昨日、推理小説『ザリガニの鳴くところ』を読み終えました。
全米では700万部突破! 日本では2021年本屋大賞1位・・・500ページを越す大著。
https://mimipon5.blog.fc2.com/blog-entry-116.html
今年夏に映画にもなるようです。
https://kirakiraperry.com/movie/wherethecrowdadssing/
湿地の少女カイヤ。元々は両親と兄弟のいる家族でした。しかし父親が戦争で負傷して帰り、それから酒と暴力・・。まず母が家を出、その後年上の兄弟から次々と。最後は父とカイヤだけ。その父もどこかへ・・。
カイヤは貝や魚を採って町に行き、たった一人親切にしてくれる黒人の雑貨屋に、それを売って暮らします。
教育委員会が学校へ通えと・・。蔑まれ笑いものにされ、たった1日だけ、2度と学校へはいきません。野生の少女カイヤも思春期を迎え、大人になります。町に住む人気者、ラグビーの名手チェイスが湿地に住む女のことを聞きつけ・・、そして純真なカイヤは・・。
暫くしてチェイスは深夜にヤグラの上から落ちて怪死。事故か事件か!カイヤに容疑がかかります。カイヤにはその動機があります。そして状況証拠も。しかしカイヤにはアリバイがあります。
カイヤは出版社から招かれてその日は長距離バス、目撃者もいます。その完璧なアリバイが・・・
裁判での検察官と弁護士の息もつかせぬ戦い・・第1級の推理小説です。
でもこの本の真の論点は、そこにはありません。
著者は米国の著名な動物行動学者。
クジャク美しい翼が性選択によるものであることは広く知られています。
では、メスギツネが我が子を見捨てること、カマキリは交尾中にメスがオスを食べてしまうこと、ホタルが発光シグナルの速度を変えて別種のホタルを誘き寄せ食べてしまうことは・・。
生物の生殖に関わる興味深い行動の進化がいくつも出てきます。
このホタルの行為が、人間の怖さを表しています。蛍も騙すなら人も騙す・・。この怖さ・・この物語の一番怖い部分です。
そして、P498(訳本)・・いよいよ最後の部分です。
ここで著者は「人間の愛には、湿地の生物が繰り広げる奇怪な交尾競争以上の何かがある」と述べています。
この物語の真髄はこの言葉にあります。
著者は生物学者です。現代の進化理論を尊重しています。
でも最後に彼女は、人間には、生物の宿命である生殖を超えた何かがあると主張します。
人間は、生物の持つ宿命を超えています。今年の市民シンポジウムは人間の利己性と利他性、生物の宿命を超える何か・・まさにこれがテーマでした。
来年4月の市民シンポジウムでは、さらにこの点をもっとクリアーにしたいと思います。
素晴らしい本に出会いました。