日本で人がいちばん住んでいるのも、人口移動が激しいのも首都圏ですが、旧来の大塚家具のようなビジネスモデルは、大都市圏では合わない部分が出てきています。そういう意味では、現社長(娘)の言い分はもっともなわけです。
一方で、会長(創業者)は、現社長が広告宣伝費を抑えたがために、地方から来店するお客さまが減ったと言っているそうです。これも一つの事象を的確に表しています。最低でも両親と子ども2人構成以上の家族構成、戸建て新築時にこそ、生きるビジネスモデルだと思うからです。
別に私は同社の株主でもないので、父娘のお家騒動はどうでもいいですが、家具のマーケティングを考えたときの事例としては、少し興味があります。
ここのところ、落ち着いてはいますが、東京で引っ越しを繰り返してきました。そのたびに捨てる家具、買う家具がまったくないわけではないですが、たとえば寝室のローチェストは、東京に出てきたときに買ったものです。若干開閉の滑りが悪くなっていますが、不自由はありません。そのほかにもキッチンボードなど20年選手のものもあります。リビングのテレビ台はブラウン管テレビ当時のままなので、液晶を置くには妙に面積が広いですが、買い替えようと思ったことはありません。
買った店を思い起こすと、ACTUS、SEMPRE、フランフランなど、まちまちです。大型家具というのは購入頻度が少ない、いまどき一つの店舗でそろえない、というだけでなく、最近のマンションは、分譲でも賃貸でもクローゼットなどの収納は、壁面に組み込まれているが主流で、敢えて購入する必要もありません。収納だけでなく、照明器具も居室以外はダウンライトで、電球だけ交換すればいい形になっています。戸建てでも新築なら同じではないでしょうか。
こうした時流に合わせて、無印良品やIDEEなどは、ハウジングメーカーやディベロッパーと一緒に内装をプロデュースしたり、彼ら企業に商品を供給したりしています。BtoCビジネス単独で考えると、家具は難しい商材になっているといえます。
BtoCに特化する会社は、徐々に雑貨にシフトしています。ACTUSも以前は家具のイメージが強く、今でも新宿店ではそれなりに家具も展開していますが、ショッピングセンター内のテナントは、売り場面積の半分は雑貨が占めています。フランフランに至っては、完全に雑貨店といってよく、よく家具店として引き合いに出されるIKEAも雑貨が充実しています。そればかりかフードビジネスが話題の中心になることも。
では、家具を買う消費者の立場で、大塚家具の旧来モデルは古臭く欠点だらけ、雑貨中心の小型・中型テナントにシフトするACTUSなどがバラ色のモデルかといわれれば、そんなことはないと思います。
若い一人暮らし、あるいは夫婦だけの家族なら、いろいろな店を見て回り、自分で組み合わせを考えるのも楽しいかもしれません。でも割高になりますし、何より疲れます。それなりの手間やセンスも要求されます。そんなことをやっていられないという層は多いと思いますが、IKEAやニトリなどの大型店を除けば、1店舗ですべてをそろえるのは、品ぞろえの面でも価格の面でもかなり難しいのではないでしょうか。
そう考えれば、大塚家具の旧来モデルは、ブルーオーシャン。要するに競合が少なく、貴重なのです。ニトリに流れる人、IKEAを好む人は、そもそも大塚家具のターゲットではないと思いますし、資本力のある大手企業の中では、旧来モデルがむしろ唯一無二であるといえるかもしれません。
実際、うちにも大塚家具で購入したものが1点だけあります。オーダーカーテンです。こればかりはきちんと相談できる店の方がいいですし、品ぞろえも豊富であるに越したことはありません。1部屋分だけ契約すると、別の部屋でも検討されるときにお持ちください、とサイズ(高さが同じなので)や品番が書かれた紙を渡されました。おそらくデータベース管理もされ、同じ色柄やサイズのものが必要だといえば出してくれるのでしょう。これはいいサービスです。
経営は対立し、勝ち負けで決着をつけるしかない局面はあるかもしれませんが、マーケティングは何も百かゼロか、黒か白かの世界で割りきれるものではないと思います。百貨店はもうだめだ、総合スーパーはたちゆかないといったところで、世の中から一気に二つの業態が消え、コンビニや小型スーパー、専門店だけになったら、不便なはずです。家具店も、旧来型の継承でも、雑貨店やIKEA、ニトリへの道でもない、第3の活路があるのかもしれません。