フリーターが語る渡り奉公人事情

ターミネイターにならないために--フリーターの本当の姿を知ってください!

紫の人

2005-10-08 20:55:35 | 日常生活
 交通調査では、2人一組で仕事に入ることがある。バスの調査なら、バスが時間通りにバス亭を通過しているかどうかをチェックする。あるいは、乗客の乗り降り地点を記録する。バスの社内の掃除を担当することもある。

 あるバスの調査のさい、いっしょになった人が印象的だったのでぜひ記しておきたい。
 彼女は、ポッチャリした人だった。平安時代なら美人で通ったような人だった。
 ポッカリとあいた時間が一時間とか90分くらいできることが、交通調査ではときどきある。朝5時や6時から夜は23時24時にわたることもある仕事だから、そのくらい空く時間がないと、仮眠がとれずに倒れる人が続出するという事情もあり、よくできている。

 ご飯を食べ、眠気ざましにバスの営業所でコーヒーを飲み、酔い止め薬も飲む。
仮眠をとって眠気を払う。それが終わったころ、少し時間が空いていると、雑談うする。いい連携をするためにコミュニケーションをとれと会社もすすめている。
 まわりとの関係がよくなければならない、というのは日本の世間の圧力だ。ただし、なんでもいいからおしゃべりをしていればとがめたてされない。
 彼女とわたしとはいっしょに話した。何から話せばいいだろう。早朝に自己紹介したときに名前は知っている。年齢、住所、職業・趣味……。
 彼女は、ただし、子どもができるまでは何もなかった、だけど子どもができてからは子どもがすべてだと言った。
 察するに、この人はおそらくそれまで不遇の人生を生きてきたのだろう。子どもを産むことが、この世に地位を得、生きている証となる生まれてはじめての出来事だったにちがいない。
 まだ時間がある。今度はこんな質問をしてみた。
「ねぇ、好きな色は何? わたしはエメラルドグリーンとかペパーミントグリーンが好きなの。」
少し間をおいて、彼女は答えた。
「紫。紫が好き。」
 そういえば、彼女のはいているズボンと口紅は紫系だ。ズボンは濃紫(こきむらさき)。口紅は薄紫。藤の花みたいで、肌の色ともよくあっている。夕日に照らされて、色合いが変わってみえるところも美しい。
 そういえば、紫は高貴な色だ。ある民族では未亡人だけが紫の衣をまとうという。日本でも「源氏物語」に出てくる主人公・源氏の君の正妻は紫の上という名前だ。
 彼女は子どもを産むことで高貴になったのだとわたしは思った。
 
 中世・ルネッサンス期の音楽のなかに、誰が作ったのかわからない曲がある。
 そのなかに、次のような一節がある。

Gaudete gaudete christus est natus
ex maria virgine gaudete

(喜ばしい 喜ばしい キリストが生まれた
処女マリアから なんと喜ばしい)

 彼女の場合は、christ(キリスト)ではなくhommo(人間)のanfan(子ども)を産んだ。
それはそれでめでたいことなのだと思う。階層が低かろうが高かろうが、子どもができるのはすばらしいことだ。

 人々から再生産の自由を奪うものがある。細切れ雇用、低賃金、長時間労働、やがて信じられないほどになるかもしれない格差……。
 子どもを産むことで偉大になる人々、それしかこの世に認められるすべのない人々のためにも、階層が下であっても偉大さを発揮できるチャンスのためにも、子どもを産み・育てやすい環境の整備は必要だ。








 

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