怪しい挙動の堂本を塔内に残しつつ、私にはやらなければならないことがたくさんあるので、地上へ降りる。
まずはハスキー(超高圧ポンプ)の管理だ。
この超高圧ポンプ、大雑把と言えば大雑把であり、且つ非常に繊細でもある。
大型重機にも搭載されているキャタピラー社製3306エンジンは、排気量10,000ccのディーゼルエンジンで、エンジンオイルと燃料さえあれば、基本的にはガオガオと吠えながら、バンバンと軽油を消費して動き続ける。そこには繊細さなど欠片も存在しない。
これに対して、超高圧水を発生させているプランジャー(ピストン)部は、非常に繊細だ。メンテナンス時に犯した極僅かなミスで、あっという間にステンレス部品は高熱にさらされ、シールが破損し、最悪はセラミック製の高価なピストンが破壊されることもある。
こういう事態を予防するには、日々、ハスキーを気遣ってやらなければならない。ゲージ(メーター)が異常な値を示していないか、ゲージ内の針の振れ方に異常は無いか、プランジャー部に漏水は無いか、異常な発熱は無いか、ECV(エアターナルコンバセーションバルブ)に異音や漏水は無いか等、常に注意を払ってチェックをしなければならないのだ。
だが、S社の人間はあまりそういう事にはこだわらない。なぜなら、彼らは常に予備のハスキーを持っており、ハスキーの調子が悪くなれば、5t吊りの大型フォークリフトがメンテナンス済みの機体とさっさと入れ替えてしまうからだ。
だが今回は我がR社は当然として、S社も、ハスキーは一台しか現場に持ち込んではいない。
「一番調子のイイ機体を持って来て下さいね!」
伊沢にはそう頼み込んでおいたので大丈夫な筈だが、貧乏性の私はついついS社のハスキー506号機のゲージも覗き込んでしまう。
「なんか調子悪い!?」
私がS社のハスキーを覗き込んでいると、幸四郎が声を掛けて来た。
「いやぁ、ついつい習慣で、ゲージの数値を確認しちゃうんですよ!」
二台の吠えまくるハスキーの間で、私と幸四郎は大声で会話をする。
「ああ、大丈夫、大丈夫ぅ!この506号機は結構調子がイイから。200時間メンテもこの前やったばかりだからね!」
506号機の操作パネルには、ガムテープが貼られ、そこに黒いマジックで前回のメンテ時間が書かれている。個人的には機械の操作盤に、無造作にガムテープが貼ってあるのは気に入らないのだが、まあS社の機械なので、仕方が無い。
「…、…!」
誰かが何かを叫びながら、私の肩を叩いている。
「!?」
振り向くと、ハルが爆笑しながら何かを言っている。
「どうしたんですか!?」
「木田さん、ちゃんとあの堂本って人に、ガンの撃ち方を教えたの?」
ハスキーのエンジン音に負けないように、ハルは耳元で大声を出す。
「教えましたよ、一時間掛けて!」
話しながら、ハスキーから離れてコンテナの影に移動する。
「っちゃあ、見に行った方がイイよぉ!」
「また横方向に線を引いてましたか?」
「ええっ?横ぉ?俺がさっき見に行ったら縦方向に線を引いてたよ」
「今度は『縦』かよぉ…」
「木田さん、ちゃんと教えたのよぉ?」
「教えましたよ、正木さんの五割増で時間を掛けてますよ」
「うひゃひゃひゃひゃ、見に行った方がイイよぉ!」
ハルはもう辛抱たまらんという顔で大笑いしている。
「ったく、何をどうやると『縦』とか『横』になるんだか…」
私はブツブツ言うと、再びカッパを身に付け、ヘルメットにフェイスガード(透明な樹脂製のバイザー)を装着した。
「うひゃひゃひゃ、俺ももう一回見に行こぉっと!」
堂本のガン撃ちには、休憩時間中のハルを、もう一度地上40mに誘うだけの魅力が
あるらしい。
私とハルは、再び吸収塔の階段を早足で上り始めた。
まずはハスキー(超高圧ポンプ)の管理だ。
この超高圧ポンプ、大雑把と言えば大雑把であり、且つ非常に繊細でもある。
大型重機にも搭載されているキャタピラー社製3306エンジンは、排気量10,000ccのディーゼルエンジンで、エンジンオイルと燃料さえあれば、基本的にはガオガオと吠えながら、バンバンと軽油を消費して動き続ける。そこには繊細さなど欠片も存在しない。
これに対して、超高圧水を発生させているプランジャー(ピストン)部は、非常に繊細だ。メンテナンス時に犯した極僅かなミスで、あっという間にステンレス部品は高熱にさらされ、シールが破損し、最悪はセラミック製の高価なピストンが破壊されることもある。
こういう事態を予防するには、日々、ハスキーを気遣ってやらなければならない。ゲージ(メーター)が異常な値を示していないか、ゲージ内の針の振れ方に異常は無いか、プランジャー部に漏水は無いか、異常な発熱は無いか、ECV(エアターナルコンバセーションバルブ)に異音や漏水は無いか等、常に注意を払ってチェックをしなければならないのだ。
だが、S社の人間はあまりそういう事にはこだわらない。なぜなら、彼らは常に予備のハスキーを持っており、ハスキーの調子が悪くなれば、5t吊りの大型フォークリフトがメンテナンス済みの機体とさっさと入れ替えてしまうからだ。
だが今回は我がR社は当然として、S社も、ハスキーは一台しか現場に持ち込んではいない。
「一番調子のイイ機体を持って来て下さいね!」
伊沢にはそう頼み込んでおいたので大丈夫な筈だが、貧乏性の私はついついS社のハスキー506号機のゲージも覗き込んでしまう。
「なんか調子悪い!?」
私がS社のハスキーを覗き込んでいると、幸四郎が声を掛けて来た。
「いやぁ、ついつい習慣で、ゲージの数値を確認しちゃうんですよ!」
二台の吠えまくるハスキーの間で、私と幸四郎は大声で会話をする。
「ああ、大丈夫、大丈夫ぅ!この506号機は結構調子がイイから。200時間メンテもこの前やったばかりだからね!」
506号機の操作パネルには、ガムテープが貼られ、そこに黒いマジックで前回のメンテ時間が書かれている。個人的には機械の操作盤に、無造作にガムテープが貼ってあるのは気に入らないのだが、まあS社の機械なので、仕方が無い。
「…、…!」
誰かが何かを叫びながら、私の肩を叩いている。
「!?」
振り向くと、ハルが爆笑しながら何かを言っている。
「どうしたんですか!?」
「木田さん、ちゃんとあの堂本って人に、ガンの撃ち方を教えたの?」
ハスキーのエンジン音に負けないように、ハルは耳元で大声を出す。
「教えましたよ、一時間掛けて!」
話しながら、ハスキーから離れてコンテナの影に移動する。
「っちゃあ、見に行った方がイイよぉ!」
「また横方向に線を引いてましたか?」
「ええっ?横ぉ?俺がさっき見に行ったら縦方向に線を引いてたよ」
「今度は『縦』かよぉ…」
「木田さん、ちゃんと教えたのよぉ?」
「教えましたよ、正木さんの五割増で時間を掛けてますよ」
「うひゃひゃひゃひゃ、見に行った方がイイよぉ!」
ハルはもう辛抱たまらんという顔で大笑いしている。
「ったく、何をどうやると『縦』とか『横』になるんだか…」
私はブツブツ言うと、再びカッパを身に付け、ヘルメットにフェイスガード(透明な樹脂製のバイザー)を装着した。
「うひゃひゃひゃ、俺ももう一回見に行こぉっと!」
堂本のガン撃ちには、休憩時間中のハルを、もう一度地上40mに誘うだけの魅力が
あるらしい。
私とハルは、再び吸収塔の階段を早足で上り始めた。
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