どんぴ帳

チョモランマな内容

くみたてんちゅ(その5)

2009-06-05 04:35:35 | 組立人

 木箱の開梱作業には、無くてはならない物がある。
 それはバールだ。
「金(キム)さん、バールは?(純日本語)」
 佐野がお客さんのA社の中国人担当者を捕まえて、工具を要求する。
「ア、バールね、チョット待ってネ、今探して来るカラ!(たどたどしい早口な日本語)」
「え?無いの?」
「アルよ、アルよ、大丈夫」
 今回の工事は、非常に特殊で、日本から一切工具が持ち込めないという条件だったので、必要な工具は全て客先で用意をしてもらうという話になっていた。
 五分後、鉄筋を加工した謎のバールが現れる。
「これ?これしか無いの?」
「コレじゃダメですか?」
「・・・」
 佐野は小さなため息を吐く。
「あ、インパクト(電動インパクトドライバー)は買った?」
「ア、買ったよ、買った、ダイジョブ、明日中には来るカラ」
「明日中なんだ…」
ヒルティのドリルは?」
「ア、ソレも明日来ます」
「キリ(ビット)はあった?」
「ソレは今探してるネ」
「まだみつかってないの?」
「大丈夫、大丈夫デス、必ず用意しますカラ!」
「・・・」
 佐野は私に小声で、
「一年前から工具をリストアップして、カタログもプリントアウトして、この中のどれでもイイから必要数量を揃えておいてくれって頼んだんだけどなぁ…」
 とブツブツ言う。
「ま、とりあえずこの『チョイ軽バール』だけでも持って来ておいて良かったよ」
 佐野は手荷物から小型のバールを取り出すと、清水に手渡した。
「どれから空けるんだ?こっちじゃ本体の据付工事が始まるし、あんまり広げられないよな」

 ここで早速、B社のアメリカ人監督、ジェイクの出番がやって来る。
「No.1からNo.5までを、まずは開けてくれ(純正英語)」
 ジェイクはすでに一度リタイアしたが、持っている技術を会社に評価され、六十歳を過ぎても現場で工作機械を組み上げているプロフェッショナルだ。
 もう一人は、毛深くてやや太めな典型的なアメリカ人デュークだ。
 彼らとの会話は英語なのだが、不思議と仕事のことに関しては、なぜか意思の疎通はさほど難しくはない。片言の英語でもそれなりに通じるのだ。

「うぉおおおらぁああ!(中国語)」
 機械本体の方では、中国人たちがバールを手に持ち、乱暴に木箱の解体を始めている。
「メリメリメリ、ドっばぁあああああん!」
 無理やり割りながら引き剥がした木箱の天井を、上から床に投げ捨てている。
「あーあーあー、なんでそこまで壊しながら開梱するんだよ、ウチよりも乱暴だな」
 佐野が笑いながら青龍の開梱作業を見ている。
「佐野さん、なんかこっちの木箱もウェハースみたいにパリパリと板が割れるんですけど…」
 私が初めての開梱作業で慣れないのもあるが、木箱の板は、バールを突っ込んで力を入れる度にバリバリと音を立てて割れてしまう。
「北京は空気が乾燥してるから、少しずつ釘を浮かして行かないとすぐに割れるからね」
 開梱作業にも、それなりのコツが必要な様だった。

 その日の仕事が終わると、私と佐野と清水、そして機械メーカーB社の日本人スタッフである新垣は、夕食を食べるためにちょっとだけ怪しい市場に向かった。



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