「大感謝フェア」でカーテンを買いました。大塚家具で、です。
前にも書きましたが、うちはカーテンだけが大塚家具で買ったもの。しかも寝室の遮光カーテンだけです。レースカーテンは、問屋街の店で安く購入しています。セールということで、オーダーカーテンも安くなるなら、と純粋に消費者の気持ちで行きました。リビング用ですが、ワイドが違うだけで高さは寝室と同じなので、サイズを書いた伝票が出てきたので、渡りに舟と出かけた次第です。今注文すれば、GWに付け替えができますし……。
店内は、一部改装中(おしゃれな感じになる?)で、エントランスから場末感は否めませんが、店内は冷やかしではない、いかにも家具を買いそうなお客さんが何事もなかったかのように、スタッフと話をしたり、ご夫婦か恋人同士で見て回ったりしています。高齢者が多いわけではありません。中年の女性もいましたが、目立ったのは30代くらいのカップルです。
ふつうに迎えてくれるエントランスは、なるほど敷居が低く、ホッとします。でもカーテン売り場でもなかなか声をかけてはもらえません。インテリア雑貨ならともかく、一度もコミュニケーションを取らなければ、カーテンの購入はできないので、自分から声をかけました。これも全然問題ありません。
カーテンも10%OFFのものと、30%OFFのものがあり、行った甲斐がありました。サイズの問題とはいえ、裁断したり縫ったりしないといけない商品ですから、値引き対象外の覚悟もしていました。
ヘビーユーザーでも株主でもないので、感謝される筋合いも、謝罪される筋合いもありませんが、ここは看板に偽りなしというか、あれだけ広告費をかけずに大々的にアピールしている手前、つまらないクレームを恐れていることは、接客の随所にも感じられました。
気持ちよく購入し、GW中に届くことも確認し、さて会計をして帰ろうかという段になって、唖然とする申し出がスタッフからありました。
「お値引き商品ですので、現金でのお支払いをお願いしています」「はい?クレジットカードは使えないの」
思ってもいなかったので、持ち合わせはありません。
「そういうわけではありませんが、ご協力をお願いしています。後日の振り込みでもかまいません。振込手数料は当店で負担いたします」
「カードが使えないなんて、知らなかったですけど」「そうなんですか」(←普通知らないと思いますが)
要するに、カードだと店側が手数料をカード会社に支払わないといけない、だから現金で払う「協力」をいただきたいという話です。
当然そんなことはわかっていますが、どんな企業でもそれを飲み込んで小売りをしているのです。飲み込めないパパママストアや小規模会社は、現金のみという店もあります。それはそれで仕方がありませんし、実は手数料の料率は、小さな会社ほど、物販よりサービスのほうが高いのです。カード会社も金融ビジネスなので、相手の与信によって料率を変えています。大企業、上場会社であるうえに物販の大塚家具は、最低限の手数料率のはずです。
私はさまざまな店で買い物をし、個人経営の美容院でサービスも受けていますが、こんなことを言われたことはありません。少なくとも、ここ数年は覚えがありません。あえて類似ケースをいえば、ビックカメラのポイント料率がカード払いだと減るパターンですが、あれはそもそもポイントは代金ではないので、致し方ないと思います。
こういうことがあり得るとすれば、おねえさんが接客するような夜のお店か、地方で本当に地域の人と顔が見える付き合いをしている小さな店だと思います。なかには手数料をお客さんの会計に上乗せしている店もある(あった?)ようですが、本当はしてはいけないことです。だって、物を買うのは、顧客と店の契約ですが、カード会社の手数料は、店とカード会社(あるいは代行会社)との契約です。相対取引で生じる代金以外のものを第三者に押し付けている理屈になります。
もちろん、大塚家具はそんなことはしませんし、あくまで「協力のお願い」ですから、法的にも道義的にも問題はありません。
でも気の弱いお客さんの中には、予定のなかった現金での出費をしてしまう人もいるでしょう。今、GW前、民間企業の会社員のお客さんにとっては、給料日前です。現金を出して「しまった!」と思っているお客さんもいるのではないでしょうか。協力を断ってカードで払った私も、次回から敷居が高くなります。
「協力のお願い」は、それなりの人間関係がある間柄でのみ有効です。小売りのお客さんと店の関係はビジネスです。決済というビジネスにとって、最も大事な局面でビジネスライクでない話を持ちだしてはいけないと、私は思います。どうしてもカードで利益を浸食されるのが嫌なら、30%引きを20%引きにすればいいのです。というより、たかが2週間程度のフェアです。こんなセコイ話はしないことです。
たぶん、これは以前の経営の遺物だと思います。会員制の裏には、お客さんにお願いできるウェットな関係づくりという理想があったのでしょう。
本来、会員制そのものは古い手法ではありません。顧客データベースに基づいたCRMは、最新ではありませんが、少なくともIT経営が根づいてから効率化され、多くの会社が極めたいと研究しているものです。ただ、そこに「お願い」という関係性を介在させることは、さらに高度な技術が必要です。つまり誰でも彼でもお願いしてはいけない。データベースで、お願いが有効な顧客と、お願いしてはいけない顧客を選別したうえで、ウェットな関係を築くべきなのです。
大塚家具の株主総会で、厳しい発言をシニアの男性がしていました。「家具は家族が幸せなときに買うもの。家族で喧嘩している会社の家具を誰も買いたいと思わない」。これは確かに真理の一つです。マーケティングの教科書に書いてありそうな意見で、否定はしません。
しかし、現実に大塚家具といえども、都市部の店で家具を購入する人の主流は、30代の夫婦なのです。マンションや家をローンを組んで購入するボリュームゾーンだからです。もちろん、その両親が同居していたり、両親がお金を出すケースもあるでしょうが、それでも今の若い夫婦は、買う物や店は自分たちで決めるケースが多いと思います。
その世代は、会社の経営陣が対立していることより、自分たちの趣味に合った商品を、いくらで、どんな接客・サービスで買えるかがまず大事です。彼らが社会に出たときから、日本のあらゆる店がカード使用可で、カード普及の過程を見ていない人も多いはずです。カードは象徴的な話で、すべてではありません。大型商業施設やチェーンストア中心のよくいえば「クール」、悪くいえば「ドライ」な商環境の中にいたわけです。
現代を生きる人のライフスタイルや顧客心理を見きわめ、本当の意味でのCRM経営が可能なら、会員制そのものは悪いシステムではありません。それはサービスだけではなく、商品企画や品ぞろえにも反映されていくべきですし、安ければいいという話ではないのです。今はまず変えようとする新勢力と過去の遺物がアンバランスに混在する状況から抜け出さなければ、コンセプトのわからない品ぞろえも価格帯も中途半端な店になりかねません。