新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

アップルパイ神話の時代―アメリカ モダンな主婦の誕生 原 克著 2009年2月刊

2009-04-26 23:10:59 | よみもの
キッチンエンジニアから出来る可愛い女、ねつ造された「古き良き南部の思い出」と「懐かしい少年時代」。
ほぼ全てが日本版(ex:栗原はるみと三丁目の夕日)に置き換えられそうな研究体系。
選び抜かれた図版は見るに楽しく、添えられた絵解きも堅すぎず柔らかすぎず。
アップルパイ伝説とアメリカのナショナリズムを結びつける筆致は冴えわたっていました。

歌舞伎座さよなら公演・4月

2009-04-18 00:34:29 | 歌舞伎鑑賞雑記
へそ曲がりなので、歌舞伎座立て替えが決まったとたん観劇をぴたりと止めておりました。どこの国が、たとえばパリ・オペラ座を高層ビルに建て替えます?マリインスキー劇場をオフィスビル複合に建て替えます???というやり場のない憤りを腹に抱えておりました。
4月の演目は吉右衛門福助の彦山権現誓助剱、仁玉の吉田屋、藤十郎翫雀の曽根崎心中。さよなら公演の何が寂しいかと言うとこのような力業のラインナップが続くことです。
彦山権現のポイントは男勝りの押しかけ女房が許嫁を認めた瞬間に、力持ちそのままで恋する乙女に変身するところです。のの字を書く様子を臼を転がすことで表現するおかしみ。吉右衛門の毛谷村六助は序盤の気のいい田舎者が徐々に色気を纏う不思議な芝居。床で腹這いになってキセルをふかす様子はけだるい壮年の色香が漂い、どきりとしました。
仁玉の吉田屋:今が盛りの松嶋屋三兄弟による大晦日の吉田屋。何千回と繰り返す伊左衛門さんの夢世界、まさしく夢の化身として夕霧が現れ千両箱が積み上がる。あまりの幸福感にこれは紙屑問屋の片隅で紙子を着て寒さに震えている伊左衛門さんの夢に違いない、と思いを新たに。我當が時に台詞に詰まることがあり少し心配。女房役の秀太郎がうまく立ち回って呼吸をあわせていました。
曽根崎心中は文楽狂言でも大好きな演目。吉田屋が上臈の居る御店だとしたら、ここは新地の下級花街。演出・芝居・拵えすべてが濃い藤十郎風味。18歳、押せ押せの天満屋お初の情念に押し切られた徳兵衛が無理心中という形は文楽と共通ながら印象がまるで違う。生身の演じるお初の抱く虚無はあまりにリアルで恐ろしく、そこに溺れ飲み込まれていく哀れな徳兵衛。大迫力の舞台でした。

チケットをWebで購入したのはいいのですが、チケット発行に必要な歌舞伎会カードを持参し忘れました。絶体絶命!と思いきや、お名前ちょうだいいたします・・・で切符窓口にて発行してくれるんですね。歌舞伎座と歌舞伎会ならではのサービスに感謝です。 

馬酔木(あせび;Pieris japonica subsp. japonica

2009-04-18 00:02:52 | 今様草木名彙
馬が食べて酔ったようになることから、そのままの文字。麦飯花、米米、毒芝、馬不食。葉と枝に含まれるアルカロイド成分。
春の六甲山の山肌でたわわに咲いていた馬酔木。ミツバチの低い羽音と白い日差し。
この花と香りは昔好きだった子を思い出させます。アルカロイド系の痺れと似ているからかしら、と奇妙な事を思ったものです。

「皇軍兵士の日常生活」 一ノ瀬 俊也著  講談社現代新書2009年2月刊

2009-04-10 21:17:47 | よみもの
東南アジアへ旅をすることが多く、物見遊山へ出かけるかなり快適な空の旅でも早く目的地へ着かないものかと思うものです。
不謹慎なことですが、2次大戦中に目的地も知らされずに劣悪な環境の輸送船で南方へ送られた兵隊さんについて考えたりしておりました。
この本もまた、若い研究者による変わった方向からの戦史へのアプローチでした。
「もし明日徴兵検査を受けることになったら」という悪夢のような問いに答えてくれる本でもあります。
市井に残された細かい記録を先入観を抜きにして積み上げることで、当時の状況が臨場感をもって浮かび上がってきていました。
平等であるはずだった軍内部に存在していた格差社会。大企業のサラリーマンと学歴のある者が厚遇されるに至る経緯。
その理不尽さは今現在と地続きであるのだろうと思われます。

「植民地朝鮮と児童文化」大竹 聖美著 2009年1月刊

2009-04-10 21:15:17 | よみもの
若い研究者による植民地文化の研究書。善意の児童文学者の思いと政府の思惑が絡み合った時に生まれた植民地児童文学。
甘い砂糖衣の下に見える文化的侵略の意図は苦く、植民地朝鮮だけではなく日本の子供にも同じように植民地支配という思考の刷り込みがおこなわれていたという事実が丁寧に解きほぐされていました。 明治から大正昭和期にかけての朝鮮文化のとらえ方・教え方の変遷を時系列で解説してあるのもたいへんに興味深いものでした。今なお解決していない朝鮮人徴用兵の悲劇の始まりはこんなところにもあったのかもしれません。(2009年3月読了)