新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

歌舞伎座(団菊祭 第2部) 平成26年5月20日観劇

2014-05-31 23:40:06 | 歌舞伎鑑賞雑記
矢の根:松緑の明るい曽我五郎,口舌が團十郎を彷彿とさせる。
幡随長兵衛:劇中劇とは知らずの出だし,(現在の私が)本気で芝居を観ていると(劇中の)水野の下っ端に観劇の邪魔をされるくだり。
観劇の邪魔をされるイライラ感と先ほどまで芝居をしていた(劇中の)俳優が素に戻るようすが二重の虚構でめまいを起こす。
海老蔵の長兵衛は少し線の細い男前,若いが男衆に慕われる兄貴分らしさが出ている。
水野の下足番に絡もうとする若い衆を抱き留める長兵衛,若い衆が嬉しそうでありました。
女房に時蔵,昼間の魚屋宗五郎の女房は老けたつくりでしたが,こちらは江戸前のぴりっとした色気がこぼれるいい女ぶり。
子役のお芥子坊主が非常にかわゆらしい。
悪役水野十郎左衛門に菊五郎。得体の知れない,粋(すい)も粋(いき)もないただの悪。
せっかくの紋付き袴の死に装束をわざわざ自家の紋付き浴衣に着替えさせてなぶり殺しにするあたり,とても倒錯した嫌みを感じるのは私だけでしょうか。
いつ見ても後味の悪い芝居です。

鏡獅子:菊之助の入魂。小姓弥生が殿さまの前で居住まいを正してお辞儀をする可憐さ。
手踊りの安定,袱紗をつかう手元口元の妖しさ。扇子遣いは鮮やかでキレがありました。
お囃子の鳴り物さんたちがずいぶん若返っていたように感じましたが,これがまたスバらしい。
獅子の出の,太鼓と鼓の掛け合いのひりひりする緊張感。
きりきりと引き絞る小鼓の糸の音が,新装歌舞伎座自慢の音響ではっきりと聞こえました。
まさにしじまを破る感がある太鼓の迫力。
龍笛のみずみずしさも加わって,過去に聴いたことのないほどの名演だったと思います。この演奏に菊之助の獅子の気品が似つかわしくありました。

八月納涼歌舞伎第3部:平成25年8月22日(木)

2013-09-01 23:04:00 | 歌舞伎鑑賞雑記
 狐狸狐狸ばなし(昭和36年初演)
新生歌舞伎座になって初の現代もの。
何も下調べもせず,筋書きさえ読まずに観劇。これが,もう,すばらしく楽しい芝居でした。
扇雀が上方の役者くずれのしっかい屋 伊之助(粘着質),面白くならない筈がない配役。ここ数年の翫雀・扇雀きょうだいの芝居は冴えていて,特に現代ものの芝居になったときは往年の(涙)勘三郎を凌ぐ勢いがあると思います。嫁 おきわに七之助,これがまた声も通って芝居の勘所もつかんだ名女優。さすが勘九郎の息子にして福助の甥!(どうしてこれが正当派のお姫様になるとつまらないのか・・・)なまぐさ坊主に橋之助,ワルい男のダメな魅力がよく出ていて,これも良い配役。勘九郎が少々足りない丁稚の役。シェイクスピアの愚者を彷彿とさせるような,人のうちにある純なる闇を見せてくれてすばらしい。脚本は全く古びず,スラップスティックな味わいが生きておりました。だましだまされ(狐狸狐狸)の内容は,途中でオチが読めてしまったことと,おさわの豹変で水を差されてしまい,客席が冷えたことが残念でしたが大団円の終劇には満場が充実感で満たされました。
劇中,気になる男前が舞台をちらりちらり,劇作家の役どころ。はてこんな役者さんが居たかしらん?と思ったら・・・巳之助でした。まあずいぶんと垢抜けて男前になっていましたよ。
大笑いして,ふと我に返ると。この狐狸狐狸夫婦(扇雀・七之助)は,野崎村のお染久松
じゃあありませんか。こちらの仕掛けにもうひと笑いさせていただきました。

 棒縛り
太郎冠者に三津五郎,次郎冠者に勘九郎,主人に弥十郎。
脳をまっさらに,ただひたすら三津五郎の動きだけをトレースするように観ていました。勘九郎との息のあった舞踊,絶妙なバランスで舞い,飛び,回転する身体。
三津五郎と勘九郎の連れ舞いを観ている時の幸福感はひさびさのものでした。
弥十郎は老け役では小さく見えるのが,この役ではずいぶん大きい。ということは,いつものあの体はどうやって縮めてたたんでいるのでしょうか?これが役者魂なのでしょうか。
ほんとうに8月の芝居は全てすばらしかったです。

まさか,前〃楽のこのスバらしい芝居から明けて月曜日。
三津五郎丞が膵臓癌のため休養に入られることになろうとは予想だにせず,思えば役者さんたちの魂のこもりようは三津五郎へのはなむけでしたか。三津五郎,一世一代になるかもしれない芝居と踊りだったのか・・・。
しばらく私の落ち込みは続きそうです。

八月納涼歌舞伎第2部:平成25年8月22日(木)

2013-09-01 23:02:38 | 歌舞伎鑑賞雑記
 梅雨小袖昔八丈~髪結い新三:三津五郎が新三,勘九郎が勝奴,お熊に児太郎,手代忠七に扇雀,弥太五郎源七に橋之助,大家に弥十郎,大家の嫁に亀十郎。
 三津五郎はこのところ,型の美しいさに磨きがかかって思い切りのいい芝居をしているように思います。どうしても勘三郎の面影を追いがちなこの芝居も,はっとするほど見得に力があり台詞も腹に落ちています。忠七の役は女形の役であるので,時に男になりきれていない優男の場合もあるのですが,扇雀の忠七は色気・弱気・美貌すべて揃った完璧なもの。そして新三に踏まれる形もよい。勘九郎の勝奴は存在感が自由自在に増減できるようでありました。素直に新三を慕うさまは,そのまま三津五郎を慕う姿でもあるのでしょう。お調子者で憎めない若い衆に勘九郎がぴたりとはまっています。一部に続き,弥十郎が渾身の芝居。緩急使い分ける老け役,滑舌もよくて大家の胴欲さが分かりやすい。橋之助の弥太五郎源七はまず型どおりの大親分。
若い役者の精一杯の演技と三津五郎・弥十郎の安定感がぴりっと締まったよい芝居になっていました。

 かさね:福助・橋之助兄弟による舞踊。
特殊効果も特殊な照明もなく,異界の魔となる福助。色男が一転して悪人となる橋之助。きょうだいならではの舞踊。

平成25年8月17日(土) 八月納涼歌舞伎第一部

2013-08-29 00:58:21 | 歌舞伎鑑賞雑記

野崎村:福助のお光は手慣れた役。出から婚礼の支度のときめきや恥じらいで客席をわかせていました。
大根を千六に切るところは,先に観たときよりも超高速の包丁捌きをみせてくれます。
久作に弥十郎,久松に扇雀,七之助が先輩がたの胸を借りてのお染。土台がしっかりしてこその,生きる死ぬの物語。
弥十郎がさすがの父親役で,つぼみの花を散らすとは~からの愁嘆場で泣かせます。
舟と駕籠で去っていく恋人達を見送ったお光が,父に取りすがって泣き崩れるところで,女の意地とプライドが実になまなましくあらわれてくるのが福助らしいと思いました。

鏡獅子:七之助Ver.
こけら落とし興行は小山三の出番が多く,もはや現役最長老,歌舞伎座の怪人の風体です。奧女中の年かさの役,出では重い打ち掛け,次ぎに弥生の手をひいてでてくるところは打ち掛けなしの赤い袷が軽やか。観ていてほっとします。
七之助が1人で踊る舞踊をちゃんと観るのは初めてでした。さすがに型がしっかりしており,その中からはみ出さない頃合いで派手に見せる。若く,手足が伸びやかで華がある踊り。父勘九郎と祖父芝翫のどちらに似た舞い手になるのか楽しみ。
手踊りは,こんなに踊れるのか!という驚きがありましたが,道具を使っての踊りにはまだ少々難あり。特に二枚扇では久々に手に汗を握りました。
大きめの胡蝶には虎之助と鶴松。獅子とあまり大きさが変わらないので,いつもの鏡獅子の偶像めいた雰囲気とだいぶ違うものになっていました。
獅子になってからの七之助は,跳躍の高さがすばらしい。頂点で完全に動きが停まるよう。毛振りは,首が長くて細い七之助にとってはバランスがよろしくないようで,苦戦しているように見えました。しかし,ぜんたいに魂の入ったいい踊りでありました。

歌舞伎座新開場 杮葺落六月大歌舞伎 (2013/06/25)

2013-08-01 23:09:12 | 歌舞伎鑑賞雑記
第3部

>御存知鈴ヶ森
ありとあらゆる殺陣の工夫を見せてくれる段。つい最近新橋でこの段を観て,通し狂言でも幡随院長兵衛をみたところなので残念ながら新しい発見はなし。
白子()の梅枝は演じ慣れていて一歩あゆむと17,8の美少年の風情がこぼれます。吉右衛門の長兵衛は親分肌らしく,相変わらずの色気。江戸前の親分を演じるには現在この方が最高峰かと。暗い鈴ヶ森から,幕が落ちて淡い色彩の明るい武蔵野の風景に変わって幕。分かっていても,いつもこの視覚効果に驚かされます。

>助六縁の江戸桜

口上にはえび茶に三升の裃を着た幸四郎が登場。これだけでもう涙腺が緩みます。

出の若手の俳優さんできれいどころがならび,やはり米吉の古風な丸い顔が好ましくてすぐに目につきました。下手のお花畑は百鬼夜行の地区もあり。
揚巻は福助。一種壮絶な美貌。甲斐庄楠音の描く花魁のように毒があり,華がある。
海老蔵襲名の揚巻は玉三郎でひたむきに助六を恋い慕うようでしたが,この福助揚巻の色気は助六と並ぶと恋心とは違うものに変化してしまいます。しかし意休相手につく悪態の,滑舌のスバラシさは福助の真骨頂。福助の目指した女形の美とイキとの完成形を観た気がします。言うまでもなく助六に海老蔵。精悍な面差しと何か憑きものがおちたようにスッキリとした印象の美貌。地のやんちゃさが消え,自惚れも自己陶酔も消え,ひたむきに「芝居として暴れん坊な助六」。團十郎がこれを観ていたら・・・(以下略)。助六兄白玉売りに菊五郎,余裕の演者。母が東蔵,武家の寡婦らしい風格がたまらない。
こけらおとしのご馳走は,おかもちに菊之助,藍染め半纏に緋縮緬の下帯という,なんともはや色白の肌に映えて目の毒。くわんぺら門兵衛に吉右衛門,立派な俳優が演じてこその門兵衛。歌舞伎座さよなら興行では仁左衛門さんでしたっけ。
粋人に三津五郎,こちらは前回勘三郎。奇しくも鬼籍に入られた助六と粋人の股くぐり。
時事ネタとおめでたい話題(白玉さんのところに門兵衛さんとこからお嫁が来たってねえ),そして海老蔵の長男が初舞台を迎え,助六を演じるその日までそのまた先の日まで歌舞伎座をご愛顧下さいと語っての締め。
華やかで切ない,自分の生きている時代に観ることが出来た史上最高の助六のひとつになりました。