ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

川崎市はプール水流出について職員に損害賠償を請求すべきである! 場合によっては住民監査請求、さらに住民訴訟がなされてもよい。

2024年06月20日 09時00分00秒 | 国際・政治

 2023年5月、川崎市立稲田小学校において、プールへの注水作業中のミスで大量の水が溢れるという事件が発生しました。

 今でもNHKのサイトで見られる「川崎 学校プールの水出しっぱなし 教員の損害賠償どこまで?

 常識的に考えれば、当然、普通に考えれば、当然、損害賠償が請求される事件です。川崎市は、2023年8月に校長と教諭に、およそ半額にあたる95万円ほどを弁償するように求めました。時期は不明ですが、校長は支払ったそうです。しかし、教諭は払っていません。

 具体的な事情がわからない部分もあるのですが、一般論として、何故に損害賠償請求の撤回などを求める請願が出されたり、請求の取り下げを求める署名活動が起こるのか、理解できません。請願を出した人たち、署名活動を起こした人は、例えば自分のうちを水浸しにされて何の文句も言わないのでしょうか。

 会社で同じような事件が発生したら、会社は従業員に損害賠償を請求するなど、何らかの措置を採ることでしょう。会社が損害を受けたのですから。

 こんなことを書いたのは、2024年6月19日付の朝日新聞朝刊17面14版川崎版に「プール水流出 教員に賠償求めないで 稲田小の辞令を受け川崎労連が市議会に署名提出」という記事が掲載されたからです。朝日新聞社のサイトには2024年6月19日10時45分付で「プール水流出 教員に賠償求めないで 川崎労連が市議会に請願」(https://www.asahi.com/articles/ASS6L45VZS6LULOB006M.html)として掲載されています。

 この記事によると、「川崎市教育委員会が校長と注水を担当していた男性教諭に上下水道代約190万円の半額(約95万円)を損害賠償請求し、校長側が支払ったことを受けて、川崎労働組合総連合(川崎労連)は18日、今後同様の事例で教員に賠償を請求しないことなどを求める請願署名2194筆を市議会に提出した」とのことです。これは、川崎労連が記者会見を開いて明らかにしたことです。「請願では損害賠償請求の撤回や、納めた賠償金を返金することも求めた」というのです。

 前述のように、詳しい事情がわからないという留保は付けておきますが、この記事を読まれて「ふざけるな!」、「何を考えているんだ?」とお思いの方もおられるでしょう。被害を受けた者が弁償を求めるのが当然の事例であるからです。プールの注水装置が故障していたというような事情があれば話は多少とも変わってきますが、作業ミスということであれば、担当者が、損害賠償あるいは弁償の請求などの形で何らかの責任を問われるのが当然です。

 一般論として、何故に損害賠償請求の撤回などを求める請願が出されたり、請求の取り下げを求める署名活動が起こるのか、理解できません。請願を出した人たち、署名活動を起こした人は、例えば他人に自分のうちを水浸しにされて何の文句も言わないのでしょうか。浴槽に大量の水を入れて風呂場から部屋からが

 地方公務員法には、この事件などのようなケースに関して、地方公共団体が職員に対して損害賠償請求を行うことを禁止する規定がありません。労働法とされる諸法律にもありません。労働基準法第16条があるではないかという声が聞こえてきそうですが、この規定が禁止するのは労働契約の不履行について違約金を定める契約、または損害賠償額を予定する契約を使用者が行うことであり、労働者の責任によって生じた損害について弁償なり損害賠償なりを求めることまでは禁止していません。むしろ、プール水流出については、民法第709条以下や国家賠償法第1条が適用されることになるでしょう。もっとも、国家賠償法第1条第1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる」、同第2項は「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する」と定めていますので、適用は難しいかもしれません。プール水流出事件で損害を加えられたのは「他人」でなく「公共団体」自身であるからです。しかし、公務員が故意または過失によって「損害を加えた」ことに変わりはありませんし、第1項または第2項の類推適用は可能でしょう。

 川崎市議会は、川崎労連の請願を受けて川崎市が損害賠償請求を撤回する、および既に支払われた賠償金を返還するというような趣旨の議決をするべきではありません。そのような動議などが出されたら否決するのが筋であり、市議会として果たすべき態度です。

 川崎市は、あくまでも損害賠償請求を行い、確実に職員に弁償をさせるべきです。

 仮に川崎市が損害賠償請求を撤回する、および既に支払われた賠償金を返還するということをしたのであれば、川崎市民から住民監査請求が提起されるべきです。その結果によっては住民訴訟が提起されるべきでしょう。地方自治法第242条第1項および同第242条の2第1項にいう「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」および/または「違法若しくは不当な公金の支出」に該当すると解されるからです。


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