シロヤマブキを紹介したついでに本来の山吹の写真もアップしておこう。
この写真は丹沢で撮影したもので、一重の山吹。
ただし身近にある山吹は八重が多いようだ。
(2019-04 神奈川県秦野市 林間)
「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」という歌は落語で有名になった。
道灌 (落語)
もちろん山吹については多数の俳句がある。
「もらひ風なる山吹のゆれにけり 阿波野青畝」などはいい句だと思う。
山吹 の例句
あるじよりかな女が見たし濃山吹 原石鼎 花影
うてな皆一重山吹果てにけり 阿波野青畝
かなしさよ白山吹と人はいふ 山口青邨
さ山吹ところどころに濃山吹 阿波野青畝
たそがれる窓を山吹退りゆく 篠原梵 年々去来の花 皿
ちぎり捨てあり山吹の花と葉と 波多野爽波
ひとむらの八重の山吹夜の膝 岡井省二 有時
ひねもすの石屑とぶや濃山吹 日野草城
ひらひらと日向山吹返り咲く 臼田亜浪 旅人 抄
ふと思ふ山吹のことその後のこと 岡本眸
むかばきに八重山吹の乱れけり 政岡子規 山吹
もらひ風なる山吹のゆれにけり 阿波野青畝
やはらかに落葉かさみて濃山吹 松村蒼石 雁
ゆく春の山吹活けしやどりかな 山口青邨
一亭に一客のかげ濃山吹 鷲谷七菜子 一盞
万葉の山吹ここに痩せてゐる(松瀬青々先生遺居にて二句) 細見綾子
仏壇の山吹散りし茶湯哉 政岡子規 山吹
傘さして山吹を折る小庭かな 河東碧梧桐
傘さして山吹提げて橋の上 政岡子規 山吹
八重ざくら八重やまぶきに黄泉の杖 松本たかし
再びの雨脚はやし葉山吹 富安風生
剪り立ての八重山吹の花の照 日野草城
卯の花を山吹のごと咲かしある 右城暮石 句集外 昭和六年
古井戸や山吹散つて魚遊ふ 政岡子規 山吹
吹きのびし山吹うつる潦 山口青邨
咲くときも白山吹のひそかなる 稲畑汀子
喉くびに山吹うすく匂ひけり 飯島晴子
四月十九日正午の濃山吹 星野立子
垣の山吹咲けばむしるよ行きずりに 臼田亜郎 定本亜浪句集
奥能登や山吹白く飯白し 前田普羅 能登蒼し
女人の山吹を挿す芭蕉像 山口青邨
子を叱る声やめたまへ葉山吹 石田勝彦 秋興
寺近くなりし坂道濃山吹 右城暮石 句集外 昭和五十七年
小町忌や八重山吹も散りにけり 山口青邨
少年の日の山吹と*あづち見ゆ 佐藤鬼房
山吹が山で咲きたる花まばら 細見綾子
山吹が金の窓枠嬰児の部屋 有馬朗人 母国
山吹と見ゆるガラスの曇哉 政岡子規 山吹
山吹にかはたれの雨しぶきけり 日野草城
山吹にさす月ありて月うすし 水原秋櫻子 殉教
山吹にしぶきたかぶる雪解滝 前田普羅 飛騨紬
山吹にすこしの風もなく暮れぬ 山口青邨
山吹に一降り雨や榜蔦刺舘 村山故郷
山吹に似合ひて川の流れたり 岡井省二 前後
山吹に古衣洗ふをとめ哉 政岡子規 山吹
山吹に大馬洗ふ男かな 村上鬼城
山吹に山の日ざしの惜みなく 清崎敏郎
山吹に干鰺の蠅通ふなり 清崎敏郎
山吹に張物乾く日は高し 政岡子規 山吹
山吹に暮春の風雨強からず 松本たかし
山吹に朝日のあたる万碧楼かな 日野草城
山吹に木瓜のまじりし垣根哉 政岡子規 山吹
山吹に枕とり出す仮寝かな 阿波野青畝
山吹に柳しだるゝ小池かな 政岡子規 山吹
山吹に洗ひ清めた日和来よ 細見綾子 桃は八重
山吹に照る月更けて月ばかり 水原秋櫻子 殉教
山吹に燃えて尽きたる屑火かな 政岡子規 山吹
山吹に留守かや障子すきたれど 阿波野青畝
山吹に色深みたる八重葎 飯田龍太
山吹に蝶吹き飛ばす嵐哉 政岡子規 山吹
山吹に雪解の水の青々し 政岡子規 山吹
山吹の*ろうかん千本年あらた 山口青邨
山吹のあを草むらに散り果てぬ 松村蒼石 寒鶯抄
山吹のかなしや雨に花たたみ 山口青邨
山吹のこぼるる蕗となりにけり 阿波野青畝
山吹のしだるるさまは離れみる 富安風生
山吹のただ一花だけ返り花 細見綾子
山吹のちるや布にも河原にも 政岡子規 山吹
山吹のつき出し枝へ花はしり 星野立子
山吹ののこらず咲いて霖雨かな 臼田亜郎 定本亜浪句集
山吹のほつれ毛のごとき一枝あり 山口青邨
山吹のもつれとけたる風ありぬ 山口青邨
山吹の一重の花の重なりぬ 高野素十
山吹の一重ばかりよ歌碑古りぬ 星野立子
山吹の三ひら二ひら名残かな 阿波野青畝
山吹の上にしだるゝ柳かな 政岡子規 山吹
山吹の上に家あり雪操居 政岡子規 山吹
山吹の下へはいるや鰌取 政岡子規 山吹
山吹の中に傾く万座径 前田普羅 春寒浅間山
山吹の中に引つ込む小牛哉 政岡子規 山吹
山吹の中に米つくよめ御かな 政岡子規 山吹
山吹の中に米つく女哉 政岡子規 山吹
山吹の中に顔出す臼のおと 政岡子規 山吹
山吹の中へわたすや丸木はし 政岡子規 山吹
山吹の二連三連うちゆるる 山口青邨
山吹の今が盛りの大原路を 高浜年尾
山吹の余花に卯の花くだし哉 政岡子規 五月雨
山吹の八重に漁師の妻姙む 右城暮石 句集外 昭和二十六年
山吹の八重の遅るる莟かな 後藤夜半 底紅
山吹の冷えつゝ黄なる月夜かな 渡邊水巴 富士
山吹の向ふの花は細かにて 高野素十
山吹の咲きそふ書庫の閉ざすまま 山口青邨
山吹の咲きそふ滝のみな女滝 山口青邨
山吹の咲きたる日々も行かしめつ(松瀬青々先生遺居にて二句) 細見綾子
山吹の咲くや武蔵の玉川に 政岡子規 山吹
山吹の咲く頃といふ約したし 細見綾子 桃は八重
山吹の咲く頃やまこ釣るゝ頃 高野素十
山吹の四五戸あつまり谷なせり 水原秋櫻子 蘆雁以後
山吹の垣うら白し小米花 政岡子規 小米花
山吹の垣にとなりはなかりけり 政岡子規 山吹
山吹の場所は生え抜き陶器市 平畑静塔
山吹の外向いて咲く垣根かな 政岡子規 山吹
山吹の姥に道問ふ女坂 角川源義
山吹の室咲見せよ卜師 政岡子規 室咲
山吹の山吹色す永平寺 右城暮石 句集外 昭和四十一年
山吹の岸も過ぎけり下り舟 政岡子規 山吹
山吹の岸も過ぎけり渡し舟 政岡子規 山吹
山吹の散りそめて皆散にけり 政岡子規 山吹
山吹の散るや盥の忘れ水 政岡子規 山吹
山吹の村に目青き宣教師 有馬朗人母国拾遺
山吹の枝の狼藉鯨幕 石田勝彦 雙杵
山吹の枝ひろがりて吹き立てる 高野素十
山吹の枝長過ぎし枕上み 細見綾子
山吹の檜垣ぬけ出し一枝かな 富安風生
山吹の歸花見る彼岸哉 政岡子規 後の彼岸
山吹の毎日散つて井浅し 政岡子規 山吹
山吹の水無月とこそ見えにけれ 政岡子規 水無月
山吹の流れ去りけり一しきり 政岡子規 山吹
山吹の溝に垂れたる垣根哉 政岡子規 山吹
山吹の濡れてひつゝく鎧かな 政岡子規 山吹
山吹の猿橋高く渡しけり 百合山羽公 樂土
山吹の白には昔語りなし 後藤夜半 底紅
山吹の白は騒がしからずして 後藤夜半 底紅
山吹の背戸口狭し鍋茶釜 政岡子規 山吹
山吹の花くふ馬を叱りけり 政岡子規 山吹
山吹の花さくまでの炉と云ひし 高野素十
山吹の花のうてなの緑かな 高野素十
山吹の花のこりたる山路かな 高野素十
山吹の花の二たすぢなるものも 高野素十
山吹の花の終りし籬にて 高野素十
山吹の花の鎖の幾垂も 山口青邨
山吹の花の雫やよべの雨 政岡子規 山吹
山吹の花の雫や宵の雨 政岡子規 山吹
山吹の花も葉もなき青さかな 渡邊白泉
山吹の花をつらねて枝かなし 山口青邨
山吹の花を渦巻く井堰かな 政岡子規 山吹
山吹の花咲き尋ねて居る 尾崎放哉 小豆島時代
山吹の花平らかに風うけて 高野素十
山吹の花散る池にひきがへる 細見綾子
山吹の花歸りさく彼岸かな 政岡子規 後の彼岸
山吹の花残りある滝茶店 右城暮石 句集外 昭和七年
山吹の花波寄する佐渡が墓 山口青邨
山吹の花流れよる芥かな 政岡子規 山吹
山吹の茎にみなぎり来し青さ 細見綾子 和語
山吹の落花をしきて客迎ふ 山口青邨
山吹の落花を重ねまこと濃し 山口青邨
山吹の落花石にも春は逝く 山口青邨
山吹の落葉し盡す露の川 飯田蛇笏 家郷の霧
山吹の葉の色したり雨蛙 右城暮石 声と声
山吹の蕾とがりて並びけり 山口青邨
山吹の蝶を見てゐて得度かな 飯田蛇笏 山廬集
山吹の裏返りては色うすし 山口青邨
山吹の返り花など無けれども 高野素十
山吹の野生えの里を汽車が越す 右城暮石 句集外 昭和十二年
山吹の雨に灯ともす隣かな 内藤鳴雪
山吹の雨やガラスの窓の外 政岡子規 山吹
山吹の雨を眺めて事しげく 山口青邨
山吹の雨水はけで映るなり 阿波野青畝
山吹の風はへだつる戸にあたる 山口青邨
山吹の黄の鮮らしや一夜寝し 橋本多佳子
山吹の黄をもて春を行かしめず 後藤比奈夫
山吹の黄を挾みゐる障子かな 波多野爽波
山吹の黄金とみどり空海忌 森澄雄
山吹は春の名残の一重かな 河東碧梧桐
山吹も菜の花も咲く小庭哉 政岡子規 山吹
山吹やいくら折つても同じ枝 政岡子規 山吹
山吹やいさゝか降りて沸(にえ)の付 齋藤玄 飛雪
山吹やいちにちの暇なしくづし 藤田湘子
山吹やこの世にありて男の身 藤田湘子
山吹やひつさげ通る竹箒 石田勝彦 秋興以後
山吹や一つ庵に釜二つ 石塚友二 磯風
山吹や三角の蕾一列に 政岡子規 山吹
山吹や人形かわく一むしろ 政岡子規 山吹
山吹や何がさはつて散りはじめ 政岡子規 山吹
山吹や八年泰き被爆の池 秋元不死男
山吹や公事に上りて借屋敷 政岡子規 山吹
山吹や凭るるにある古柱 上野泰
山吹や啄むごとく碑銘刻る 上田五千石『田園』補遺
山吹や実も葉もあらぬ愚痴話 石塚友二 光塵
山吹や寝雪の上の飛騨の径 前田普羅 飛騨紬
山吹や尋ねあたらぬ乳母が家 政岡子規 山吹
山吹や小鮒入れたる桶に散る 政岡子規 山吹
山吹や山水なれば流れ疾く 橋本多佳子
山吹や干消炭に艶も出て 上田五千石 森林
山吹や幼時の想ひ今熱き 相馬遷子 雪嶺
山吹や庫裡の暮しの音立てず 右城暮石 散歩圏
山吹や庭うちにして道祖神 石川桂郎 高蘆
山吹や折折はねる水の月 政岡子規 山吹
山吹や昼をあざむく夜半の月 前田普羅 春寒浅間山
山吹や暮れかねつうごく水馬 渡邊水巴 白日
山吹や暮れゆく水のとゞまらず 渡邊水巴 富士
山吹や月の戸叩く武者一騎 政岡子規 山吹
山吹や水うつくしき多摩の里 政岡子規 山吹
山吹や水にひたりし花の枝 政岡子規 山吹
山吹や水辺は古人偲ばしめ 上田五千石『天路』補遺
山吹や池に臨みて亭一つ 政岡子規 山吹
山吹や濛雨の中の奥座敷 富安風生
山吹や皇居の中に勤めもち 富安風生
山吹や老師九十の普茶料理 水原秋櫻子 殉教
山吹や花散り尽す水の上 政岡子規 山吹
山吹や荷をおろしたる蜆売 政岡子規 山吹
山吹や薪割る妻の一語勢 秋元不死男
山吹や藁屋を叩く武者一騎 政岡子規 山吹
山吹や酒断ちの日のつづきをり 秋元不死男
山吹や雨雲垂るゝ野のほとり 政岡子規 山吹
山吹や鶉飼ふたる市の家 政岡子規 山吹
山吹を一枝去来はいつも居ず 百合山羽公 樂土
山吹を三たびめぐつて蝶去りぬ 政岡子規 山吹
山吹を折りかへしつゝ耕せり 前田普羅 飛騨紬
山吹を折る音ならしあらし山 岡井省二 五劫集
山吹を踏んで驚く雀かな 政岡子規 山吹
山吹ノ返リ花アリ夏蜜柑 政岡子規 夏蜜柑
山吹流す岩門の彼方本流過ぐ 中村草田男
山路きて山吹白く顔黒し 政岡子規 山吹
川上へ山吹靡きなびくなり 松本たかし
工場の山吹散れば花火の黄 山口青邨
干傘に山吹散るや狭き庭 政岡子規 山吹
庭すこし荒れて好まし葉山吹 松本たかし
庭先の山吹を折る法事かな 政岡子規 山吹
愛でてゐる山吹膾けふ暮るる 森澄雄
撥ねものの一壺の仔細濃山吹 平畑静塔
故人のことこころに山吹八重となる 山口青邨
日あるうち越さむ峠の濃山吹 伊藤白潮
日を恋うてわが山吹も八重なりけり 橋閒石 卯
明治大帝立たせ給ヘり濃山吹 山口青邨
春信がゑがく山吹わが庭に 山口青邨
春風に野生え山吹株成さず 細見綾子 桃は八重
暮れてゆく猫間障子の濃山吹 山口青邨
杉垣に山吹咲ける裏戸哉 政岡子規 山吹
枝道に枝道折るるやまぶき草 石川桂郎 四温
桜散つて山吹咲きぬ御法事 政岡子規 散桜
梅林に山吹の茎艶々と 細見綾子
欽乃や山吹がくれ誰が誰 阿波野青畝
此頃は井出の山吹面白し 政岡子規 山吹
母あらば山吹明かく何言はん 細見綾子 桃は八重
比丘尼来て山吹折て帰りけり 政岡子規 山吹
水かふや山吹つゝく馬の鼻 政岡子規 山吹
水上へうつす歩みや濃山吹 杉田久女
水無月の山吹の花にたとふべし 政岡子規 水無月
この写真は丹沢で撮影したもので、一重の山吹。
ただし身近にある山吹は八重が多いようだ。
(2019-04 神奈川県秦野市 林間)
「七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき」という歌は落語で有名になった。
道灌 (落語)
室町時代中期の武人・道灌は、狩りをしている最中に村雨に遭い、雨具を借りようと1軒のあばら家に立ち寄った。15歳くらいの少女が出てきて、「お恥ずかしゅうございます」と言いつつ山吹の枝を盆に乗せて差し出し、頭を下げた。道灌が意味をつかみかねていると、家来のひとりが「『七重八重 花は咲けども 山吹の 実のひとつだに なきぞ悲しき』という古歌がございます(後拾遺和歌集・兼明親王作)。これは『実の』と『蓑(みの)』をかけ、『お出しできる雨具はございません』という断りでございましょう」と進言した。これを聞いた道灌は「ああ、余はまだ歌道(かどう)に暗い(=詳しく知らない)のう」と嘆き、それ以来和歌に励み、歌人として知られるようになった。
もちろん山吹については多数の俳句がある。
「もらひ風なる山吹のゆれにけり 阿波野青畝」などはいい句だと思う。
山吹 の例句
あるじよりかな女が見たし濃山吹 原石鼎 花影
うてな皆一重山吹果てにけり 阿波野青畝
かなしさよ白山吹と人はいふ 山口青邨
さ山吹ところどころに濃山吹 阿波野青畝
たそがれる窓を山吹退りゆく 篠原梵 年々去来の花 皿
ちぎり捨てあり山吹の花と葉と 波多野爽波
ひとむらの八重の山吹夜の膝 岡井省二 有時
ひねもすの石屑とぶや濃山吹 日野草城
ひらひらと日向山吹返り咲く 臼田亜浪 旅人 抄
ふと思ふ山吹のことその後のこと 岡本眸
むかばきに八重山吹の乱れけり 政岡子規 山吹
もらひ風なる山吹のゆれにけり 阿波野青畝
やはらかに落葉かさみて濃山吹 松村蒼石 雁
ゆく春の山吹活けしやどりかな 山口青邨
一亭に一客のかげ濃山吹 鷲谷七菜子 一盞
万葉の山吹ここに痩せてゐる(松瀬青々先生遺居にて二句) 細見綾子
仏壇の山吹散りし茶湯哉 政岡子規 山吹
傘さして山吹を折る小庭かな 河東碧梧桐
傘さして山吹提げて橋の上 政岡子規 山吹
八重ざくら八重やまぶきに黄泉の杖 松本たかし
再びの雨脚はやし葉山吹 富安風生
剪り立ての八重山吹の花の照 日野草城
卯の花を山吹のごと咲かしある 右城暮石 句集外 昭和六年
古井戸や山吹散つて魚遊ふ 政岡子規 山吹
吹きのびし山吹うつる潦 山口青邨
咲くときも白山吹のひそかなる 稲畑汀子
喉くびに山吹うすく匂ひけり 飯島晴子
四月十九日正午の濃山吹 星野立子
垣の山吹咲けばむしるよ行きずりに 臼田亜郎 定本亜浪句集
奥能登や山吹白く飯白し 前田普羅 能登蒼し
女人の山吹を挿す芭蕉像 山口青邨
子を叱る声やめたまへ葉山吹 石田勝彦 秋興
寺近くなりし坂道濃山吹 右城暮石 句集外 昭和五十七年
小町忌や八重山吹も散りにけり 山口青邨
少年の日の山吹と*あづち見ゆ 佐藤鬼房
山吹が山で咲きたる花まばら 細見綾子
山吹が金の窓枠嬰児の部屋 有馬朗人 母国
山吹と見ゆるガラスの曇哉 政岡子規 山吹
山吹にかはたれの雨しぶきけり 日野草城
山吹にさす月ありて月うすし 水原秋櫻子 殉教
山吹にしぶきたかぶる雪解滝 前田普羅 飛騨紬
山吹にすこしの風もなく暮れぬ 山口青邨
山吹に一降り雨や榜蔦刺舘 村山故郷
山吹に似合ひて川の流れたり 岡井省二 前後
山吹に古衣洗ふをとめ哉 政岡子規 山吹
山吹に大馬洗ふ男かな 村上鬼城
山吹に山の日ざしの惜みなく 清崎敏郎
山吹に干鰺の蠅通ふなり 清崎敏郎
山吹に張物乾く日は高し 政岡子規 山吹
山吹に暮春の風雨強からず 松本たかし
山吹に朝日のあたる万碧楼かな 日野草城
山吹に木瓜のまじりし垣根哉 政岡子規 山吹
山吹に枕とり出す仮寝かな 阿波野青畝
山吹に柳しだるゝ小池かな 政岡子規 山吹
山吹に洗ひ清めた日和来よ 細見綾子 桃は八重
山吹に照る月更けて月ばかり 水原秋櫻子 殉教
山吹に燃えて尽きたる屑火かな 政岡子規 山吹
山吹に留守かや障子すきたれど 阿波野青畝
山吹に色深みたる八重葎 飯田龍太
山吹に蝶吹き飛ばす嵐哉 政岡子規 山吹
山吹に雪解の水の青々し 政岡子規 山吹
山吹の*ろうかん千本年あらた 山口青邨
山吹のあを草むらに散り果てぬ 松村蒼石 寒鶯抄
山吹のかなしや雨に花たたみ 山口青邨
山吹のこぼるる蕗となりにけり 阿波野青畝
山吹のしだるるさまは離れみる 富安風生
山吹のただ一花だけ返り花 細見綾子
山吹のちるや布にも河原にも 政岡子規 山吹
山吹のつき出し枝へ花はしり 星野立子
山吹ののこらず咲いて霖雨かな 臼田亜郎 定本亜浪句集
山吹のほつれ毛のごとき一枝あり 山口青邨
山吹のもつれとけたる風ありぬ 山口青邨
山吹の一重の花の重なりぬ 高野素十
山吹の一重ばかりよ歌碑古りぬ 星野立子
山吹の三ひら二ひら名残かな 阿波野青畝
山吹の上にしだるゝ柳かな 政岡子規 山吹
山吹の上に家あり雪操居 政岡子規 山吹
山吹の下へはいるや鰌取 政岡子規 山吹
山吹の中に傾く万座径 前田普羅 春寒浅間山
山吹の中に引つ込む小牛哉 政岡子規 山吹
山吹の中に米つくよめ御かな 政岡子規 山吹
山吹の中に米つく女哉 政岡子規 山吹
山吹の中に顔出す臼のおと 政岡子規 山吹
山吹の中へわたすや丸木はし 政岡子規 山吹
山吹の二連三連うちゆるる 山口青邨
山吹の今が盛りの大原路を 高浜年尾
山吹の余花に卯の花くだし哉 政岡子規 五月雨
山吹の八重に漁師の妻姙む 右城暮石 句集外 昭和二十六年
山吹の八重の遅るる莟かな 後藤夜半 底紅
山吹の冷えつゝ黄なる月夜かな 渡邊水巴 富士
山吹の向ふの花は細かにて 高野素十
山吹の咲きそふ書庫の閉ざすまま 山口青邨
山吹の咲きそふ滝のみな女滝 山口青邨
山吹の咲きたる日々も行かしめつ(松瀬青々先生遺居にて二句) 細見綾子
山吹の咲くや武蔵の玉川に 政岡子規 山吹
山吹の咲く頃といふ約したし 細見綾子 桃は八重
山吹の咲く頃やまこ釣るゝ頃 高野素十
山吹の四五戸あつまり谷なせり 水原秋櫻子 蘆雁以後
山吹の垣うら白し小米花 政岡子規 小米花
山吹の垣にとなりはなかりけり 政岡子規 山吹
山吹の場所は生え抜き陶器市 平畑静塔
山吹の外向いて咲く垣根かな 政岡子規 山吹
山吹の姥に道問ふ女坂 角川源義
山吹の室咲見せよ卜師 政岡子規 室咲
山吹の山吹色す永平寺 右城暮石 句集外 昭和四十一年
山吹の岸も過ぎけり下り舟 政岡子規 山吹
山吹の岸も過ぎけり渡し舟 政岡子規 山吹
山吹の散りそめて皆散にけり 政岡子規 山吹
山吹の散るや盥の忘れ水 政岡子規 山吹
山吹の村に目青き宣教師 有馬朗人母国拾遺
山吹の枝の狼藉鯨幕 石田勝彦 雙杵
山吹の枝ひろがりて吹き立てる 高野素十
山吹の枝長過ぎし枕上み 細見綾子
山吹の檜垣ぬけ出し一枝かな 富安風生
山吹の歸花見る彼岸哉 政岡子規 後の彼岸
山吹の毎日散つて井浅し 政岡子規 山吹
山吹の水無月とこそ見えにけれ 政岡子規 水無月
山吹の流れ去りけり一しきり 政岡子規 山吹
山吹の溝に垂れたる垣根哉 政岡子規 山吹
山吹の濡れてひつゝく鎧かな 政岡子規 山吹
山吹の猿橋高く渡しけり 百合山羽公 樂土
山吹の白には昔語りなし 後藤夜半 底紅
山吹の白は騒がしからずして 後藤夜半 底紅
山吹の背戸口狭し鍋茶釜 政岡子規 山吹
山吹の花くふ馬を叱りけり 政岡子規 山吹
山吹の花さくまでの炉と云ひし 高野素十
山吹の花のうてなの緑かな 高野素十
山吹の花のこりたる山路かな 高野素十
山吹の花の二たすぢなるものも 高野素十
山吹の花の終りし籬にて 高野素十
山吹の花の鎖の幾垂も 山口青邨
山吹の花の雫やよべの雨 政岡子規 山吹
山吹の花の雫や宵の雨 政岡子規 山吹
山吹の花も葉もなき青さかな 渡邊白泉
山吹の花をつらねて枝かなし 山口青邨
山吹の花を渦巻く井堰かな 政岡子規 山吹
山吹の花咲き尋ねて居る 尾崎放哉 小豆島時代
山吹の花平らかに風うけて 高野素十
山吹の花散る池にひきがへる 細見綾子
山吹の花歸りさく彼岸かな 政岡子規 後の彼岸
山吹の花残りある滝茶店 右城暮石 句集外 昭和七年
山吹の花波寄する佐渡が墓 山口青邨
山吹の花流れよる芥かな 政岡子規 山吹
山吹の茎にみなぎり来し青さ 細見綾子 和語
山吹の落花をしきて客迎ふ 山口青邨
山吹の落花を重ねまこと濃し 山口青邨
山吹の落花石にも春は逝く 山口青邨
山吹の落葉し盡す露の川 飯田蛇笏 家郷の霧
山吹の葉の色したり雨蛙 右城暮石 声と声
山吹の蕾とがりて並びけり 山口青邨
山吹の蝶を見てゐて得度かな 飯田蛇笏 山廬集
山吹の裏返りては色うすし 山口青邨
山吹の返り花など無けれども 高野素十
山吹の野生えの里を汽車が越す 右城暮石 句集外 昭和十二年
山吹の雨に灯ともす隣かな 内藤鳴雪
山吹の雨やガラスの窓の外 政岡子規 山吹
山吹の雨を眺めて事しげく 山口青邨
山吹の雨水はけで映るなり 阿波野青畝
山吹の風はへだつる戸にあたる 山口青邨
山吹の黄の鮮らしや一夜寝し 橋本多佳子
山吹の黄をもて春を行かしめず 後藤比奈夫
山吹の黄を挾みゐる障子かな 波多野爽波
山吹の黄金とみどり空海忌 森澄雄
山吹は春の名残の一重かな 河東碧梧桐
山吹も菜の花も咲く小庭哉 政岡子規 山吹
山吹やいくら折つても同じ枝 政岡子規 山吹
山吹やいさゝか降りて沸(にえ)の付 齋藤玄 飛雪
山吹やいちにちの暇なしくづし 藤田湘子
山吹やこの世にありて男の身 藤田湘子
山吹やひつさげ通る竹箒 石田勝彦 秋興以後
山吹や一つ庵に釜二つ 石塚友二 磯風
山吹や三角の蕾一列に 政岡子規 山吹
山吹や人形かわく一むしろ 政岡子規 山吹
山吹や何がさはつて散りはじめ 政岡子規 山吹
山吹や八年泰き被爆の池 秋元不死男
山吹や公事に上りて借屋敷 政岡子規 山吹
山吹や凭るるにある古柱 上野泰
山吹や啄むごとく碑銘刻る 上田五千石『田園』補遺
山吹や実も葉もあらぬ愚痴話 石塚友二 光塵
山吹や寝雪の上の飛騨の径 前田普羅 飛騨紬
山吹や尋ねあたらぬ乳母が家 政岡子規 山吹
山吹や小鮒入れたる桶に散る 政岡子規 山吹
山吹や山水なれば流れ疾く 橋本多佳子
山吹や干消炭に艶も出て 上田五千石 森林
山吹や幼時の想ひ今熱き 相馬遷子 雪嶺
山吹や庫裡の暮しの音立てず 右城暮石 散歩圏
山吹や庭うちにして道祖神 石川桂郎 高蘆
山吹や折折はねる水の月 政岡子規 山吹
山吹や昼をあざむく夜半の月 前田普羅 春寒浅間山
山吹や暮れかねつうごく水馬 渡邊水巴 白日
山吹や暮れゆく水のとゞまらず 渡邊水巴 富士
山吹や月の戸叩く武者一騎 政岡子規 山吹
山吹や水うつくしき多摩の里 政岡子規 山吹
山吹や水にひたりし花の枝 政岡子規 山吹
山吹や水辺は古人偲ばしめ 上田五千石『天路』補遺
山吹や池に臨みて亭一つ 政岡子規 山吹
山吹や濛雨の中の奥座敷 富安風生
山吹や皇居の中に勤めもち 富安風生
山吹や老師九十の普茶料理 水原秋櫻子 殉教
山吹や花散り尽す水の上 政岡子規 山吹
山吹や荷をおろしたる蜆売 政岡子規 山吹
山吹や薪割る妻の一語勢 秋元不死男
山吹や藁屋を叩く武者一騎 政岡子規 山吹
山吹や酒断ちの日のつづきをり 秋元不死男
山吹や雨雲垂るゝ野のほとり 政岡子規 山吹
山吹や鶉飼ふたる市の家 政岡子規 山吹
山吹を一枝去来はいつも居ず 百合山羽公 樂土
山吹を三たびめぐつて蝶去りぬ 政岡子規 山吹
山吹を折りかへしつゝ耕せり 前田普羅 飛騨紬
山吹を折る音ならしあらし山 岡井省二 五劫集
山吹を踏んで驚く雀かな 政岡子規 山吹
山吹ノ返リ花アリ夏蜜柑 政岡子規 夏蜜柑
山吹流す岩門の彼方本流過ぐ 中村草田男
山路きて山吹白く顔黒し 政岡子規 山吹
川上へ山吹靡きなびくなり 松本たかし
工場の山吹散れば花火の黄 山口青邨
干傘に山吹散るや狭き庭 政岡子規 山吹
庭すこし荒れて好まし葉山吹 松本たかし
庭先の山吹を折る法事かな 政岡子規 山吹
愛でてゐる山吹膾けふ暮るる 森澄雄
撥ねものの一壺の仔細濃山吹 平畑静塔
故人のことこころに山吹八重となる 山口青邨
日あるうち越さむ峠の濃山吹 伊藤白潮
日を恋うてわが山吹も八重なりけり 橋閒石 卯
明治大帝立たせ給ヘり濃山吹 山口青邨
春信がゑがく山吹わが庭に 山口青邨
春風に野生え山吹株成さず 細見綾子 桃は八重
暮れてゆく猫間障子の濃山吹 山口青邨
杉垣に山吹咲ける裏戸哉 政岡子規 山吹
枝道に枝道折るるやまぶき草 石川桂郎 四温
桜散つて山吹咲きぬ御法事 政岡子規 散桜
梅林に山吹の茎艶々と 細見綾子
欽乃や山吹がくれ誰が誰 阿波野青畝
此頃は井出の山吹面白し 政岡子規 山吹
母あらば山吹明かく何言はん 細見綾子 桃は八重
比丘尼来て山吹折て帰りけり 政岡子規 山吹
水かふや山吹つゝく馬の鼻 政岡子規 山吹
水上へうつす歩みや濃山吹 杉田久女
水無月の山吹の花にたとふべし 政岡子規 水無月