この螺旋は右巻きと左巻きの両方が見られる。コハナバチのような小形のハナバチなどが花粉塊を運んで他花受粉が起こる。訪花昆虫が入り込めない隔離温室内などで開花した個体の場合、基本的にはほとんど結実がみられない。しかし長期にわたって花粉塊が運び去られないと、これが崩壊して柱頭に降りかかり、自家受粉を成立させる場合もあることが知られている。開花時期は4-9月。
葉は柔らかく厚みがあり、根出状に数枚つける。冬期は楕円形だが生育期間中は細長く伸びる。根は極めて太短く、細めのサツマイモのような形で数本しかない。ごく稀に真っ白い花をつける個体(シロネジバナ、シロバナモジズリ)が見られ、園芸愛好家に好まれる。
生育環境
日本全土、ヨーロッパ東部からシベリアにかけて、温帯・熱帯アジア全域、オセアニアなどに広く分布する。
ラン科ではめずらしく、芝生や土手、都市公園等の人間の生活圏に近い所で普通に見ることができる。この為、ともすれば花の綺麗な雑草として扱われ、芝刈り機で刈り取られてしまう。他方、その花の可愛らしさから、昔から愛でられ、愛好家主催の展示即売会等で、山野草として販売される事もある。昭和の終わり頃、当時の野性ランブームの中で管状の葉や斑入りなどの変異個体を収集するのが流行したが、後述のように単独栽培や株分けによるクローン増殖が困難なこともあって、ごく一部を除いて保存されていない。
俳句では捩花やもじずりとして夏の季語になっている。「捩花のまことねぢれてゐたるかな 草間時彦」は、ネジバナのを初めて見た人の驚きがよく表現されている。「捩花の影も捩れてをりにけり 高須賀恵美子」は観察が細かい(笑)。
捩花
おもはゆき捩花の辺に汝と坐る 高澤良一 素抱
千木屋根に咲く捩花も神の国 岡部六弥太
山男くる捩花の小鉢提げ 高井北杜
恭仁京阯捩花芝を描きにけり 金久美智子
捩花のういういしさがこみあげる 高澤良一 素抱
捩花のどれも動力尽きしさま 高澤良一 ももすずめ
捩花のほどよく捩れ蟻のぼる 渡邊千枝子
捩花のまことねぢれてゐたるかな 草間時彦
捩花のもののはづみのねぢれかな 宮津昭彦
捩花の一本に風旅の僧 加藤三七子
捩花の妻得てあれから四十年 高澤良一 素抱
捩花の影も捩れてをりにけり 高須賀恵美子
捩花の根がぶち切れて口惜しかり 高澤良一 素抱
捩花の翩翻梅雨の中休み 高澤良一 随笑
捩花は糸の如くに咲きのぼる 脇田裕司
捩花を挿し正面を決めにけり 日原傳
捩花を降り来し蟻と思ひけり 大串章
捩花地に音たてて雨降り来 鈴木貞雄
昏々と愛捩花に子が生る 栗林千津
遠ざかる遍路の鈴や捩花 有馬朗人
青芝の中なる捩花いっぽんに 背景は消えゆきゆきて夕 吉野裕之
ねぢ花をゆかしと思へ峡燕 角川源義
ねぢ花の野をおのおのの腓かな 岡井省二
ねぢ花の枯れても縒の戻らぬよ 樋笠文
芭蕉曾良もじずり草の長短か 百合山羽公
もじずりの花に霧ゆく療養所 竹内水居
もじずりの花の恋歌なかりしや 大谷ふみ子
もじずりの咲きて目洗地蔵道 西居 浩
仏彫る里にもじずり咲きにけり 林徹