大工風の道

仮設住宅ってわけでもないけれど、
ま、しばらくここで様子みようっと。

「悲愴 第3楽章」…仕事よりも大切なこと

2007年11月17日 | 音楽
「もうすぐですよ」と施主さんから電話で、元請のT上氏とふたり、急いで現場をでる。

ちょうど軽バンで出かける施主さんちのおばあちゃんに、場所を確認。
「ここまっすぐいって…」
「郵便局からの通りより向こうでしたっけ?」

すこし車を進ませてから、もう一度止まって、「うしろにのりな」の手振りに、座席のない後部に乗り込んで、同じ敷地にピザ屋のある、その家の前まで。

酒蔵あとを改修した、古いお店の向かいの離れで、やがて流れてきたのは、…

 「悲愴」第3楽章…。

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6月の棟上、そして7月の後半から造作工事で詰めて4ヶ月。
漁港のあるこの町に、慣れ親しんできたころ。




今日でこの現場に詰めるのも終わり。
もっとも少し残工事もあるので、あらためて後日、出直すのだけれど。

いつもと同じ朝、県道777号線、松阪伊勢自転車道の標識も見慣れたもの。
最終日の今日は、朝から現場の片付けと、内装の柿渋塗装のお手伝い。

毎日夕方、隣の母屋から施主さんの娘さんのピアノの音が聞こえてきた。
「ただいま~!」と元気に帰ってくる中2のお姉ちゃんと小学生の妹がいて、お姉ちゃんの弾くピアノを毎夕聞きながら、作業、片付けをした。
いつの間にか口笛で、いっしょにあわせながら。

ベートーベン作曲「悲愴」第3楽章。

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今日はちょうどその発表会。
近所のピザ屋のとなりの教室。




部屋が狭いので、私らは建物の前からそっと聴く。
仕事抜け出して、きてよかった。
こんな時間、大切だよ。


現場へ一足先にもどって、やがて帰ってきたお姉ちゃんに「よかったよ」と。
柿渋の臭いに最初閉口していた姉妹も夕方から一緒に塗ってくれた。

まるで家族のような、こんな作り手と住まい手の関係をも、新しくできたお国の法律によって、間もなく厳しく取り締まられてしまう。

瑕疵(かし)保険がどうとか、保証金供託がどうとか、まったくどうかしているよ。

もっともそうでもしなけりゃいけないほど、悪徳業者も多いってこともあるんだろうけど。



さて、なにはともあれ、大変だったけれど、なにかと楽しい現場だったよな。
お施主さん本当にありがとう。

これからこの曲を聴くたびに、この現場のことを思い出すんだろうな。

来週からは自分はまた次の場所へ…。
施主さんが買ってきてくれたピザは、また格別の味だった。