新・桜部屋

主に伝統芸能観劇記。
その他鑑賞日記

大気を変える錬金術~ハーバー、ボッシュと化学の世紀

2010-09-05 22:56:37 | よみもの
トーマス・ヘイガー著 みすず書房 2010年5月刊
家で新聞を取っていないので,たまに実家で新聞の書評などを読むと世の中にこんな本が出回っているのかと興味津々です。
7月の新聞書評で見つけたあと地元の市立図書館を調べてみると予約がびっちり。県立図書館では在庫有りでしたので,ただちに借り出しました。
この本は化学のチカラで大気から窒素を取り出すことに成功したドイツの学者たちの物語であり,肥料(窒素)をめぐる大航海時代から2次大戦までの物語でもあります。グアノ(海鳥の糞)が最高の肥料になるという話は知っておりましたが,グアノを巡っての南米諸国の争いは初見。チリ硝石のブームについても同様。
まだまだ知らないことがあるものです。1次大戦によってまさに身ぐるみはがされたドイツがどのように賠償させられたかという点も化学工業の立場から語ってあるのが新しかった。民族を越え、すべからくドイツ的であった、あろうとした科学者の絶望と末期が哀しい。

和泉の国の青春 宮本常一 2010年5月刊 八坂書房

2010-09-04 22:39:59 | よみもの
民俗学者,宮本常一の若き日の文章。貧しさのなかで押しつぶされていく幼ない魂を記録するという行為がすでに民俗学の萌芽であり,
宮本が記録することで学問としてひとつのジャンルを形成しているようです。おちついた藤色の表紙に宮本がこちらを向いた写真の装丁。
手にとって読んで知った存在は,私の中にも生きていくのではないかと思われます。

「土の文明史」D.モンゴメリー著,築地書館

2010-05-15 17:39:02 | よみもの
 原題は「Dirt:The Erosion of Civillization」土というよりも泥。いつも疑問に思っていた「4大文明の発祥地が本当に緑に覆われていたのか?」について,「古代文明がいかにして滅んでいったのか」という形で回答してくれています。豊かに見える熱帯の土壌は実に薄く脆弱であり,表土は僅か数年で流れさってしまうために恐ろしい早さで荒廃していくそうです。金肥の伝統がある日本に育ったので,著者が熱く語る畜肥の効用の素晴らしさについては「それって世界の常識ではなかったんだ」と驚きました。何年か前に雨期のミャンマーを訪れたとき,国内線の飛行機から見たミャンマーの国土はまさに水浸しでした。これこそがメコンデルタ有数の米処,ミャンマーの豊饒の大地の秘密だったのですね。有名なナイルの氾濫はああいうものだったのかと認識を新たにしました。

満洲鉄道まぼろし旅行  川村 湊 (著)

2009-05-13 21:56:12 | よみもの
 神戸から船で大連へ渡り、満鉄を利用しての移動。各地のヤマトホテルを泊まり歩いて満州観光を楽しむ。
まぼろし旅行ですが、ベースになっている旅行者の記録や写真は実際のものであるので虚と実が入り交じる不思議な感覚を味わうことのできる1冊でした。
満州という国民無き国家を創りあげた暗い情熱とのちに起こる悲劇。
 ふと、先日の北海道旅行の際に出会った女性の事など思い出しました。
「私は好き放題に生きてきたのよ。若い頃には満州にも行ったわ、夫とは大恋愛の末一緒になったの。我が人生に一点の悔い無し!なのよ」
・・・あなたは覇王ラオウ様ですか?という突っ込みは置いておいて、人生終盤に於いてのあの瞳の輝き。
満州という言葉の歪な魅力は今なお生きているようでした。

大暴落1929 ジョン・K・ガルブレイス著 (日経BPクラシックス)

2009-05-10 21:57:27 | よみもの
サブプライムローン問題から話題に上ることの多くなった金融工学とかローンの証券化とか、最近の金融は複雑すぎると思いましたが、
90年前に編み出されたテクニックでも私には理解不能でした。私が理解できる限界が空売りです。
作者は1950年代にこの本を書き上げ、上梓。そしてまた日本での再発行が2009年。
作者は2006年に亡くなっておられますが、やっぱりね:という後書きが読めるような気がしました。