ドバイ駐在員ノート

一人の中年会社員が、アラブ首長国連邦ドバイで駐在事務所を立ち上げて行く過程で体験し、考えたことの記録。(写真はイメージ)

アラブの大富豪

2008年08月14日 23時04分13秒 | 読む
読み終わったからと妻がくれた本。

タイトルから受ける印象で、金持ちのアラブ人の放蕩三昧の生活が面白おかしく描かれているのかと思うと、裏切られる。

本書は、サウジアラビア、UAE(アブダビ、ドバイ)、ヨルダンの王室を横糸に、原油高で生まれたオイル・マネーの流れを縦糸に、今日の世界経済に大きな影響を与えているオイル・マネーの実態を平易に解説しビジネス書だ。

主な登場人物は、サウジアラビアのアルワリード王子、ドバイのムハンマド首長、ヨルダンのアブドラ国王など、王室が中心だ。だが、武器商人として成功したアドナン・カショギや公共工事の受注で財を成したビン・ラディンなどいわゆる政商の生まれる背景についても光を当てている。

筆者は、79年から85年、サウジアラビアのカフジのアラビア石油に勤務後、96年から99年までジェトロ(日本貿易振興機構)のリヤド事務所長を務めた経歴を持つ。本書がサウジアラビアに最も多くの紙数を割いているのは、オイル・マネーの源流としてのサウジの重要性ももちろんあるが、現地の駐在員経験によるところが大きいと思われる。

サウジアラビアに対する英国からのトルネード戦闘機納入をめぐる裏金疑惑の捜査打切りと、英国の王室外交の関連についての指摘は、非常に説得力がある。筆者が述べているように、サウド家に限らず、湾岸諸国の王族は日本の皇室にも親近感を抱いているというのは、日系企業の中東駐在員の共通認識といってよいと思う。

ヨルダン・ハシミテ王家に関する一章も目から鱗の感がある。アンマン出張の際、街でよく見かけたアブドラ国王の写真がアラブ人らしくないと感じたものだ。本書を読んで国王が英国人とのハーフであることを初めて知った。ただ、本書によれば、ヨルダンにはサウジアラビアなどから大量のオイル・マネーが流れ込んで建設プロジェクトが目白押しということになっている。だが、ドバイ駐在員の目から見ると、ヨルダン国内の建設プロジェクトの数や規模はまだドバイやアブダビの比ではないように感じる。

なお、本書が書かれる経緯について、あとがきに、退職後に始めた個人のブログが経済雑誌にとりあげられ、その記事を読んだ出版社から出版の誘いを受けたとある。真似をしたくなるのが嫌なので、他人のブログはなるべく読まないことにしている。筆者のブログも読んだことはないが、本書の内容からして、相当レベルの高いブログに違いない。

中東に関わる全ての日本人ビジネスマンに勧めたい一冊。新潮新書。税別680円。

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