どんぴ帳

チョモランマな内容

はくりんちゅ27

2007-11-19 12:11:15 | 剥離人
 ハルは不気味な色合いのグラスを口に運び、グビリと飲んだ。

 飲んだ瞬間にハルは俯いた。そして顔を上げる。
「やっぱこれでしょう!」
「わはははは!」
 小磯が爆笑する。ママとムツミはやや気持ち悪そうにハルを見ている。
「ハルさん、それは美味いんですか?」
「そりゃ最高よ!ウイスキーはこうやって飲むのが一番美味いんだから」
 ハルはもう一口飲む。
「飲むか?」
 ハルがグラスをムツミに突き出す。
「飲むか馬鹿!」
「なんだとぉ、こいつの美味さを知らねえくせに!」
「知りたく無いね」
 ハルは不満そうにもう一口飲んだ。
 普通の人なら勧められても飲まないのかもしれないが、私の中には飲みたいという衝動が湧いてきた。目の前で他人が美味そうに飲んでいる以上、味覚的に強い興味を覚えたのだ。
「ハルさん、それ、どんな味がするんですか?」
「ん?飲む?」
 ハルはグラスを私に向かって突き出した。私は席を立ってハルに近づいた。
「直接飲んでもいいんですか?」
「いいよ、いいよ」
 思い切って一口、舌の上に流し込んでみる。
「おお!」
 思っているたよりも飲み易い。不思議とまろやかな飲み口だ。
「なんかウイスキーと言うより、甘くないミルクセーキみたいな味わいですね。アルコール分をあまり感じない、まろやかな口当たりですよ。結構いけますよこれ!」
「んぉー、そうそうそう!」
 ハルは私が味わいを的確に表現したのが嬉しいのか、私の感想に激しく賛同している。
「ホント?」
「嘘でしょ?」
 ママとムツミは信じられないという顔をしている。
「ちょっと飲んでみたらどうですか?いいですよねハルさん」
 私の勧めに、ママがグラスに恐る恐る口を付けた。
「あ、本当だ、不味くはないね」
「ふーん」
 ムツミもまんざらでは無い様子だった。
 ハルは満足そうに残りを飲み干し、二杯目を作り始めた。

 ハルがその二杯目を半分ほど飲んだ時だった。
「なんかこの味にも飽きて来たなぁ」
 ボソっと呟くと、彼はグラスを眺めた。
「くっくっくっ」
 小磯が笑っている。
「どうしたんですか?」
「見てりゃ分かるから」
 小磯が言い終わる前に、ハルはおもむろに白身の入った器を手に取ると、いきなりグラスに流し込んだ。
「醤油頂戴!」
 いきなりハルが叫ぶ。ママが醤油挿しをカウンターに置いた。ハルは醤油をグラスに垂らすと、マドラーでかき混ぜ始めた。
「うわっ、何してんの?」
 ムツミがハルの行動に気付いて叫ぶ。ハルは気にせず、攪拌を終えたマドラーをグラスから引き抜いた。てろーんとやや粘性のある液体が垂れる。間違いなく白身だ。ハルは気にせずマドラーをアイスペールに突っ込んだ。
「おおー、小磯さん!これ、卵かけご飯の味がするよぉ」
 ハルはその液体を一口飲むと、大声で感想を言った。
「がははは、ハル、俺に報告しなくてもイイから」
「あ、木田さんも飲む?」
 さすがにこれはなんとなく腰が引ける。
「いや、遠慮します」

 ハルはこの後、ママに納豆と豆腐を出させると、それをグラスに追加した。
「おほほほ、いよいよハルちゃんスペシャルが完成だよぉ!」
 ハルは大きな体を揺すると、不気味な流動食のような液体を喜んで『食べて』いる。
「わはははは!もう止まんないよ、あいつは」
 小磯は爆笑している。ムツミは完全に引いてしまい、ハルに近寄らなくなっている。
「お、ソースもいけるね!」
 ハルはさらに異物を投入して行く。これは罰ゲームでも無く、イジメでも無い。ただ単に本人が自ら行なっているのだ。
「ちゃあ、酢は失敗だ、これはちょっとキツイなぁ!」
 ハルが大声で叫んでいる。

 この夜、私には彼の味覚のボーダーラインが理解できなかった。



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2 コメント

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このメニューは… (吉兆むカミヤミ)
2007-11-19 13:47:14
当店、舟場・吉挑むでも、やってみますかね?もちろん黄味は、ウズラのウコッケイというこの世に存在しない卵に、ウイスキーは新宿大黒家の最高級トリスで一杯、五万円程で出しましょうかね?マドラーは、三年殺しならぬ10年殺しのドンピ親方の「マラ」マドラーで、精神破壊しますかね?私の文章は、支離滅裂・頭大丈夫?状態ですが、まー、理解出来る親方も、相当なもんです。だも~ん。
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吉兆むマラマラ (どんぴ)
2007-11-20 01:03:11
えー、理解できる自分が怖いです(笑)
『ハルちゃんスペシャル』が常態化していたあの世界は、もうありません。
この前は『現役女〇大生キャバクラ』状態でした。「意気地なしぃー」っていう合いの手、ハマります・・・。
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