ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

千葉都市モノレールの延伸を断念

2019年09月05日 00時47分50秒 | 社会・経済

 2012年1月31日、或る用事で千葉市に行きました。その折に千葉都市モノレール1号線および2号線の全線に乗ったのですが、2号線はともあれ、1号線の千葉駅から県庁前駅までの区間は、正直なところ、何のために開通させ、列車を走らせているのか全く意味がわからなかったのです。このような思いは、2009年12月に神戸市営地下鉄海岸線を利用した時にも浮かびましたが、千葉都市モノレール1号線の千葉〜県庁前のほうがさらに強かったのでした。

 何しろ、千葉都市モノレール1号線の栄町駅は隣の千葉駅から歩いて10分ほどで着いてしまうような場所にある上に、周辺が周辺であるだけに驚くほど利用客が少なく、次の葭川公園駅も京成千葉駅から歩いて数分の所にあり、終点の県庁前駅に至っては本千葉駅から歩いて5分もかからないような場所にあります。

 もっとも、当初からこのような路線が計画されていた訳ではありません。京成千原線千葉寺駅を通るルートも考えられていたそうですが、結局は市立青葉病院までということになったのです。しかし、県庁前から市立青葉病院までは未開業のままです。

 また、2号線の穴川駅から総武本線稲毛駅、さらに京葉線稲毛海岸駅までのルートも計画にあげられていました。これについても決定までに色々とあったようです。

 ともあれ、県庁前〜市立青葉病院、穴川〜稲毛海岸(厳密さを欠くのですが、以下もこのように記します)の2ルートが最終的な延伸計画として存在しているのですが、1号線、2号線のいずれも利用客が少ないためにかなりの赤字を計上しており、延伸計画は凍結されていました。しかし、2017年9月、千葉市は「脱・財政危機宣言」を解除します。モノレールの延伸計画を進めるためであったようです。そして、千葉市の2018年度予算には、いわば調査費として1800万円を計上し、2ルートの延伸についての再検証業務を外部機関に委託したそうです。

 その結果、昨日(9月4日)に、千葉市は2ルートの延伸計画を中止すると発表しました。これは正式発表のようです。日本経済新聞社が2019年9月4日の12時8分付で「千葉都市モノレール、延伸中止を正式決定 採算性低く」として報じています(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49390330U9A900C1L71000/)。

 千葉市は、昨日、調査結果、というより再検証結果を公表しました。どちらを見ても、費用対効果の面でアウトということです。

 まず、県庁前〜市立青葉病院です。1.9キロメートルで、次のような数字が並びます。

 概算整備費:196億円(そのうち、千葉都市モノレールは23億円を負担)

 1日あたりの利用者数:3200人

 費用便益比:0.87

 続いて、穴川〜稲毛海岸です。4.3キロメートルで、次のような数字が並びます。

 概算整備費:494億円(そのうち、千葉都市モノレールは80億円を負担)

 1日あたりの利用者数:1200人

 費用便益比:0.73

 かなり厳しい数字と言えるでしょう。とくに、穴川〜稲毛海岸のルートで1日あたりの利用者数が1200人というのは、いかにモノレールといえども低いと感じます。輸送密度に換算すると1980年代の特定地方交通線と同じくらいなのでしょうか。

 上記日本経済新聞社記事には、県庁前〜市立青葉病院について次のように書かれています。

 延伸計画の凍結前に千葉市が行った試算では、建設費が176億円(街路整備なども含む)、一日あたりの平均乗客数はおよそ8800人増え、費用便益比は3.57で、延伸からおよそ30年後には千葉都市モノレールがおよそ83億円の増収となる。

 随分と楽観的な数字とも言えますが、市立青葉病院は京成千原線千葉寺駅から1キロメートルほど離れた場所であるようなので、多少は増えると考えたのでしょう。ただ、一日あたりの平均乗客数がおよそ8800人増えるというのは、一体どういう根拠に基づくのかと疑われるところでしょう。上記日本経済新聞社記事には「そもそも市試算では延伸ルートと競合する民間のバス路線が全て廃止されるなど、採算性を水増しするための現実離れした前提条件が設定されていた」と書かれており、公共事業によくある話であるだけに呆れられるでしょう。仮に競合バス路線が全て廃止されたとしても、様々な要素を考慮すれば、私のような素人でも合わないと考えます。

 一般に、モノレールの輸送力は普通鉄道(JRや地下鉄などのように、2本のレールの上を車両が走行する鉄道)よりも小さく、普通鉄道が大規模輸送に向いているとすればモノレールは中規模輸送に向いているともいわれます(交通経済学などの本に書かれていることのうろ覚えです)。また、軌道そのものの建設費は安価かもしれませんが、車両の値段や維持費はどうなのでしょうか。千葉都市モノレールは懸垂式のうちのサフェージュ式を採用していますが、日本では他に湘南モノレールしかありません(東京都交通局上野懸垂線は独自の懸垂式を採用しています)。車両は高価になるでしょう。しかも、普通鉄道である中小私鉄では当たり前の、どこかの鉄道会社(例えば関東の大手私鉄)から中古車両を購入するということは、モノレールの場合は現実の問題としてほぼ不可能です。また、車輪にゴムタイヤを使っていれば、鉄の車輪とは比べものにならないほどに消耗が激しいでしょう。維持費などを考えると、費用対効果、費用便益比は普通鉄道よりも悪いのではないでしょうか。その他、高齢化の進展を考慮に入れるならば、モノレールよりもバスのほうが相応しいとも言えます。

 千葉市は、費用便益比を最重要視し、その結果として千葉都市モノレールの延伸計画の2ルートをいずれも断念することとしました。延伸すれば千葉市の財政にも多大な負の影響が及ぶことになるからです。千葉都市モノレールは第三セクター会社で、千葉市は発行済み株式の実に9割以上を保有する筆頭株主です(かつては千葉県も株主でしたが、13年前に手を引きました)。そのため、延伸が実現しても利用客数が伸び悩めば、会社はもとより千葉市も重い負担が課せられることとなります。

 それでは、延伸計画を中止すれば話は終わるのでしょうか。そうとは言えないような気もします。むしろ、中止によって1号線の千葉〜県庁前の区間については、ますますその存在意義を問われることにならないのでしょうか(他の区間についても同様かもしれません)。人員削減、減資などの手を打ってきているそうですが、既存の路線についての今後の見通しを知りたいところです。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 宮古島市、住民訴訟の原告を... | トップ | 地方拠点強化税制の延長希望 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

社会・経済」カテゴリの最新記事