ensemble マーケティングの視点

日常生活と趣味を綴る個人的散文です。タイトルに反し、仕事に関する話は書きません。

アフターコンタクト

2009-03-29 16:16:48 | 社会・経済

モノよりサービス消費の時代なんて、言い古されたキーワードだけれど、政府も企業も生活者に今こそ何とかお金を使ってもらいたいと思っている。モノを買ってもらうことも大事だが、一度買ったらしばらく不要になるものをお勧めするよりも、形のないものを買ってもらった方が手っ取り早いし、早期リピートも求められる。定額給付金高速道路1千円の組み合わせで旅行をしてもらうのが、最良のシナリオというわけで、低価格の家族旅行パックが多く売り出されているようだ。

このシナリオの良し悪しはともかく、当然ツアー企画の陰で各地域に旅行者を迎え入れる宿泊施設やレストランや、その他のサービス事業者や人がいて、この好機をモノにしたいと思っている。それはもちろんチャンスだが、このときだけ急激にお客さんが増えても、格安の低い利益が瞬間風速的に通り過ぎるだけで、本当の景気浮揚にはならない。バラまき政策が事業者にとってバラまかれにならないように、それぞれの知恵で次につなげることを考えて、ようやく本当の意味でのチャンスになるのだと思う。

そして繰り返し利用したくなる顧客サービスって何だろうと考えた時、そのサービスを受けている間、まさに顧客接点の一瞬一瞬が満足できることは普通に求められることだ。しかし翌日以降に思い出に残るとか、影響を与えるといったサービス力はかなり高度で、タイミングやお客さんとの相性が良くなければかなわないことでもある。でも瞬間で忘れられては確実な繰り返し利用は見込めない。日常的に通う美容・健康サービスなら、ポイントサービスもある程度は有効だけど、旅先でそんなものを渡されても、あまり意味がない。心にポイントをためてもらう必要がある。

例えばこれはほんの一例だけど、旅と食は切り離せない。美味しいものに出会ってその瞬間感動することはよくある。そこでしか食べられない究極の美味を提供できることも、料理人のサービスや技術としては一級品で必要なこと。でもそれを後々まで覚えていてもらうほどのものとなると、そんな一級のサービスを提供できる店や旅館は一握りだと思う。しかし例えば、そのうちの一品でも普通の素材を使った特別なレシピがあって、料理好きのお客さんにさりげなくレシピを渡したり、つくり方を教えたら、その人が日常生活に戻った時に、その店や料理人を思い出す確率は増すだろう。

プロとは素人にできないことが特別にできる人だけのことを言うのではないと思う。もちろん技術的な上手さや発想力、創造力は必要だが、少なくとも一般のお客さんを相手にしたサービス業の人たちは瞬間芸を見せることより、アフターコンタクトというか、現実的なコンタクトポイントから離れた後に影響力を与える人のほうが上だと私は思う。

具体的な体験談がある。カットをする美容師には二通りいる。カットがすばやくブローに時間をかけ、美しく仕上げる人と、カットが丁寧で、ブローを簡単で誰にでもできそうな技術で仕上げる人。仮に仕上がりが同じレベルなら明らかに後者の方がプロだと私は思う。なぜならばブローは翌日以降、お客さん本人がやらなければならないからだ。

旅先の料理はそのまま日常には持ち込めない。だからフルコースや懐石料理のすべてを詳らかにする必要はない。ヘアカットの技術をお客さんに教える必要がないのと同じで、日常生活でそれほどお金をかけなくても楽しめる料理だけ、1、2品でいいのだと思う。それがその地域やその料理人独自のものであればインパクトがある。簡単にできるブローの方法を教えてくれた美容師のことは毎朝思い出すチャンスがあるように、料理のレパートリーを増やしてくれた料理人のことはその料理をつくるたびに思い出してもらえるチャンスがある。

せっかくなので単にお金を使い切ってもらうツアー企画だけではなく、次につなげるサービスプランを考える機会でもあると思う。民間事業者は政策にまんまと乗る以上に、もっとしたたかであってもいいのでは?


こだわる力

2009-03-24 01:11:47 | アート・文化

日本のR&Dの力が評価されるのは、どうしても絶対的に必要なインフラ系や医療・バイオ、車やエレクトロニクス、あるいは大量消費される食や衣料品分野に集中する。早い話、役立っている感満載のものにスポットライトが当たる。これは当然のこと。

しかし時折「なくてもいいよね」と思うものにまでこだわったR&D力が発揮されているのをみると、それはそれですごいことだと純粋に思う。以前にデジタルパーマ(形状記憶パーマ)についてこのブログに書いたことがあったが、やっぱり髪が傷むということが実証され(人間が使うので実証は簡単)、次にまたエアウェーブというものが開発された。美容師いわく、いずれも日本のメーカーの開発で、エアウェーブに至ってはまだ日本でしか実用化されていないのだそうだ。なんでも空気カプセルのようなものの中に30分閉じこもるそうで、ジェット機離陸のような爆音(大げさ?)がその間ずっとあるそう。大変じゃないかと思うが、ジェット機に乗っていると思えば楽しくなるらしい(まさかね)。例えば行き先のビーチリゾートなどを思い浮かべると、なお快適だという。もっとも離陸しただけではどこにも着かないけど。

しかし飛行機で感じる耳鳴りやその他の症状は伴わないらしい。私はまだ試していないが、開発したタカラベルモントによると今度は髪も傷まないのだそうだ(そういう表現では書かれていないので、念のため)。美容師もデジタルパーマよりリピーターが多いと言っていた。

体験していないのでエアウェーブの良し悪しはともかく置いて、こういう製品やサービスにとことんこだわれる日本の力を感じることがある。外国で髪を切ったことはないが、エステやネイルをすると、確かに安いのだけど、技術的にはどうなのか、使用している機器や素材、サービスがどうなのか、というとやっぱり日本のきめ細かさには勝てないと思う。ロンドンのサロンのアロママッサージはさすがに本場だけあって良かったけれど、価格は日本並みかそれ以上。質素倹約型の本国の平均的な人たちは、あまり来られないと聞いた。米国の場合は、一般的なレベルのサロンはアジア人スタッフであることが多く、欧州より値段は安く広く浸透しているが、内容はアジアンリゾートより少し落ちる。

美容分野に限らず、大義名分の希薄な産業に知恵や力が入れられるのは、軍需より民生を重んじる平和さ、生活者が多様な価値を求める豊かさの象徴でもある。また職業の平等性、価値の均等性がある程度保たれている必要もある。これらの基盤が失われていけば、おのずと国内の産業の厚み、職業選択の幅が狭まる。現実にさまざまな職種で人材不足が起こっているが、どこかで介護や医療分野など人が人に尽くさなければならない仕事は、労働集約型で効率が悪く経済力の背景にはなりにくいという風潮、実態になっているからだろう。既にあるかもしれないが、美容師不足なんていう話も今後はもっと出てくる可能性もある。そのときには他のことが深刻で、きっと置き去りにされる話題になるだろうが、総合的に社会を形成するという観点からは、一見大義名分がなくとも無視はできない。必需品の確保に血みどろになる社会は、何よりも潤いがなく、楽しくない。


ワインを飲まないフランス人

2009-03-20 13:37:05 | アート・文化

単にドラマ『神の雫』のプロモートだったかもしれないので、真偽のほどはわからないが、最近の若いフランス人はワインを飲まなくなっているらしい。『神の雫』の原作マンガは周知の通り日本以上に韓国でブームになり、韓国人のワイン消費量を引き上げたというワインのうんちくが随所にちりばめられた内容だ。乱暴な言い方を承知ですれば、ワインにテーマを絞り込んだ『美味しんぼ』。今回の報道は、このマンガがワインの本国フランスでも話題になり、ワイン離れが進んでいた若い人を取り込んだというものだ。

『神の雫』の威力はともかく、フランス人がワインを飲まなくなり、ビールに偏っている理由としてどうもカジュアルさが足りないということに原因があるらしい。若い人の就職事情が悪く、価格的・気分的に手が出ない(テーブルワインなどは日本より随分安かったと記憶しているが)ということもあるのかもしれない。世界的な不況は当然のことながら欧州も直撃しており、日本より格段安いテーブルワインにも手が出ない、それも真実かもしれない。食習慣が変わり、特にランチなどは日米のようにファストフードに偏りつつあるということもあるだろう。

日本人も若い人は日本酒をあまり飲まなくなっているし、和定食より牛丼やカレーなどを含めてファストフード系に流れている。時代が変わり、グローバリゼーションが進めば、とりわけ宗教や文化と食の結びつきが薄い先進国で、食生活の変化は致し方ない。でも一方で自国の食文化を守ることは、安全を守ることにもつながるとも言える。例えば日本で米食離れが進み、米を食べなくなり、輸入食材に頼りすぎると、いざという時に食糧は枯渇する。フランスにおけるワインも同様に良い作り手と飲み手(消費者)がいて、技術が磨かれ、伝統のブランドを継承し、大量に生産するからこそ、輸出産業の一角を担える。他の国のワインより高く売れる。

コミックはいまや日本の重要なリソースになっているが、遠いフランスの文化の継承に多少なりとも役に立っているのなら悪い話ではない。でも日本酒のマンガも一時日本で人気が出たけど、抜本的に日本酒復権にはつながらなかったわけで、メディアミックスならぬメディアプラス実態的なソリューションを考えていかないと一時的な現象に終わってしまう。

神の雫 20 (20) (モーニングKC) 神の雫 20 (20) (モーニングKC)
価格:¥ 590(税込)
発売日:2009-03-23


ニッポン人にも要らない機能

2009-03-11 02:38:02 | ニュース

商業施設や劇場等公共のトイレに入ってうんざりすることがある。バリアフリーであることは認めるが、便器から離れただけで水が自動的に流れる機能が必要だろうか。うっかり1回に何度も流してしまうことがあり、水がもったいない。にもかかわらず、傍らにせせらぎの音が流れるオルゴールみたいなものが付いている。まったくもって一貫性がない。センサーに手を近づけたら開閉するゴミ箱も別に要らない。ジャンプ傘より普通の傘のほうが、デジタル腕時計よりアナログのほうが高級感がある。これらすべて日本人が考えたものなのか、日本にしかないものなのかは知らないが、少なくともトイレに関してはそうじゃないかな、と思う。

携帯電話にあんなに余計な機能が必要か(確実に言えることはすべてを使いこなしていない)、液晶テレビのほんのわずかな画質の差がわかるのか、これらはさんざん言い尽くされてきたことだが、翻せば日本の民生品技術の特長でもある。高価で高度なテクノロジーでなくとも、ティッシュペーパーのようないわゆる日用雑貨の類であっても、日本のモノづくりのきめ細かさは随所にあり、使用感の良さは確かにある。携帯電話が良い例だが、海外ではまったくダメでも日本人が国産にこだわる商品は結構あるように思う。

なぜこんなことを書くかというと、数日前の日経新聞で新興国向けに価格帯を抑えた独自商品を出していく日本のメーカー各社の動きが記事になっていたからだ。確かに国民の平均収入が日本の10分の1くらいの国で、普通の人たちがホンダやヤマハのバイクに好んで乗っているのを見ると不思議に思う。バイクに限らず、機能をそぎ落とし、既存の技術を使った製品をつくり、彼らの収入に見合った価格で提供すれば消費者の裾野は広がるかもしれない。ジェネリック医薬品と同様の考え方を他の消費財にとり入れるということに近いが、もちろんそこにも国・地域によっての消費者ニーズやアビリティを調査・把握する必要があり、簡単なことではない。マーケティングにもコストはかかる。

一方では日本の若いOLや学生がルイ・ヴィトンの一つも持っているように、がんばって買う憧れのブランドが新興国の人にもあるのではないかと思う。日本人も昔は収入との対比で考えればかなり高い電化製品を買っていた。確かに今は日本人でも余計な機能は要らないと思うが、日本特有の時にきめ細かすぎるR&Dの力をそぎ落として、果たしてノキアSAMSUNGとの違いを明確に出し、勝てるかどうかが今後は試される。

部品を単に組み立てて工業製品を作るだけでは、日本は立ち行かない。R&Dの強さをもっと生命科学や環境、食の分野に生かすよう、産業構造をシフトすべきという考え方もある。それは大事なことだけど、そのためには教育から変えないと、そう簡単に違った分野の有能な人材や企業は数多くは出てこない。次世代の経済のグローバリゼーションは、まさに新たな局面に入っていくのかもしれない。


ワイヤレスマウスはeneloopで

2009-03-08 15:56:34 | デジタル・インターネット

今日初めてSANYOエネループを買った。何を今さら…という感じもするが、存在は知っていてもこれまであまり購入を意識してこなかった。以前は強かった洗濯乾燥機がいろいろ不具合を出し、経営状況の悪化とあいまって二流イメージから脱出できなかったSANYOにとって電池技術は、パナソニックによる子会社の決め手になったと言われるくらい重要な存在であり、エネループはその消費財のシンボルだ。

技術の応用という点では、さまざまな可能性があるのは間違いない。既にリチウムイオン電池では世界的にもトップシェア。ただ素直に充電式家庭用電池の代替という見方をした時にも、もうちょっと早く普及してもよかろうと思うが、普通の電池が店頭に相当量並んでいる現状ではまだ課題を残しているのだろう。価格もそれほど落ちていないので、セール品と化している一般電池に比べてかなりの割高感がある。

一般ユーザーへのアプローチとしては、電池を使い捨てするより、「ケータイ電話のように充電して何度も使ったほうが環境に良いでしょう、電池を改めて買うこともなくなりますよね」ということに尽きる。

ところが一般家庭でそうそう電池を取り替えないといけないものがたくさんあるかというと意外とそうでもない。私も購入したのは、単3を4個、単4を2個。単3は頻繁に替えなければならないワイヤレスのマウス用、単4は同じくボイスレコーダー用、いずれも商売道具であり、純然たる生活消費財とは言えない。そのほかで電池を使っているのは、パソコンのキーボードと各種リモコン、懐中電灯、時計くらいか。ところがこれらのものはそうそう電池がダメにならない。子どもがいる家庭なら玩具系のものもあるかもしれないが、ゲームの多くは充電式なのではないかと思う。しかもなぜか最近電池が不燃ゴミとして出せるようになった(これは地域差があると思います)。

商品の持つスピリッツは良く、人に認められる力があっても、活用用途とコストパフォーマンスをイメージできなければ消費者には届きにくい。子会社化以降は、パナソニックの電池使用商品にはすべてセットでエネループをつければ、普及率は一気に拡大するのではないか。半強制的にでも便利さを実感できれば、人は手放せなくなり、他のことでも使用が拡大する。確か任天堂とは既にタイアップしているはず。

少なくともワイヤレスマウスは、最初は便利だけど、毎日使っていると、「いいよ、コードがつながっていても!」と言いたくなるくらい、よく使用不能になる。最初からエネループがついていたら…。もしかしたらそんな商品、知らないだけで既にあるのかもしれないが…。