曜日のめぐりがあまり良くなかったこともあり、今年の年末年始は何年かぶりにずっと東京にいました。そんな大みそかの夜に何と宅配便が届きました。大規模な集合住宅に住んでいますが、年末年始はかなり静かです。地方出身の東京暮らしの人が多いということでしょう。私もその1人。大みそかに荷物が届いたことなど、過去に一度もなかったように思います。
それはふるさと納税の返礼品でした。からすみをセレクトしたので、一瞬はそのタイミングが嬉しかったのですが、ふと疑問に思いました。送った人は私が大みそかに自宅にいることは知るよしもありません。
荷物はクール宅急便で、日持ちのするからすみのほかに、サービス品なのか、私がよく見ていないだけで最初からセットになっていたのかわかりませんが、しらすや干物まで入っています。しかも大量に。そのうちのしらすの消費期限は1月5日です。冷凍するなどで少しは延ばせても、それも限界がありますし、そもそも1人や2人で食べきれる量ではないのです。
幸い、元日の来客に半ば強引に半分引き取ってもらいましたが、その人は食べきれたでしょうか。私は毎日少しずつ食べるようにしましたが、無理でした。
目当てはからすみだったのでいいのですが、この情報化が進んだ時代に「地方の感覚だから微笑ましい」というわけでもないと思います。
もちろん、通販で買ったものではないので、文句を言うほどのことはないです。でも送ってきた事業者は、地方自治体から商品を買い上げられているのです。彼らはどこの地域でも、それをチャンスとしてとらえ、送る荷物にサービス品を入れたり、商品カタログ(リピート通販喚起)や地域の観光案内を入れたり、様々な工夫をされています。
最近は地方の企業も東京やほかの日本の大都市を目指すのではなく、直接外国に進出したり商品を売り込んだりする例も出てきました。それは素晴らしいことですが、簡単なことではありません。同じ日本人のマーケティングができずして、外国人のマーケティングはできません。それなりの資金、行政やプロの支援、その経営者のバイタリティや能力がなくてはなりませんし、そこまでできるのは中小零細企業や一次産業ではまだまだ少数派です。
地域内の地産地消だけでビジネスが成り立たない場合は、まずは身近な巨大マーケットを目指すのが自然ですし、しかも最近は何も支店や営業所を構えなくても、ネット通販で物を売ることも可能です。
ふるさと納税の返礼品競争は批判対象にもなっていますが、一方で地方の農作物や産品のPRやマーケティング機会にもなっているのです。
「まるでお取り寄せ品のネット通販」と言った人もいましたが、現象だけを見ればそういう側面もあります。ただ、政策でやっているという性格上、永遠にこの制度が続くかどうかはわかりません。せっかくの見込み顧客との出会いを今のうちに積み重ね、本物の顧客を1人でも多く獲得していかなければ、一過性のものに終わってしまいます。
小売りなどの顧客との一対一のマーケティングの基本は、顧客を知ろうとすることだと思います。何も調査をすることだけではありません。テレビを観ていれば、「年末年始ふるさとに帰る人で高速道路の渋滞は……」と必ずニュースをやっているでしょう。少しの想像力を働かせれば、大みそかにクール宅急便を送ることはしないはずです。3日あるいは4日に東京に戻り、不在票を発見し、翌日届けてもらった商品の消費期限が1月5日なら、もらった人も送った人も幸せではありません。
たぶん送ってくださった方は「お正月に食べてもらいたい」という親切心だったのだと思います。それならメール1本入れてもらえれば、受け取れても食べきれない大量のしらす問題以外はOKなのです。実際、通販と同じシステムで発送の案内をメールで送ってきていた自治体もありました。どんな政策や仕組みでも乗っかればそれでいいというものではありません。ビジネスチャンスを生かすも殺すも事業者次第の部分はあると思います。
ちなみに一昨年納税をした自治体から、その地域の美しい風景写真の絵葉書が新年に届きました。地方行政にも経営感覚を、というのは何年も前から言われていますが、ふるさと納税のような仕組みができると、その感覚の差がはっきり出てきます。人気の高い自治体は、ただ返礼品が豪華というのではなく、きめ細かい心配りが行き届いているのだと思います。