新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

2008-04-16 23:57:18 | 今様草木名彙
Prunus spp.(サクラ類),佐久良,垂枝海棠,咲麗か。

何年ぶりか分からないくらい久しぶりに、懐かしい場所で満開の桜を見ました。
黒松に桜花、何より驚いたのは足もとが白い砂だったこと。
刷り込みというのは恐ろしいもので、確かに天下一の弘前城の桜は傲然と美しいものでしたが、古稀を越えて傷んだ桜を見ていると自分の中にある桜はこれだったのだと気づかされてしまいました。
結果として、しっかり蓋を閉めて厳重に保管していたトラウマが轟々と音をたてて湧き上がってきたのには困った困った。

平成20年度四国こんぴら歌舞伎・初日(4月5日)午前の部

2008-04-16 23:45:15 | 歌舞伎鑑賞雑記
母上の「メイドの土産に海老ちゃんが見たいわぁ」というお言葉で、未だ未体験のプラチナチケット奪取に乗り出しました。が、往復はがきにての先行予約は締め切り日を失念して、レースに出走不可の状態。ならば、と松竹チケットでの一般発売に賭けたところ奇跡の発売開始4分での回線確保。しかし初日の午前の部を一枚買えたきりで、続くJTB・JR四国分・こんぴら歌舞伎事務局キャンセル分では完売御礼にて完敗でした。
当日立ち見券が出ないものかしらと事務局に問い合わせたところ、JTBの大口ならば当日になってのキャンセルが出るらしい:との情報をいただいて当日のチケット争奪に参加することに決めました。~無理なら1枚のチケットで母と二人して交代で見れば良いわと開き直っての岡山前泊です。

して、観劇当日の朝に首尾良く当日キャンセル券を手にすることができたので午前・午後と分かれて、待っている方がこんぴらさんに詣でるというなんとも贅沢な一日となりました。

濡髪長五郎:といえば引き窓の段、華やかなこんぴらかぶきになんと地味な人情物を持ってくるもんだと思いましたら、事の濫觴の段「角力場」のみ。え、そこだけ見せて終わりですか?という唐突な印象でしたが、さすがに300年の芝居小屋。下座囃子も三味線も謡も体を包み込むような柔らかな響き。役者が動くたびに周りの空気が揺れるのを感じるほどの臨場感。特に、出の部分で筵掛けの相撲小屋から人が飛び出してきたときには江戸の空気に体ごと飲み込まれてしまうような感覚を覚えました。

太刀盗人
ここから男女蔵が出ずっぱりの活躍。
盗人に男女蔵、田舎者に亀寿。繰り返しの多い笑劇ながら、狭い劇場空間では役者が間を読む息づかいまで感じられて素直に笑わせていただきました。


舞台に並びきらないほど大ぜいに見える鶴岡八幡宮の境内、
首を刎ねる刎ねないの物騒な詮議のさなか、「まてまてまて~いい」と巨大な座布団の固まりが花道を驀進してきます。この大きさ、派手さ、華やかさ。小学校の講堂ほどの大きさに満々との小屋に溢れるエネルギー。
これでもか、と後見が一杯に広げる素襖と遠近をつけて大仰に曲がった太刀。異形の勇者が琴平座に登場です。ただもうスケールに圧倒されるしかなく、江戸の人々が愛してやまなかったヒーローに会えた喜びが心に染みました。
海老蔵、初日の張り切った気合いが満ちていてよい動き。
ただ、台詞の継ぎ目に息を吐いて痰キリのような音をたてるところで客席に笑いが起こったこと。これが唯一無二に得心がいきませんでした。海老蔵の滑舌が悪かったのか、痰キリ音が素直におかしかったのか。~ヒーローなんだもの、ここは格好良く決めているところの筈なのに。
ともあれ、枡席は定員5人とゆったりしており微妙な傾斜がついているので座高人間(座高が高い人)が居ても、正座をされても舞台の眺めを妨げられることはありませんでした。
母が見た午後の当日キャンセル券は花道すぐわきで、海老蔵の赤ふんどしを見上げるポジションだったそうです。なんと!
桜も満開、芝居小屋は賑々しく。こんな体験は一生にそう何度もないことだと金比羅さんの御利益に感謝いたしました。