へそ曲がりなので、歌舞伎座立て替えが決まったとたん観劇をぴたりと止めておりました。どこの国が、たとえばパリ・オペラ座を高層ビルに建て替えます?マリインスキー劇場をオフィスビル複合に建て替えます???というやり場のない憤りを腹に抱えておりました。
4月の演目は吉右衛門福助の彦山権現誓助剱、仁玉の吉田屋、藤十郎翫雀の曽根崎心中。さよなら公演の何が寂しいかと言うとこのような力業のラインナップが続くことです。
彦山権現のポイントは男勝りの押しかけ女房が許嫁を認めた瞬間に、力持ちそのままで恋する乙女に変身するところです。のの字を書く様子を臼を転がすことで表現するおかしみ。吉右衛門の毛谷村六助は序盤の気のいい田舎者が徐々に色気を纏う不思議な芝居。床で腹這いになってキセルをふかす様子はけだるい壮年の色香が漂い、どきりとしました。
仁玉の吉田屋:今が盛りの松嶋屋三兄弟による大晦日の吉田屋。何千回と繰り返す伊左衛門さんの夢世界、まさしく夢の化身として夕霧が現れ千両箱が積み上がる。あまりの幸福感にこれは紙屑問屋の片隅で紙子を着て寒さに震えている伊左衛門さんの夢に違いない、と思いを新たに。我當が時に台詞に詰まることがあり少し心配。女房役の秀太郎がうまく立ち回って呼吸をあわせていました。
曽根崎心中は文楽狂言でも大好きな演目。吉田屋が上臈の居る御店だとしたら、ここは新地の下級花街。演出・芝居・拵えすべてが濃い藤十郎風味。18歳、押せ押せの天満屋お初の情念に押し切られた徳兵衛が無理心中という形は文楽と共通ながら印象がまるで違う。生身の演じるお初の抱く虚無はあまりにリアルで恐ろしく、そこに溺れ飲み込まれていく哀れな徳兵衛。大迫力の舞台でした。
チケットをWebで購入したのはいいのですが、チケット発行に必要な歌舞伎会カードを持参し忘れました。絶体絶命!と思いきや、お名前ちょうだいいたします・・・で切符窓口にて発行してくれるんですね。歌舞伎座と歌舞伎会ならではのサービスに感謝です。