新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

通し狂言雷神不動北山櫻

2008-01-24 00:29:42 | 歌舞伎鑑賞雑記
新橋演舞場1月20日昼の部(3階B席)

・・・市川海老蔵空中浮遊奉ります・・・
って本当に「空中浮遊」だったのね。道理で一生懸命目をこらしても「宙乗り」用のワイヤーがどこにも見あたらないわけですよ。

珍しい「鳴神」の通し狂言ということで、鳴神上人,悪の王子こと早雲王子,粂寺弾正,麿こと阿部清行。主要な全役を海老蔵が務めていました。
共通項は「色好み」。
早雲王子には色事のシーンはなかったものの、同行の青吉衛門さまが「あの人は自分が大好きなのよ」という非常に鋭い指摘をして下さいました。
少し気になったのが躍動感あふれる役柄の際、滑舌に曇りが見えたように感じたことです。腹筋で支えて響かせてほしい台詞を頬のなかで留めてしまっているような、物足りない声色。麿の時には肩の力を抜いて立っているので、かえって小さな声でも心地よく響く不思議。
(麿の白塗りはメイクを一切していない状態なのに、どの役柄よりも素材の美しさが際だっている原理と少し似ています)
現在、人気の演目である「毛抜き」と「鳴神上人」を通し狂言の一部として俯瞰できることはたいへんな楽しさでありました。
もちろん、一部分が人気の演目であるということは逆もまたしかり。
冗長な場もありましたが、幕切れには海老蔵が不動明王と化して空中浮遊まで披露してくれるという初春気分を盛り上げてくれる活気のある芝居でした。 


小菅 優 ピアノ・リサイタル 於:2007年12月9日彩の国さいたま芸術劇場

2008-01-06 23:08:56 | ききもの

曲目はバッハのインベンションとシンフォニア、リストピアノソナタロ短調。
インベンションはピアノを習った人なら殆ど誰でも弾いている曲なだけにわずかなミスタッチでも見過ごされない厳しさがあります。きっと原典版だからだわ、と思っていると明らかに間違った展開部になってしまいこちらが焦ってしまうことも。3声のインベンションで一番好きな曲が両手の平行移動の際に2音ずれてしまい、残念でもう。
しかし、生演奏でインベンションを聴いていると、自分が熱心に弾いていたまさにその頃の空気をありありと思い出し、上っていく左のフレーズを弾くと上ずった管楽器のような音を奏でていた自宅のピアノを思い出し、切なくなりました。
代わってリストでは正に水を得た魚で、たぐいまれに強い左手でぐいぐいと曲想を展開させて危なげのない演奏。夕日の残照を思わせる音色でまとめあげてそのまま間髪を入れずにノクターン「夢の中に」へ。いつもは平面で親しんでいる音楽が、生演奏で音の生き死にまで捉えることのできる贅沢さを満喫しました。まさに王侯貴族のような贅沢さです。
ちなみに、リストさんは女性に大変おモテになられていたそうです。こんな超絶技巧のソナタをサロンで聴かされた日には、失神者が続出したという伝説もあながち間違いではないだろうな・・・などと思いました。