旅のウンチク

旅行会社の人間が描く、旅するうえでの役に立つ知識や役に立たない知識など。

干し柿

2019年02月13日 | ライフスタイル
 私がまだ小学生にすらなっていない頃の話なのでここを読んでいる人の多くがまだ生まれていない位遠い昔の出来事。

 その頃、両親が共働きだった私の家では幼稚園から帰って来る私の面倒を見てくれる人は専ら母方の祖母でした。

 当然ですが、インターネットもテレビゲームも携帯電話もこの世の中にまだ存在しない時代の事ですから母親が仕事から帰ってくるまで祖母と時間をつぶすのはたいていは家のちょっとした掃除をする祖母を手伝ったり、折り紙の本を見ながら載っている折り紙を片っ端から折っていくとか、とにかくそんな事しかありません。近所の子供たちより少し年齢が低かった私は近所のお兄さんお姉さんが小学校から帰ってくるまでは外で一緒に遊ぶ仲間もいない訳です。

 そんなある日の事。電車通園だった私はいつも駅まで祖母が迎えに来てくれていたわけなのですが、駅から家へ帰る道中でリヤカーに渋柿を積んだ行商のお婆さんに出会ったのでした。祖母はしばらくその人と話していたのですが帰りにはどっさり渋柿を手に提げていたのでした。

 家に帰り着いた私たち。祖母は早速今買ってきた渋柿の皮をむき始めます。渋柿には一束の藁がおまけでついていました。私は祖母に渋柿のT字型に残された枝を使ってどうやって藁を結びつけるかを教えてもらったのです。祖母が皮をむいた渋柿に私が藁を結び付けていくという分業体制で大量の渋柿を処理していきます。もちろん、幼稚園児の私の作業が不十分な部分は祖母が直してくれたのだと思います。

 夕方にはベランダの物干し竿の半分ほどをぎっしり柿が埋め尽くすまでになりました。そして祖の日祖母が行商の人から購入した渋柿は全て物干し竿からぶら下がっていたのでした。

 その干し柿が出来上がってどんな味だったのかはもう記憶にありません。祖母から教わった柿を藁でつるす方法も残念ながら全く覚えてはいません。一緒に干し柿を作ってくれた祖母はもうずいぶん前にこの世を去りました。

 それでも何かの拍子に記憶に蘇ってくるのは渋柿を前に祖母と過ごした時間そのもの。

 今のように豊かで便利な時代に生まれなかったことを少し幸せにも感じる遠い思い出。


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