■最終話■
後ろから現れたのは、ピンクのビブスを着たランナー集団。
ビブスには「14時間」と書かれている。
最近大会に正式採用された「ペースランナー」。
14時間とは今大会の制限時間。
つまり、このビブス集団に離されるとゴール時間内にゴール出来ない。
低速で走る自分をバタバタと抜いていく。
通りすがりに、
「頑張りましょう~!時間内にゴールしましょう~!」
と声を掛けてくれる。
14時間ペースランナーには多くのランナーがくっついている。
自分もコバンザメランナーに変身する。
コバンザメ達は龍のように長い列をつくる。
みんな時間内ゴールを目指し必死の形相でペースランナー達を追っている。
「離されたくない・・」「絶対にゴールしたい」
しかし、ペースランナー達は結構なスピードで、一人、また一人と龍の尻尾からはがれ落ちて行く・・。
何とも残酷で無情な光景・・。
苦しい・・、何とかついていかなくては・・。
ペースランナー達はエイドで少し休憩をとる。
これはチャンスと、自分は給水少しにしてペースランナー達の前に出て逃げる。
後ろからまた集団に抜かれる。
エイドで前に出る。
これを繰り返すが、徐々に遅れ始める。
ペースメーカー達はみんな元気。
若い女性のペースランナーはカメラクルーに向かって何やらはしゃいでいる。
自分にはもうあんな元気は微塵も無い・・。
【82.6km、鵜ノ江地区】
鵜ノ江は前半は上る。
なかなか脚が上がらなくなる。
大きなカーブを最後にペースランナー集団は見えなくなった・・・。
ポーチに手を伸ばし携帯電話で連絡する。
「もうすぐ鵜ノ江のトンネル、もうすぐソコに着くで」
【84.5km、かわらっこ】
「かわらっこ」のある田出ノ川地区は死んだオフクロの里。
今でもこの辺に来るとオフクロに会えそうな気がする・・。
下り坂の向こうで待ってくれていたのはチームの応援隊。
今年の応援旗はシアトルからの帰国子女(男の子)中学生に描いてもらった。
「お~い、アレ?K君(中学生)は?」
「今、トイレに行ったところ・・」
「ん~残念!・・しかし上手に描いたね~」
この夏から慣れない日本の学校に編入した彼。
慣れない風習、慣れない方言、慣れない友達、
思春期も迎え、想像以上に頑張っているはず・・。
応援旗には「You Can Do It!!」と書いてある。
その通りだ・・、走ろう。
川登地区の関門近くをダラダラと歩いているランナーに声を掛ける。
「関門はすぐその先ですよ!走りましょう!」
ランナーがランナーの脚を動かす。
数人のランナーが重い脚をあげて走り出す。
【86.9km、川登関門】
12分前に通過。
止まらずに走る。
沿道のおばさんが「おかえり」と言っている。
気持ちは有難いが、あと13㎞もある・・。
心の油断は禁物。
沿道のおばさんが泣いている。
通りすがりに「ありがとう」と言われる。
必死の形相で走るギリギリランナーの姿は感動的に映るのだろうか・・。
三里地区入ると辺りは一気に暗くなる。
ガードレールの無いカーブはボランティアが立ってくれていて、
懐中電灯で走る足元を上手に照らしてくれる。
「ありがとうございます」
エイドで蛍光スティックを渡される。
ポーチに取り付けた蛍光スティックは揺れる。
前方を行くスティックの光は暗闇に浮かびあがって蛍のようだ。
【88km地点】
残り12kmをキロ10分で間に合う。
動け!
【90km地点】
ダメだ、全く動けない。
2回目のガス欠。
もう胃は痛くない。
エイドでチョコレート、ミカン、カステラを流し込む。
しばらく歩くと体力が戻る。
チョコレートには即効性があるようだ。
走る。
【93.9km、佐田最終関門】
「あと3分で~す」
遠くから声が聞こえる。
2分半前に通過。
通過はしたが信号はもう赤信号だろう。
せっかく最終関門を通過した女性ランナーが自らリタイアバスに乗り込もうとしている。
「やっぱり行けるところまで行ってみます!」
思いとどまってそう叫んだ彼女は足取りよく前に消えた。
普段は一人で寡黙に走っているランナー達。
大会に参加している2200人のランナーの足の裏にはそれぞれの練習の履歴書がある。
自分の履歴書には自信が無い・・。
突然沿道から自分のゼッケンを呼ぶ声がする。
知人「ナイスランですよー!」
「もうこうなったら時間外でもゴールテープ切るで~」
そう、諦めずに「時間外ゴール」を目指す。
練習では何回も走っているこのコース。
真っ暗で一体どの辺りなのか分かりづらい・・。
周りにランナーが居なくなった。
「頑張ってー!」
暗くて人の顔も分からないがボランティアスタッフに元気をもらう。
民家が目に入った。
着いた。
この民家は街に入る目印。
帰ってこれた。
明るい車道に出る。
最後の住宅街の急坂を登る。
もう歩かない・・。
急坂の途中で花火が上がった。
花火はゴール関門の閉鎖を知らせる。
住宅街の夜空に美しい花火が上がる。
制限時間は過ぎているが街は応援が多い。
「お~、帰ってきてか~!」
早朝に見送られたタイマツボランティアの友人に声を掛けられる。
坂を下り、ゴール会場の学校裏へ向かう。
「頑張って!もうすぐそこがゴールです!」
早々と会場を後にするランナー達に声援をもらう。
胸にはキラキラと光る完走メダルが掛けられている。
自分はもうメダルは貰えない・・。
だんだんと沿道の声援が大きくなり胸が熱くなる。
母校の正門をくぐり、ゴールのグラウンドに向かう。
グラウンドは今までの疲れを癒すように照明の光が輝く。
マイクアナウンスで名前を呼ばれる。
「お帰りなさ~い!!」
ハイタッチに知り合いが並ぶ。
ついにゴールテープを切る。
結果12分オーバーだった。
突然、予想外の涙がこぼれ落ちる。
ダメだ・・、やっぱり悔しい・・、隠してきた気持ちが涙となり、両手で顔を覆う。
正面で迎え入れてくれたのは黄色いスタッフジャンバーを着た中学生の次男。
ゴール会場でアイシングなどのボランティア参加している。
「ごめん、お父さんダメやった・・」
「大丈夫、大丈夫、お疲れさん!アイシングいる?」
地元中学で生徒会長をしている次男。
手際よく動き回る姿が頼もしい。
パイプ椅子に座って空を見上げる。
「お母さん帰ってきたか?」
次男「とっくにゴールしたで」
「ハハハ、さすが・・」
「お父さん、来年ちゃんと完走してメダルもらうワ」
家族で記念撮影。
チームで記念撮影。
女宴会部長「さあ~祝勝会いくでー!!」
ウルトラ家族の挑戦は来年もつづく・・・かな?
■最終話■
~あとがき~
長い長い敢闘記にお付き合いありがとうございます。
やはり四万十ウルトラは「旅ラン」です。
完走ランナー、リタイアランナー、
抽選で漏れたランナーの皆さん、これから挑戦してみようと思っている皆さん、
走らないけどこの敢闘記を読んでくれた皆さん、
この敢闘記が少しでも何かの役に立てたのなら幸いに思います。
「奮闘記」「敢闘記」、ついに来年は「完走記」書く予定です(笑)。
最後に、ゴール地点の「母校の校歌」の歌詞です。
【雲うつす四万十の青 古城山緑ぞせまる 美しき天の下なる 学び舎に光輝く・・】
偶然にも四万十ウルトラの情景によく似ています。
ありがとうございました。(完)
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ゴールで待ちながら見上げた花火、ついに帰ってきた姿、いろいろ思い出した。まだ1ヶ月もたってないのに遠い青春の思い出みたいに感じる。最後に校歌まで出してくるとは、やられた。
来年、またみんなで走ろう!
参加しているうちに知り合いも多くなり、100㎞の道程も随分楽しめるようになってきました。
来年もワイワイと楽しくやりましょう~。
宴会部長ヨロシクです!
コメントありがとうございます。