新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

2014年5月 18日国立劇場(小) 竹本住太夫引退狂言

2014-05-31 23:43:42 | みもの
思えば,一番よく文楽を観に行っていた20年ほど前,文楽劇場は「日本一人間国宝密度の高い場所」でした。
竹本住太夫の引退狂言は「恋女房染分手綱より 沓掛村」の段の切,引退狂言だからといって大泣きに泣かせるではなく,大仰なこともなく,ただひたすらに聞いていて心地よく楽しい義太夫でした。声の張りはさすがに89歳なりの枯れたものではありましたが,最初から最後までの安定感と深さがすばらしい。連れ添う錦糸の太棹も冴えわたります。
そして,板の上は勘十郎の遣う大きな人形(馬方八蔵),小さな母を遣う文雀さん(を,遣う黒子さん),座頭を和生,童子に蓑助,悪党八平次に玉志,やられるだけの悪者に紋寿と玉女。当代の人形遣いが舞台上にぎっしり。どたばたと大騒ぎの殺陣で思わず笑声があがり,これぞ文楽だというなんという楽しさ。引退狂言だということを忘れてしまうほどでした。
湿っぽさのかけらもなく,名残惜しくもからりと晴れた,よい狂言でした。

めも:
恋女房・勘十郎が大きな人形を細やかに遣うさまがすばらしく良かった。体力と技術の均衡。
増補忠臣蔵・紋寿の遣う,若狭之助。男前で神経質,眉をひそめる所作は先だって観た染五郎のよう。
座布団に正座をしつつ,扇子で足の位置を直させていたのが現場教育でした。
・津駒太夫の加古川本蔵,声が悪人すぎだったかしら。

歌舞伎座(団菊祭 第2部) 平成26年5月20日観劇

2014-05-31 23:40:06 | 歌舞伎鑑賞雑記
矢の根:松緑の明るい曽我五郎,口舌が團十郎を彷彿とさせる。
幡随長兵衛:劇中劇とは知らずの出だし,(現在の私が)本気で芝居を観ていると(劇中の)水野の下っ端に観劇の邪魔をされるくだり。
観劇の邪魔をされるイライラ感と先ほどまで芝居をしていた(劇中の)俳優が素に戻るようすが二重の虚構でめまいを起こす。
海老蔵の長兵衛は少し線の細い男前,若いが男衆に慕われる兄貴分らしさが出ている。
水野の下足番に絡もうとする若い衆を抱き留める長兵衛,若い衆が嬉しそうでありました。
女房に時蔵,昼間の魚屋宗五郎の女房は老けたつくりでしたが,こちらは江戸前のぴりっとした色気がこぼれるいい女ぶり。
子役のお芥子坊主が非常にかわゆらしい。
悪役水野十郎左衛門に菊五郎。得体の知れない,粋(すい)も粋(いき)もないただの悪。
せっかくの紋付き袴の死に装束をわざわざ自家の紋付き浴衣に着替えさせてなぶり殺しにするあたり,とても倒錯した嫌みを感じるのは私だけでしょうか。
いつ見ても後味の悪い芝居です。

鏡獅子:菊之助の入魂。小姓弥生が殿さまの前で居住まいを正してお辞儀をする可憐さ。
手踊りの安定,袱紗をつかう手元口元の妖しさ。扇子遣いは鮮やかでキレがありました。
お囃子の鳴り物さんたちがずいぶん若返っていたように感じましたが,これがまたスバらしい。
獅子の出の,太鼓と鼓の掛け合いのひりひりする緊張感。
きりきりと引き絞る小鼓の糸の音が,新装歌舞伎座自慢の音響ではっきりと聞こえました。
まさにしじまを破る感がある太鼓の迫力。
龍笛のみずみずしさも加わって,過去に聴いたことのないほどの名演だったと思います。この演奏に菊之助の獅子の気品が似つかわしくありました。