どんぴ帳

チョモランマな内容

北海道消波ブロック図鑑(その2)

2008-11-20 23:26:19 | 北海道消波ブロック図鑑

 いよいよテトラ型派生種の登場。

テトラ2型(撒菱型)

本家本元テトラポッドの亜種


忍者が使用する『撒菱(まきびし)』に見えます


道路に溢れそうなテトラ2型(笑)


誰かが食べたウニの殻が、ポツンと取り残されていました

 さらにもう一種。
テトラ3型(ボールレンチ型)

先っぽに、工具のボールレンチの様な頭が付いています


ずらりと頭が並んでいます


お仕事中のテトラ3型


使い込まれたテトラ3型

 さらにもう一種。
テトラ4型(牛乳パック型)

昔、給食に出てきた『テトラ牛乳』の形


沈んじゃって、なんだか淋しげなテトラ4型

 まだまだ続きます。


北海道消波ブロック図鑑(その1)

2008-11-19 23:52:18 | 北海道消波ブロック図鑑
 北海道の海岸線を自転車で走っていた時、海岸に積まれている消波ブロックに様々な形が有る事に気が付きました。
「ヨシ、消波ブロック図鑑を作るぞ!」
 と思いつつ写真を撮影し、放置すること一年半、いい感じに熟成したので、作ってみようと思います(笑)

 さて、海岸に積まれているこいつらを見て、
「あ、テトラポッドだ!」
 と言っている方、『テトラポッド』は株式会社不動テトラの登録商標です。言うなれば、『バンドエイド(絆創膏)』や、『セロテープ(セロハンテープ)』と同じことです。
 もしも目の前に積まれているのが、株式会社不動テトラの商品でなければ、
「あ、消波ブロックだ!」
 と呼ぶのが正しいのです。こいつらを見て、
「あ、テトラポットだ!」
 と叫んでいる方、問題外です。あなたは歌手のaik○に洗脳されています。ポットを使うのはカップラーメンを作る時だけにしましょう。そしてすぐに脳内の記憶を正しましょう。『テトラポッド』とは、ギリシャ語を語源とし、四本足を意味しています。

テトラ型
 勝手に私が分類しているだけで、必ずしも不動テトラの製品とは関係がある訳ではありません。

テトラ1型

本家本元、王道のテトラポッド


日本全国、いたる所で見られます


これが生コンクリートを流し込むための『鋼製型枠』


クレーンを使い、生コンを流し込みます


型枠を外しても、コンクリートの強度が十分になるまで、養生シートで覆われます


そして完成!うーん、美しい


これだけ青空が似合うコンクリート製品も、そうはありません(笑)


文化の違い

2008-11-18 19:54:28 | Weblog
 先日、『はくりんちゅ』に登場する佐野から声をかけられ、『はくりんちゅ』に登場するF社の機械(別物)を、某所某工場に搬入・据付する工事を手伝って来た。

 今回の機械は特殊な装置なので、三人のB国人技術者が、わざわざ設置を手伝いに、本国からやって来ていた。
 どんな工場でも新規に入る場合は、必ず『新規入場者教育』を受けさせられる。今回の某工場でもそれは同じで、作業員全員が会議室に集まり、某社の担当者から、安全についての教育を受けることになった。

「指定喫煙所以外では、喫煙を行わないこと」
 教育責任者が、A4用紙五枚分にびっしりと書かれた注意事項を、延々と読み上げて行く。それをF社の担当者が通訳し、B国人技術者に伝えていく。
「Yeh!」
 喫煙場所については、B国人も当然の様だ。
「構内速度は時速20km以下を遵守すること」
 すかさずF社の人間が通訳する。
「オーウ、ベリーすろうりぃ…」
 B国人たちは、軽く理解できないという反応を示す。
 だが、某社の教育担当者は、淡々と注意事項を読み上げて行く。
「作業現場では、必ず安全帽、安全靴、安全帯を着用すること」
 この文章が通訳されると、B国人たちに大きな反応が出る。
「ほわぁーい?」
 Why?と来た。
「工場屋内の、機器専用の部屋で、一体何が落ちて来ると言うんだい?」
 B国人は眉間に皺を作ると、F社の人間に疑問をぶつける。
 鉄骨を組み上げている様な現場ならともかく、ピカピカの新設工場の、空調が入った綺麗な部屋の中で、いったいどんな危険な物体が頭上から落ちてくるのか、B国人には全く理解出来ないらしい。F社の人間は、一生懸命某社の人間と交渉し、F社の人間に説明する。
 そこで私は自分なりに、てきとーなB国語で、彼らへの説明を試みた。
「君たち、日本の空気は非常に危険なんだよ」
「おおぅ?そうなのか?日本の空気は重いのか?」
「ああ、非常に重いんだ。だから危険なんだ」
「おおーぅ」
 B国人は半笑いで納得する。
 だが、安全教育の責任者には、そんなことは関係ない。要は彼らが何人であろうと、どんな事情があろうと、安全帽を被ってくれさえすればイイのだ。
「えー、次に行きます」
 さらに淡々と進める。
「指輪、ピアス等の装飾品は、外して作業を行うこと」
 F社の人間がさらに通訳をして、B国人の太い指に光っている結婚指輪を指でさした。
「ほわぁああああい?」
 これはB国人にとって、完全に理解出来ないことらしい。
「ほわぁあああああい?」
 もう一人のB国人もF社の人間に詰め寄る。苦虫を噛み潰した様な顔をしたF社の担当者は、伝家の宝刀を引き抜いた。
「あい、どんと、ノゥっ!!!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 三人のB国人は、テロリストに銃弾の雨を浴びせられ、困り果てている『ジョン・マクレーン』の様な顔をして、黙って引き下がった。
「えー、続きまして災害発生時の連絡方法について…」
 某社の担当者は、そんなことにはお構いなく、淡々と安全教育を進行していった。

 ちなみに佐野によると、自由を愛するB国人はまだマシな方で、ビールが大好きなD国人は、さらに強烈らしい。
 彼らは客先の工場内で仕事が終わった瞬間、いきなりクーラーボックスから缶ビールを取り出し、
「プシュッ!」
 と開けると、
「んぐっ、んぐっ、んぐっ、ウハぁああああ!」
 とやり出すらしい。
「ノーノーノーノー!!」
 と工事責任者が怒ると、D国人たちは真顔でこう答えたらしい。
「ほわぁああああああい!?」

 文化とは、斯くも異なるものである。

はくりんちゅ336

2008-11-17 07:41:09 | 剥離人
 下水処理場の最初沈殿池に、ハルのガンの発射音が響く。

「シュザぁあああああああああ!」
 槽内に、いつもとは異なるジェットの発射音が、けたたましく響く。鋼板とコンクリートでは反射する音の周波数が異なるのか、耳に痛そうな音の種類だ。
「ブボっ、バロバロバロバロ」
 四本のジェット水流を発射する『4ジェットノズル(フォージェットノズル)』が、古いコンクリート表面をハツり、コンクリートの破片を飛び散らせる。
「おおっ、痛っ、なんやこれは!たまらんわ!」
 無警戒に近くで見ていた葛西は、悲鳴を上げながらハルの側から離れる。SSプラントの川久保には、事前に近寄らないように言ってあったので、我々と同じ場所で、安全にハルを観察している。
「うわっ、結構凄いね!」
 川久保が大声で話しかけて来るのが、耳栓越しに聞こえる。
「そりゃそうですよ、超高速で水流をぶつけるんですから、跳ね返ってくるコンクリートも高速。まあ、散弾銃みたいな物ですよ」
 頷く川久保と一緒に、散弾銃に撃たれながらも必死でコンクリートのハツリ面を観察しようとする葛西を見て、失笑する。
「よーし、よーし!もういいぞ!おーい!おーい!」
 ハルに任せておけば良いものを、葛西はコンクリート片を撒き散らすハルに近寄ろうとして、再び散弾銃に至近距離で撃たれて悶絶している。
「何だかなぁ…」
 私はブツブツと言いながら、ハルの腰に装着されたエアコンバータ(圧縮空気の温度を調整する装置:冬は暖房仕様にする)に接続されているエアラインマスク用のオレンジ色のウレタンホースを握りこみ、三回エアを遮断させる。
「キュぅううううん、パシュッ!」
 ガンのエアモーターの回転が停止し、ほぼ同時ににタンブルボックス(ガンのオンオフを制御する装置)からもエアーが排出される。
「よーし、よーし、ちょっと待ってろよぉ!」
 葛西は大声を出しながらハルと入れ替わり、ハツリ面に近づく。
「どうですか?率直なところ」
 私はハルに話しかけた。
「うーん…」
 ハルが言葉を探している。
「O県のコンクリートよりも固いですか?」
 ハルにとって答え易い質問をぶつけてみる。
「そうだね、硬いね」
「硬いですか」
「うん、O県の下水処理場のコンクリートはね、ジェットが当たるともっと簡単にボロボロと吹き飛んでいく感じだったからね」
「そうですか、そう言えばあの時は『5ジェット(ファイブジェット:五本の水流が射出されるノズル)』を使っていましたよね」
「そうだね、5ジェットを使っても、今よりは簡単だったね」
「じゃあこれ以上の深さにハツれって言われたら…」
「大変だと思うよ」
「うーん、物理的には可能ですかね?」
「出来なくは無いけどね…」
 ハルは堂本と須藤を見る。
「そうですか…」
 私はハルの言わんとしていることを理解したので、笑いながら頷く。

「おーい、木田さん!木田さん」
 ハツリ面をしきりに観察していた葛西が、大声で私を呼ぶ。
「ハイハイ、何でしょうか?」
 足場を移動して葛西の側に行く。
「木田さん、これじゃあちょっと浅いかもしれないね、もうちょっとハツらないとね」
「・・・」

 私は心の中で、
「お前が止めさせたんだろう!」
 と叫んだが、黙ってハルを呼び寄せた。


はくりんちゅ335

2008-11-16 23:02:44 | 剥離人
 我々に大いなる不満と不安を抱かせて、週休二日制ののん気な現場がスタートした。

「じゃあ、今回もハルさんとヨッシー、正木さんと正男ちゃんのチーム割りで行くからね!」
 私は皆に告げると、機器のセットアップを開始した。程なくして、ハルがコンテナにやって来る。
「木田さん、なんかね、ヨッシーが変なんだけど…」
「変?変って言われても、ヨッシーは元々変じゃないですか」
「うひゃひゃひゃ、そういうことじゃ無いんだって、なんかさ、ガンのセットアップがすでに怪しいんだよ」
「どう怪しいんですか?」
「いや、忘れちゃってる感じなんだよね」
「は?忘れてるぅ?だってY県の現場でトータル二週間以上ガンを撃ってるし、先週は玉子焼きのアルミプレートをやったばっかりでしょ…。本当に!?」
「っちゃあ、ホントだって!『タンブルボックス(ガンのオン・オフを制御する装置)にホースを繋いでおいて!』って頼んだら、十分くらい悩んでたんだよ」
 ハルは半分憤慨しつつ、残りの半分で脱力した笑みを浮かべ、私も釣られて笑い始める。
「うははは、なんか前々から怪しかったけど、ここにきて爆裂しちゃうのかな?」
「うひゃひゃひゃ!もう俺は知らないよ、後は木田さんに任せたからね」
 ハルは無責任なことを言うと、階段を上がり、処理場の中に戻って行った。

 機器のセットアップが終わると、いよいよウォータージェットによる『コンクリートはつり(削り取り)』を開始する。
「まずは試験はつり!この結果次第だからね、頼むよぉ!」
 現場の所長とは思えない妙なハイテンションで、葛西は我々の先頭に立って、最初沈殿池(さいしょちんでんち:汚水が最初に流れ込む池)の足場に下りて行く。
 最初沈殿池は、本来は汚水がなみなみと入っているコンクリート製のプールなのだが、きっちりと洗浄され、足場が組まれていると、単なる普通のコンクリート構造物にしか見えない。
 この下水処理場という施設、実は複数の系統で構成されており、一系統ごとに最初沈殿池、反応槽、最終沈殿池という下水処理三点セットで構成されている。仮にこの中の一系統を整備の為に停止させても、他の二系統が稼動していれば、下水処理場としては問題無く機能し、処理能力が減少するに過ぎないのだ。
 従って、どんなに我々の作業場所に下水が流れ込んで来なくても、隣で稼働している別の系統から濃厚な香りが発生し、常に我々の鼻腔に、新鮮な硫化水素の臭気が届けられる事になってしまうのだ。

「さ、このスプレーで区切られた部分をはつってもらうよ!」
 誰が見ても分かるのに、葛西はしつこくマーキングされた壁面をペシペシと叩いている。
「言われなくても分かるってんだよね」
 正木が聞こえるんじゃないかという大きな声を出し、葛西が正木をチラリと見る。私は思わず正木の前で、人差し指を唇に当てて見せた。
「ハルさん、お願いしますね」
 ハルはエアラインマスクの中で頷くと、ガンを肩に担いで、所長が示した場所にノズルの先端を向けると、私の合図を待った。

 私がハルに向かってトリガーを引くジェスチャーをすると、ハルは即座にガンのトリガーを引き、コンクリートをはつり始めた。


はくりんちゅ334(N下水処理場編スタート!)

2008-11-15 23:56:15 | 剥離人
 朝八時、音の割れたラジカセから流れる音楽で、ラジオ体操が始まる。
 場所はA県N市にあるN下水処理場、プレハブ二階建ての現場事務所の前だ。

 澄んだ空気の中、子供の頃から聴き慣れた音楽に合わせ、むさ苦しい男たちが衣服からシャカシャカと衣擦れの音をさせ、定番の体操を行う。
 若い頃には、その効能がさっぱりと理解できなかったラジオ体操だが、自分の硬くなった体の筋が伸び、微妙に気持ちが良いことを最近認識した私は、軽いショックを受けていた。
 ラジオ体操が済むと、現場所長の挨拶が始まる。
「えー、今日からいよいよ、ウォータージェット工事、ですか?」
 私は所長の顔を見て、ウンウンと頷く。
「が始まりますが、十分に注意をして、怪我の無いように、仕事をして下さい」
 大手ゼネコンO組の所長の葛西は、眼鏡の奥からじっと作業員を見渡す。見渡すといっても、我々R社のウォータージェットチーム以外には、足場鳶(あしばとび:足場を組むのを主な仕事にしている鳶職)が四人居るだけに過ぎない。現場としての規模は、最小と言ってもいいだろう。

「まずは何だっけ、機械の設置からだよね」
 今回、O組の下で、実質的に工事を管理するのは、大手プラント会社のSSプラントで、担当者は川野辺という『クマのプーさん』に似た男だった。
「その前に新規入場者教育ですよね」
「うん、なるべく早く終わらせるけどね」
「そうしてもらえるとありがたいです」
 どんな工事現場でも必ず行われるのが、『新規入場者(工場等の場合は入構者)教育』だ。内容としてはその現場での主な注意点や、その現場独自のルール等を、初めて現場に入る人間に、周知徹底させるための教育活動だ。

「じゃ、R社さんの新規入場教育を始めます!」
 所長の葛西が、プレハブ一階の作業員休憩所に入って来る。
「川野辺さん、R社さんはこれで全員かな?」
「ええ、そうだよね?」
「はい、揃ってますけど…」
 葛西から川野辺に、そして私へ視線が移動する。
「全部で五人だね」
 葛西は作業員名簿を見ながら、確認する。今回もメンバーは私とハル、本村組の須藤と堂本、そして堀部塗装の正木だ。
「じゃ、大事な注意事項を今から説明します!」
 葛西はもったいぶって話し始めた。

 四十分後、葛西の回りくどい安全教育は、ようやく終わりそうな雰囲気になっていた。
「それからR社さん、土曜日はどうするね?」
 葛西が不思議なことを言い出した。
「えーと…、土曜日はと言いますと?」
 私には質問の意味が理解出来ない。
「だから、土曜日は仕事をするのかと訊いているんだよ」
「・・・?」
 やはり、何を言われているのかが理解出来ない。
「土曜日は、木田さんの予定では作業をする予定?」
 見かねた川野辺が『通訳』してくれる。
「あ、ああ、もちろんですけど…、そのつもりで考えています」
 スーツにネクタイで仕事をしていれば、今や週休二日が当たり前だが、ブルーカラーの世界はそうはいかない。そもそも週休二日制の現場など、聞いたことも無い話なのだ。
「え?するの?土曜日も仕事をしないと間に合わない?」
 葛西は見るからに不満そうだ。
「!?」
「・・・?」
「???」
 ようやくハルや正木たちにも、葛西が言っている言葉の意味が伝わり始め、ある者は目を見開き、ある者は眉間に皺を寄せる。
「あの、通常土曜日が休みの現場は聞いたことがありませんし、こちらもそのつもりで工程を組んでいますので、土曜日が休みなのはちょっと難しいかと…」
 私が事前に提出した工程表では、当然ながら土曜日は仕事の日だ。
「だけど、ある程度は余裕を見て工程を組んでいるんだよね?まあ、まずは休みにしてやってみて、それでも難しいようなら、土曜日を作業日にしようじゃない。それでどお?」
 葛西の提案は、私にはほとんど理解出来ない内容だったが、曲がりなりにも彼は現場の所長だ。
「じゃあ、とりあえず土曜日を休みにしてみます。工程的に難しいようでしたら、作業日にして頂けますか?」
「うん、それは構わないよぉ!」
 葛西はニコニコとすると、上機嫌のまま新規入場者教育を終え、二階の事務所に引き上げて行った。
「川野辺さん、SSプラントさんの現場も、週休二日制なんですか?」
 私は思わず川野辺に強い口調で不満をぶつけた。

 川野辺は、私の冷たい視線を感じると、クマのプーさんの様な顔を左右にブンブンと振り、週休二日制を強く否定した。



はくりんちゅ333

2008-11-14 23:53:41 | 剥離人
 Y県での出直し工事を終えたウォータージェットチームには、すぐに次の工事が迫って来ていた。

 M県に戻った私とハルは、次の現場の準備を行いつつ、以前からやっていた最も儲からない仕事である、玉子焼き製造メーカーA社の仕事に取り掛かかった。
 現在、R社の工場では近隣住民への騒音問題から、ウォータージェット作業を行うことが出来ないので、以前敷地を間借りしていた、A県の港湾工業地帯にあるH社のスペースを借りて作業を行う。
 A社は自動たまご焼き製造機で大量の『業務用だし巻き玉子』を製造しているのだが、この玉子を焼き上げるアルミプレートの洗浄を、我々は請け負っている。

「はぁああああ…」
 私は大量のアルミプレートを前に、思わずため息を吐いた。
「うひゃひゃひゃ!木田さんにとって一番キツイ仕事が始まっちゃうよ!」
「…この仕事、ある意味、どんな現場よりもキツイですね、僕にとって…」
 ハルは、私のウンザリとした顔を見て、半分同情しつつもニヤニヤしている。

 玉子焼き用のアルミプレートは二種類で、どちらも幅は200mmほどなのだが、長さが二種類あり、一つは1,100mm、もう一つは800mmの長さだ。
 このアルミプレートの洗浄で、もっとも面倒なのが、あらゆる面を洗浄しなければならないことだ。表と裏面だけでなく、側面も全周囲を洗浄しなければ、黒い焦げつき汚れが残ってしまう。A社がそのプレートをそのまま使用すると、玉子焼きに汚れが混入してしまい、製品として販売出来なくなってしまうのだ。
 しかもこのアルミプレート、無垢のアルミの板なので、見た目以上に重量がある。これを200枚も扱わなければならないのは、重労働以外の何物でも無かった。

 撃ち手が足りないので、本村組から堂本一人を借りて、作業に当たる。本当は須藤を使いたかったのだが、須藤は数年前に自動車免許を取り消されており、必然的に堂本を使うしかなかったのだ。
「パシュぅうううう!」
 ガンからジェットが発射される。圧力を約1,700kgf/cm2に設定してあるので、いつもより迫力が無いし、音もショボい。
「ヨッシー、あんまりオフセットが近すぎると、アルミプレートの表面が削れるからね。汚れだけを除去するつもりで頼むよ!」
 堂本に指示を出し、すぐにハルが表面を洗浄したアルミプレートを、一枚ずつ裏返して行く。それが終わると、今度は堂本が洗浄したプレートを裏返し、次はハルが裏面を洗浄したプレートを、ステンレスの角型桶の中に立てて並べる。ハルがそれを洗浄している間に、新しいプレートを鉄板敷きの地面に並べて用意をし、それが済んだらハルが側面を洗浄したプレートをひっくり返す。ハルが反対側の側面を洗浄すると、今度はそのプレートをエアブロー(圧縮空気で水切りを行う)しながらパレット(フォークリフト等で使う、荷役用の木製や樹脂製の『すのこ』)に並べつつ、堂本が剥離したプレートをステンレスの桶に並べ、再び新しいプレートを地面に並べる。

「はぁあああああああ…」
 夕方、200枚のアルミプレートの洗浄を終え、トラックが帰って行くと、私は完全にヘロヘロになった。
「うひゃひゃひゃ、木田さん、今日も大変だったね」
 ハルがタバコを吸いながら、岸壁から海を眺めている。
「大丈夫ですか?」
 堂本が近寄ってくる。
「ヨッシー、ちょっと腰を叩いてくれる?」
「こうですか?自分は力の加減が出来ないんで言って下さい」
 堂本は前屈姿勢になった私の腰を、トントンと叩く。
「もうちょっとだけ強めに…」

 一週間後、出張疲れと諸々の疲れが抜けない私に、下水処理場のコンクリートはつりという悪夢が襲って来た。

はくりんちゅ332

2008-11-13 23:43:59 | 剥離人
 一段目のジャングルジムの様な足場をクリアすると、後の作業は早かった。

 屋外タンクのハルと堂本は、二段目の足場で壁を剥離すると、一気に三段目のステージに上がり、天上を剥離して作業を終了した。
 須藤と正木は、屋内のタンクを一基片付け、二基目のタンクに入り、屋外タンクとほぼ同時に作業を終了した。

 全ての撤収準備を完了したその夜、我々はホテルの近くの居酒屋で打ち上げをしていた。
「ハイっ!乾ぱぁあああああい!!」
 ハルがニコニコとしながらジョッキを掲げ、みんなのジョッキに自分のジョッキを、物凄い勢いでぶつけだす。
「ドギンっ!」
 鈍いガラスの音が響き、店員が顔をしかめる。
「うはははは、ハルさん、店長らしき人が、めちゃめちゃ悲しそうな顔で、僕らを見ていますよ」
 私は誰のジョッキも割れなかったことを確認し、ホッとしながらハルに言った。
「っちゃあ、木田さん、こういうお店のジョッキはね、必ず割れることになっているんだから!」
 ハルの表情には、一切の悪気が無い。どうやら半分本気でそう思っている様だ。
「そう!形あるものはいつかは壊れる!」
 ニヤニヤとした正木が悪乗りする。
「それって、お店の人が怒って、最終的に出入禁止になりません?」
 私は、ハルがいくつかのキャバクラで出入禁止になっていることを思い出していた。
「ああ、Y市界隈の居酒屋は、何軒か出入禁止になったね」
「うはははは、やっぱり?」
「うん、もう乾杯するたびにジョッキをブチ割ってたからね」
 ハルはニコニコとしながら美味しそうにビールを飲み、枝豆をつまむ。
「あははは、ハルちゃん、それはお店の人が可哀想でしょ。あのジョッキもね、大きいのは結構高いからね」
 さっきとは正反対のことを、正木が言う。
「うひゃひゃひゃ、まあ俺も最近はやらなくなったけどね。割ろうと思ったら、もっと凄い勢いでぶつけないと割れないしね」
 ハルは少しだけ弁明をする。我々が注文した串揚げの盛り合わせを持って来た店長らしき人物が、ハルの言葉を聞いて、ややホッとしたような表情を浮かべる。

 一時間後、なぜか私の横には正木が座り、ハルの周りに堂本と須藤が座っていた。
「でね、木田さん、俺はさぁ、やっぱりね、現場にいる人間同士はね、協力し合わなきゃいけないと思うんだよね」
 またしても正木の顔が近い。正木は日常生活でも、元々人との距離感が近いのだが、アルコールを摂取すると、さらに顔面の間合いが近づいて来るのだ。
「…いや、そうだと思いますよ、本当にね。今回は正木さんのおかげで本当に助かりましたよ」
 正木にはかなりマイペースな部分があるが、私は本気でそう思っていた。
「いや、いやぁ!あのねぇ、木田さん!木田さんにねぇ、そう言ってもらえると、本当にこのY県まで来た甲斐があるんだよね、俺としては…」
 正木の顔が私に対して斜めになり、どんどん近づいて来る。知らない人が見れば、完全にこれからキスする様な体勢だ。
「本当にね、日々勉強だね、現場はね」
「あ、ええ…、そうですね、僕もそう思いますよ…」
 私は正木の顔面からゆっくりと距離を取り、適当に同意をして見せた。
「自分では頑張ってるつもりなんだけどね、まだハルちゃんには及んでいないね。いや、もしかしたら正男ちゃん(須藤)やヨッシーにも及ばないかもしれないね」
「いやぁ、そうでも…」
 正木のあまりの謙虚さに、私は完全に戸惑っていた。
「うひゃひゃひゃ、今日の『ハルちゃんスペシャル』は最高だぞぉ!」
 座卓の反対側では、ハルと須藤と堂本が、ワイワイと変なアルコール飲料を作成している。どうやら、今回も気が付けば私は正木の担当になってしまっているようだ。
「正木さんは、ああいう変わったお酒は飲まないの?」
 私は、酎ハイに、串揚げとトマト、枝豆とゲソ天が入った、ハルの前のグラスを指差してみた。
「あ、あれはね、酒の味がぼやけるからね、やらないね」
 私のハルチームへの合流プランは、脆くも崩れ去る。だが、私の視線に気付いたのか、堂本がちらりと私と正木を見る。
「木田さん、呑んでないじゃん!」
 ハルが、堂本の視線に気付き、私に話を向けてくる。
「オっシぃいいい、ナイスヨッシー!」
 私は心の中で叫んだ。すると堂本が、小声でハルに囁き始めた。
「あの、木田さんと正木さんは、大事な話をしているみたいですよ」
「・・・」
 一瞬でも堂本に期待した私は、自分の判断の甘さを呪った。
「でね、日々是勉強!俺はね、この気持ちを持って俺はね、現場にいつも臨んでいるんだよね、木田さん。だからね…」

 遠く離れた北のY県で、私の苦行のような夜は更けて行くのだった。 

はくりんちゅ331

2008-11-12 01:11:05 | 剥離人
 毎度毎度のことだが、現場に入って足場をいじらないことは、ほとんど無い。

 今回も、一段目の足場の壁上部を剥離した段階で、どんどん足場板を外していく。
「木田さん、向こうまで外しちゃってくれる?」
 エアラインマスクを被ったハルが、ジェスチャーで私に合図を送る。
「ここ、外すんですか?」
 堂本が、私に訊いてくる。
「手伝ってくれる?悪いね、ヨッシー」
 堂本は休憩時間中なのだが、気にせずに足場板を外すのを手伝い始める。
 二人で番線カッターを使い、足場を固定している番線(固定用のなまし鉄線)を切断し、外したアルミ製の足場板を運んで行く。タンク内は出来の悪いジャングルジム状態なので、異様に作業がしにくい。
 マンホールの側まで足場板を運ぶと、私がタンクの内側で、600φ(直径600mm)のマンホールから足場板を突き出し、堂本がそれを外で受け取り、タンクの脇に積み上げていく。
 もちろん、次のサンドブラストの作業工程で、この足場板が必要になるのだが、そんなことは知った事では無い。その業者が再び自分たちで足場板を入れて、自分たちで固定して使うのだろう。
「うふふ、どうしてこんな作業がしにくい足場を組むんですかね?」
 堂本はニコニコとしながら足場板を運んでいる。どうも彼は、あまり考えなくても良い単調作業を愛している様子だ。
「それはね、ヨッシーみたいに何も考えないで足場を作ると、こうなっちゃうんだよ!」
 私は笑いながら答える。
「自分が足場を作ったら、もっと凄いのが出来上がりますよ」
 堂本は軽々と足場板を持ち上げると、やや乱暴に積み上げる。
「そんな足場を作ったら、ハルさんがブチ切れちゃうんじゃないの!?」
「うふふふふ」
 堂本は、前歯が一本欠けた、満面の笑みを浮かべる。
 もっとも、前歯が無いのは堂本だけでは無い。須藤もやはり右前歯が一本無いし、辞めていった小磯もそうだった。どういう訳なのか、職人には前歯が無い人間が多いのだ。これは単に私の周りだけかも知れないが、その割合はかなり高い。
 理由の一つには、歯医者に行くお金が無いというのがある。厳密には働いているので、お金が無い訳ではないのだが、その給料のほとんどが、パチンコ屋とスナックやキャバクラに消えてしまう。そして気付けば、
「あ、歯医者に行くお金が無い…」
 という一ヶ月を、年に十二回繰り返すことになるのだ。
 そして、この十二回を二周りも繰り返すと、前歯が無いことにすっかり慣れてしまい、前歯が無い状態でも、
「さしすせそ」
 が綺麗に言えるようになる。こうなってしまうと、もはや歯医者など必要なくなってしまうのだ。

「木田さん、中のタンクも足場板を外してもいいですか?」
 キャバクラに歯医者代を費やしてしまう須藤が、私のところにやって来た。
「うん、この足場板を出したら、すぐにそっちに行くよ」
 十分後、堂本を連れて、屋内のタンクヤードに入る。
「あ、結構出しちゃってるじゃん」
 すでにタンクの外に、須藤と正木の二人で足場板を運び出してしまっている。
「正木さん、俺たちがやったのに…」
 ガンを撃つ手を止めてまで、足場板を運び出す必要は無い。
「いやぁ、来るのが遅いからさ、もうやっちゃったよ」
 正木の言葉は、何となくカチンと来るが、受け流すことにする。
「あとはやりますから、ガン撃ちに戻ってもらえます?」
「いや、あとちょっとだからさ、やっちゃうよ」
 さすがに私もムッとする。
「いや、僕がやりますから、ガンを撃って下さいよ!」
「あ、そう?じゃあ、そうするかね…」
 正木はようやくエアラインマスクを被ると、自分の仕事に戻った。
「ふぅー…」

 私は溜息を吐くと、堂本と須藤に指示を出し、残りの足場板を運び出した。

 


はくりんちゅ(画像編27)

2008-11-11 23:40:05 | 剥離人
あり得ないタンク内の画像です(笑)


あり得ない本数の縦地(縦方向の単管パイプ)
 この程度の大きさのタンクで、正気とは思えない本数の縦地を入れています。


ほとんど出来の悪いジャングルジム状態
 タンク底板のガラスフレークライニングの剥離が終わったら、予備の脚と入れ換えて、剥離残した部分を剥離します。


あり得ない昇降ステップ
 どう見ても行き当たりばったりにしか見えない、昇降ステップという名前の単管パイプ。
 濡れた安全ゴム長(鉄甲の入った工事用のゴム長靴)で昇降するのは、かなり恐いです。
 その恐さをごまかす為に、セルフロック(動きに応じてワイヤーを出したり巻き上げたりする装置・転落時はワイヤーがロックされる)を取り付けてはありますが、単なる気休めです。


落とし穴…
 落とし穴にしか見えませんが、昇降口を上から撮影したものです。
 あれだけの数の縦地を入れながら、こんな台形の昇降口しか作れないことに驚愕します。
 この足場でゴーザインを出した人の思考回路が、私には理解出来ません。あえて理解しようとすると、その人は『台形が好き』という結論に達してしまいます。


パイプ周り
 ハルのお仕事です。パイプは交換しないので、周囲は残します。


リブラ(Re-ブラスト)の対象
 誰の仕事かは分かりませんが(どう考えても堂本しかいないけど…)、僅かに剥離残しがあります。こういうきっちりとしていない部分は、私が缶スプレーでチェックを入れて、すぐにリブラです。


天井もビシッと剥離
 ハルのお仕事です。反力20kgf/cm2、毎分3,000回転するハンドガンで、天井に正確に直線を描けるのは、ハルしかいません。
 左端が歪んでいるのは、堂本が適当にやったのを、ハルが手直しをしたからです。

 仕事がきっちりとしてない足場と、仕事をきっちりと出来ない堂本のおかげで、ハルはいつも大変です。ついでに私も大変です。