ドバイ駐在員ノート

一人の中年会社員が、アラブ首長国連邦ドバイで駐在事務所を立ち上げて行く過程で体験し、考えたことの記録。(写真はイメージ)

地獄のドバイ

2008年06月17日 23時46分31秒 | 読む
日本に里帰りしていた総務の女性社員に、頼んで買ってきてもらったのがこの本。会社の同期入社の友人が、面白い本が出たと紹介してくれた。読み始めると引き込まれ、3時間もかからずに一気に読み通してしまった。

本書は、寿司職人として一攫千金を夢見てドバイ国際空港に降り立った筆者が、無実の罪でアブダビ中央拘置所に拘留されるという日本人としては数奇な体験後、アブダビ国際空港から日本に強制送還されるまでの178日間の経験が綴られている。

筆者のドバイでの求職活動が頓挫しアル・アインにある肥料会社に就職することになるまでを描く前編と肥料会社が突然閉鎖され滞在法違反で拘置所に拘留されてからを描く後編に分かれる。拘置所の中の劣悪な環境と、それにもかかわらずたくまくしく生活しているアフリカ人達との交流を描いた後編がとりわけ出色だ。ビザのスポンサーである会社が閉鎖されるや、パスポートやビザを所持しているにも関わらず、不法滞在として扱われるという理不尽がまかりとおることは、この本を読んで初めて知った。

前編も、ドバイ駐在員の目から見ると、共感できる点も多いが、若干誇張されすぎているきらいはある。UAEローカルの女性がエレベーターに乗り込むや、男性全員が降りなければならないとか、タクシーの運転手にホモ・セクシャルが多いなど、少なくとも私の経験にはない。(もっとも、後者については、ただ単に私が彼らのタイプでないだけかもしれないが。)そのような留保すべき点はありながら、この本が説得力をもって読者に迫るのは、なんと言っても拘置所暮らしという強烈な実体験に基づいているからだろう。

アル・アインはアブダビ首長国の一部であり、ドバイでなくアブダビの拘置所に拘留されたのもそのような理由によるのではないかと思う。そういった意味で、本書のタイトルは本来「地獄のアブダビ」かせいぜい「地獄のUAE」とすべきだったろう。ドバイとしたのは、筆者が最初求職活動をしたのがドバイだったからと言えなくもないが、そうした方が売れるからという出版社からの要請によるものと思う。

終章で、日本に強制送還されUAEに再入国することができなくなった筆者は、UAEが好きな気持ちは今でもかわることがない、ただその恋は片想いだった、と述べている。「ドバイがクール」がドバイの光の部分を描いた本だとしたら、この本が扱うのは影の部分だ。だが、「地獄のドバイ」というタイトルとは裏腹に、筆者のこの都市に対する強い愛着を感じる。

ドバイに夢を追いかけて来る人、そして、図らずも何かの縁があって来ることになった人達に、一読を勧めたい。税別590円。

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