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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

アポカリプス 第十章 旅の仲間❽

2021-09-15 09:29:46 | ψευδεπιγραφία
<天使城大広間>

 粉雪交じりの木枯らしが、すっかり葉を落とした広葉樹の林を吹き抜け、枯れ草の広場に着地した天使城に吹き付けている。空を見上げると青空が見える。地吹雪の雪なのだろう。
 アスタロテからの使いに託された地図を頼りに、樹林帯を通る獣道のようなかすかなトレイルを辿り、漸く目的地へと着いた幸紀は、ロバの背で疲れた腰を伸ばしながら地上に降り立った天使城の姿を眺めていた。
 車寄せにある無人の厩舎にロバを留め、水と飼葉をあてがうと、感謝を込めてロバの背中をぽんぽんと叩いて別れを告げた後、玄関口へと繋がる階段を一歩一歩上って行く事とした
 30段ほど階段を上った所にある樫の板に鉄鋲を打ってこさえた巨大な扉を通り、幸紀は大広間へと続く前室へと入った。
 奇妙と言えば奇妙なものだが、地上に降り立ったこの城に入るのも初めてなら、正面からこの城に入るのも初めての事だ。沈黙騎士団に忍び込ませてある幸紀そっくりのマシンドールと入れ替わる為に出発した時には、中空に浮かぶ城の大広間から、直接跳んだからだった。
 それから、随分と長い時が経ったのだが、この城へ帰って来るのはそれ以来の事。玄関からこの城を訪れるのは初めてになる。

 思えば不思議な旅だった。跳んだ先が異端審問庁の秘密神殿。そこで私を迎えたのが審問庁の学問修道会であるアビゲイル会の幹部会員とマシンドール。マシンドールの記憶チップに収められた情報を頭に畳み込んでの大学町から大学町への旅。そして目的も定かでない任務の遂行。アスタロテのお手並み拝見といった気持ちで、半ば第三者的に執り行っては見たものの、分かって来た事と謎が深まった事が相半ばする旅だった。
 これもアスタロテと話してみれば分かる事。そう思いながら前室から大広間へと繋がる扉を開け大広間へと足を踏み入れた。

 以前は開け放たれていた側廊は外光を柔らかに取り込む壁となり、冬の冷気を遮断している。暖炉などの暖房機器は見当たらないが扉を開けると暖かい空気が幸紀を包んだ。空気自体が暖められているのだろう。
 大広間の中にはだれも見当たらない。水を止めた噴水の前をよぎり巨大な玉座の前まで来たがアスタロテの姿はない。前回はあたりをうろうろとしていた自動人形達の気配もない。只静寂と暖かい空気だけが幸紀の帰還を迎えた。

 やがて奥のドアが開き、幸紀と入れ替わりに城へと帰ったマシンドールが姿を現した。見れば見るほど幸紀そっくりだ。幸紀の前まで来るとマシンドールは一礼をして口を開いた。
 「お帰りなさい幸紀様。現在私はこの城の執事を勤めております。ふつつかとはいえ、自動人形どもよりは聊かでも役に立つとのアスタロテ様のご判断です。
 アスタロテ様よりのご伝言です。あなた様のご帰還は承知していたのですが、よんどころない事情で秘密神殿へと跳ぶ必要が生じた。今夜には戻る予定であるので、一休みして旅の疲れを落としておいて欲しい。との事です。さあこちらへおいでください。」

 先程マシンドールが姿を現した扉を通り、長い回廊の先へと案内された。此方に着地してから随分と模様替えがされたらしい。それとも地上部分として以前から存在していたものなのだろうか。回廊の先は小さなヴィラとでも呼べるようなものだった。マシンドールに渡された鍵を開けると、大広間同様暖められた空気が幸紀の体を柔らかく包みこんだ。

 居間に用意されていた果物とチーズの軽い食事を食べ一息入れると両脇の部屋を覘いて見る事とした。左側の部屋は天蓋つきの巨大なベッドが置かれた寝室。アントルメもしっかり用意されている。
 相変わらずの趣味だな、と苦笑いしつつ一端居間に引き返し、右側の部屋を覘くと、こんこんと湧き出るお湯をたたえた浴室だった。
 折角のご馳走と、旅に疲れた体を湯船に横たえると湯は浴槽の下から湧き出ている事が分かった。豪勢なものだ。そう思いながらゆっくり疲れを落とすと、ベッドに潜り込みすこし休む事とした。

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