ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第26回 行政手続法〜事前手続に対する統制〜 その4:行政指導、「処分等の求め」、届出、意見公募手続等

2021年02月11日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 7.「行政手続法」の構造その4  行政指導

 行政指導については、既に「第17回 行政指導において扱ったので参照していただきたいが、2014年に「行政手続法」に追加された第36条の2については、ここで取り上げる。

 同条は「行政指導の中止等の求め」を定める。これは、行政指導の相手方が、その行政指導が違法であると思料するときに行政機関へその旨を申し出て、その行政指導の中止などの措置を求めることができる、というものである。

 但し、全ての行政指導について措置を求めることができる訳ではない。対象となるのは「法令に違反する行為の是正を求める行政指導」であって、「その根拠となる規定が法律に置かれているもの」に限定されている(同第1項)。より具体的には、次のような行政指導である。

 ・法令に違反する行為そのものの中止を求める行政指導

 ・法令に定められる基準に適合するように必要な措置を講ずることを求める行政指導

 ・法令に違反する行為により生じた違法な状態を適法な状態へ回復する措置を求める行政指導、など。

 相手からの求めを受けて、行政機関は調査を行い、その結果により中止など必要な措置をとらなければならない(同第3項)。しかし、「求め」を申し出たものに対する行政機関の通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。

 

 8.「行政手続法」の構造その5  「処分等の求め」 

  やはり2014年の改正により、「行政手続法」に「処分等の求め」に関する第4章の2が追加された。この章の規定は第36条の3のみであるが、これまで事実上の手続として行われた嘆願〈森稔樹「租税法における行政裁量」『日税研論集65 税務行政におけるネゴシエーション』(2014年、日本税務研究センター)237頁も参照〉などを、多少なりとも法的な意味のある行為とするものとして、注目しておく必要はある。

 「行政手続法」第36条の3第1項は、「何人も、法令に違反する事実がある場合において、その是正のためにされるべき処分又は行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)がされていないと思料するときは、当該処分をする権限を有する行政庁又は当該行政指導をする権限を有する行政機関に対し、その旨を申し出て、当該処分又は行政指導をすることを求めることができる」と定める。

 「求めることができる」ものは、「法令に違反する事実」を是正するためになされるべき処分または行政指導であるが、行政指導については、同第36条の2第1項と同様に法律に根拠規定があるものに限定される。

 上記の「求め」を受けた行政庁・行政機関は、必要な調査を行い、必要があると認めるときには「処分」または行政指導を行う義務を負う(同第36条の3第3項)。但し、同第36条の2と同様に、「求め」を申し出た者に対する通知義務は定められていない。従って、申し出た者は、行政機関に対して結果に関する通知を求める権利を有しない。

 

 9.「行政手続法」の構造その6  届出

 「行政手続法」制定以前の法令においては、届出制と許可制との区別が曖昧であり、法令により意味が異なるなど、多くの問題を引き起こしていた。行政手続法は、申請と届出との区別を截然と示し、交通整理を図った。

 届出は、「行政手続法」第2条第7号により、「行政庁に対し一定の事項の通知をする行為(申請に該当するものを除く。)であって、法令により直接に当該通知が義務付けられているもの(自己の期待する一定の法律上の効果を発生させるためには当該通知をすべきこととされているものを含む。)」と定義される。ここから、届出の場合、行政庁は内容に関する要件審査権限を持たないことがわかる戸籍法などの場合は、「届出」という文言が用いられていても、内容に関する要件審査権限が行政庁に認められるので、行政手続法第2条第7号にいう届出に該当しない

 念のため、届出と申請とを比較し、相違点をみよう。

 まず、届出は、私人から行政機関へ、何らかの事柄を知らせることである。私人は、行政機関に対して何らかの行為を求めていない。従って、届出に対して行政機関の意思や判断がなされることはないし、なされてはならない。

 これに対し、申請は、私人から行政庁へ、何らかの行為(例.許可、認可)を求めることである。従って、ただの通知ではない。申請を受けた行政庁は、要件などを審査する権限を有し、応諾または拒否の意思や判断を示す義務を負うこととなる

 同第37条は、私人による届出の形式的な要件が充足されているならば、行政機関の事務所に到達したときに、届出の効果が生じることになる旨を定める。すなわち、私人が行った届出が行政機関の事務所に到達した段階で、私人の手続上の義務が履行されたことになる。このことから、行政機関は、届出が形式上の要件を充足しているならば、不受理(受理の拒否)や返戻などという扱いを行ってはならない(第37条にも規定される)。

 それでは、届出の形式上の要件が充足されていない場合は、どのように扱われるべきであろうか。この点について「行政手続法」には規定が存在しない。そのため、個別法の解釈に委ねられることとなる行政管理研究センター編『逐条解説行政手続法』〔27年改訂版〕(2015年、ぎょうせい)286頁。塩野宏『行政法』〔第六版〕(2015年、有斐閣)341頁も参照。 

 

 10.「行政手続法」の構造その7  意見公募手続等

 〔1〕行政立法手続としての意見公募手続等

 前述のように、「行政手続法」第6章は2005年の改正により追加された。これにより、「行政手続法」に行政立法手続の規定が加わったこととなる。同章に定められる意見公募手続等の前提を示すのは、第38条が示す「命令等を定める場合の一般原則」であるが、中心となるのは意見公募手続を定める第39条である。

 〔2〕「命令等」の意味

 意見公募手続等は、「命令等」の制定に際して行われるべき手続である。そこで、「命令等」の意味をみておくこととする。

 「行政手続法」第2条第8号は「命令等」を、内閣または行政機関が定める、法律に基づく命令(処分の要件を定める告示を含む)または規則、審査基準、処分基準および行政指導指針と定義する。ここで、「法律に基づく命令」は政令、省令および告示(処分の要件を定めるもの)を意味するが、同第39条に定められる意見公募手続の対象は、「命令等」から、地方公共団体の機関が定める行政立法を除外したものである(同第3条第3項、同第46条も参照)。

 〔3〕「命令等を定める場合の一般原則」

 同38条は「行政手続法」において数少ない実体法的な規定である。同第1項は「命令等を定める機関(閣議の決定により命令等が定められる場合にあっては、当該命令等の立案をする各大臣。以下「命令等制定機関」という。)は、命令等を定めるに当たっては、当該命令等がこれを定める根拠となる法令の趣旨に適合するものとなるようにしなければならない」と定め、行政立法を制定する際の一般原則を示す。また、同第2項は「命令等制定機関は、命令等を定めた後においても、当該命令等の規定の実施状況、社会経済情勢の変化等を勘案し、必要に応じ、当該命令等の内容について検討を加え、その適正を確保するよう努めなければならない」と定めている。

  いずれも当然の事柄を規定しており、まさに確認的規定である塩野・前掲書343。しかし、同第2項に定められた努力義務が重要視されている。

 〔4〕意見公募手続

 「行政手続法」第6章に規定される意見公募手続の大まかな流れを示すと、次のとおりである。

 「命令等」の案および関連資料の公示(同第39条第1項)→一般の意見・情報の公募(同項)→提出された意見・情報の考慮(同第42条)→結果の公示(同第43条)

 「命令等」の案は、命令等制定機関が作成することとなるが、その内容は、具体的かつ明確でなければならない。また、当該命令等の題名、当該命令等を定める根拠となる法令の条項を明示しなければならない(同第39条第2項)。

 案の公示は、勿論、広く国民(等)からの意見・情報の公募のためであるが、そのための期間、すなわち意見提出期間が設けられなければならない。この期間は、原則として、公示の日から起算して30日以上でなければならない(同第39条第3項。但し、同第40条第1項を参照)。

 但し、委員会等の議を経て命令等を定めようとする場合で、委員会等が意見公募手続に準じた手続を実施したときには、命令等制定機関が自ら意見公募手続を行う必要がない(同第40条第2項。準用については同第44条も参照)。

 一方、意見公募手続の実施の周知や、当該手続の実施に関連する情報の提供は、命令等制定機関の努力義務とされている(同第41条)。

 意見公募手続は、「命令等」の案に対する意見・情報を募り、案に国民(等)の意見などを反映させるための手続であるから、意見提出期間中に提出された意見・情報を命令等制定機関は十分に考慮しなければならない(同第42条。行為義務である)。ここで考慮しなければならないのは、意見・情報の内容を考慮する義務であり、意見の多数・少数は無関係である。また、考慮することが義務づけられているのであって、提出された意見や情報を命令等に反映させるか否か、どの程度まで反映させるかは、命令等制定機関の判断に委ねられる。すなわち、命令等制定機関は、国民(等)から提出された意見・情報を必ず、命令等の内容に反映させなければならないという訳ではない行政管理研究センター編・前掲書317

 意見公募手続の最後として、結果の公示(等)がある。これは第43条に定められており、原則として、同第1項各号に掲げられた事項を、当該命令等の公布(または公にする行為)と同時期に公示しなければならない。

 ・「命令等の題名」(同第1号)

 ・「命令等の案の公示の日」(同第2号)

 ・「提出意見(提出意見がなかった場合にあっては、その旨)」(同第3号)

 ・「提出意見を考慮した結果(意見公募手続を実施した命令等の案と定めた命令等との差異を含む。)及びその理由」(同第4号)

 結果の公示(等)が求められる理由は、次の点に求められると考えられる。

 ・命令等制定機関による判断の合理性を担保すること。

 ・命令等制定機関の判断の合理性、同機関が意見・情報を十分に考慮するという義務を果たしたか否かについて、国民が検証する機会や材料を得ること。

 ・命令等制定手続の公正性の確保と透明性の向上。

 ・命令等制定手続に対する国民の信頼を確保すること。

 審査基準・処分基準を「公にすること」の方法が行政庁の裁量に委ねられているのに対し、意見公募手続等の結果としての公示については「行政手続法」に明文で定められている。すなわち、同第45条第1項は、公示を「電子情報処理組織その他の情報通信の技術を利用する方法」により行うものと定める。ここにいう「電子情報処理組織」は行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律第3条に定義されている言葉であり、インターネットを意味する。従って、意見公募手続の公示については、インターネット上のウェブサイトを利用することが義務づけられるのである。

 

 ▲第7版における履歴:2021年2月11日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年11月30日掲載(「第16回 行政手続法−事前手続に対する統制−」として)。

              2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。


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